第4話 最初の仕事は、小さな戦争だった

任務内容は単純だった。


「街道沿いの補給隊を守れ。敵は盗賊崩れの武装集団だ」


報酬は安い。

だが、条件は悪くない。


小規模、限定戦域、明確な防衛目標。

――部隊の初仕事としては、ちょうどいい。


俺は地図を地面に広げ、十二人を集めた。


「正面衝突はしない。

 目的は敵の殲滅じゃない。補給隊を通すことだ」


兵士たちの顔に、緊張が走る。

訓練とは違う。本物の戦闘だ。


「敵は数で勝ってる。

 だから――戦わせない」


街道の左右は低い丘と林。

伏兵を張るには、最適だった。


俺は役割を割り振る。


盾役二名を前方。

弓兵と魔法使いを高所。

残りは側面に配置。


「俺の合図まで、誰も動くな」


時間が流れる。


やがて、補給馬車が見え、

その後ろから――敵も現れた。


予想通り、盗賊たちは正面から出てくる。

無警戒。斥候もいない。


「……今だ」


俺の合図で、側面から矢が飛ぶ。

高所からの魔法が、街道を封鎖する。


敵は混乱した。


「な、なんだ!?」

「伏兵だ!」


盾役が前に出て、進路を塞ぐ。

俺は叫ぶ。


「追うな! 深追いするな!

 敵が逃げるなら、それでいい!」


訓練通り、兵たちは止まった。


逃げる敵。

守られる補給隊。


戦闘は、数分で終わった。


死者は出ていない。

こちらも、敵もだ。


……上出来だ。


補給隊の責任者が、震える声で言った。


「た、助かりました……

 こんな戦い方、初めて見ました」


「普通だ。

 ただ、ちゃんと準備しただけだ」


兵たちの顔に、達成感が浮かぶ。

“勝った”というより、“生き残った”という顔だ。


俺はそれでいい。


夜、陣に戻ってから、俺は指揮官に呼ばれた。


「……噂以上だな。

 あれが君の言う“仕事”か」


「ああ。

 戦争を、管理する」


俺は焚き火を見つめながら続けた。


「だが、このままじゃ限界がある」


「何が足りない?」


俺は即答した。


「武器だ」

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