第5話 名前を持たない組織は、ただの集団だ
武器の話をしてから、三日後。
俺たちは街の外れにある廃倉庫を使うことになった。
「ここが、工房だ」
そう言うと、兵たちは戸惑った顔をする。
武器工房といえば、鍛冶場を想像していたのだろう。
「剣を作るわけじゃない。
使える武器を作る」
まず手を付けたのは、短槍だった。
刃を小さくし、柄を軽くする。
刺すことに特化し、振り回さない設計。
「これなら、陣形を崩さずに使える」
次に、簡易弩。
複雑な構造を削り、装填を単純化する。
「狙いは雑でいい。
当たれば、敵は止まる」
魔法使いと話し合い、投擲用の魔力結晶も試作した。
爆発ではなく、視界と動きを奪うための道具だ。
訓練場で試すと、効果はすぐに出た。
兵たちの動きが揃い、
恐怖よりも、理解が先に来る。
「これなら……戦える」
誰かが、ぽつりと言った。
俺はそれを聞いて、うなずく。
武器は、勇気を与える。
正しく使えれば、なおさらだ。
数日後、指揮官――いや、もう一人の“顧客”がやってきた。
「正式な話をしに来た」
俺たちは、倉庫の中で向かい合った。
「君たちを、一時雇用ではなく――
独立した傭兵組織として認めたい」
条件は、悪くない。
報酬、作戦裁量、契約期間。
俺は一つだけ、追加条件を出した。
「俺たちは、軍の下請けじゃない。
対等な契約相手だ」
指揮官は少し考え、そしてうなずいた。
「分かった。
名前は?」
その言葉を聞いて、俺は一瞬だけ黙る。
名前は重要だ。
組織に、意味を与える。
「――《アイギス・コントラクターズ》」
盾を意味する言葉。
守るために戦う請負人。
「防衛と介入を専門とする傭兵会社だ」
指揮官は、その名を繰り返した。
「……いい名だ」
契約書に、署名が入る。
この瞬間、
俺たちは“集団”から“会社”になった。
夜、焚き火の前で、十二人が集まる。
「今日から、俺たちは傭兵だ」
俺は言った。
「英雄じゃない。
国家の犬でもない」
誰も、目を逸らさない。
「俺たちは、
生き残るために、勝つ」
沈黙のあと、誰かが短くうなずいた。
火が、静かに燃えている。
こうして、異世界に――
一つの傭兵会社が生まれた。
戦争は、まだ終わらない。
だが、これからは――
俺たちが、管理する。
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