第27話 4階層守護者

 



 階段を降りると小広場となっていた。


 そして20メートル先に黒い門があり、その前に剣を持ったコボルトと通常のコボルトが4匹立っていた。


 剣を持ったコボルトはコボルトリーダーと同じく、通常のコボルトより一回り大きく筋骨隆々だ。さらに奴は革の胸当てのような防具を身に付けている。


「ほう」


 初めての武器持ちの敵に自然と口角が上がる。


 ホーンラビットやコボルトはただの獣だった。だがコイツは違う。武器を使う知恵があるようだ。


 コボルトソルジャーとでも名付けるか。


 そのコボルトソルジャー率いる4匹のコボルトへの奇襲は不可能だ。


 全員が階段から降りて来た俺へと視線を向けている。だが動く気配はない。


 コボルトソルジャーの口元が歪む。


 なるほど、俺が階段を上がって逃げるのを警戒しているのか。


「ククク、舐められたものだな」


 それならそれでいい。


『身体強化』 『ファイアーボール』『ファイアーボール』『ファイアーボール』


 俺は身体強化の魔法を発動し、ファイアーボールを中央のコボルトソルジャーと左右のコボルトへと向け放つ。


 そしてそれと同時に左側の壁に向かって駆け出す。


 コボルトソルジャーとコボルトたちは、放たれたファイアーボールを見た瞬間に左右に散開。


 その結果、ファイアーボールは誰もいなくなった場所に着弾。


 コボルトもコボルトソルジャーも無傷だ。


 だがそんなことは最初からわかっている。ファイアーボールはお前らが連携できないよう引き離すための牽制だ。


「オラァ!」


 俺から見て左側に退避し、ファイアーボールが燃える場所へ視線を向けている2匹のコボルトの首を背後から次々と刎ねる。


 そして中央で燃えているファイアーボールの残り火を目隠しに、反対側に退避したコボルトソルジャーへ向け魔法を放つ。


『ウィンドカッター』 『ウィンドカッター』


『ギャンッ!』


「よしっ!」


 2発放ったウィンドカッターのうち1発がコボルトソルジャーの太ももを深く切り裂くことに成功し、コボルトソルジャーは片膝をついた。


 チャンスとばかりにファイアーボールを放つが、右側に退避していたコボルト2匹がコボルトソルジャーの前に立ちはだかり盾となる。


「泣かせるじゃねえか!」


 全身を炎に包まれるコボルト2匹に舌打ちをしつつ、俺は2匹を回り込みコボルトソルジャーへと接近する。


 が、すでにコボルトソルジャーは痛みに顔を歪めつつも立ち上がっていた。


「くたばれ犬っころ!」


 しかしそんなことには構わず、俺は一気に間合いを詰めマチェットを振り下ろす。


 ギンッ!


 コボルトソルジャーの剣がそれを阻む。


 俺はそのまま一歩踏み込み、左腕の小盾でコボルトソルジャーを吹き飛ばす。


 足を怪我し踏ん張りが利かなくなっていたのだろう。コボルトソルジャーはよろめきながら数歩下がる。


 その隙を逃さず瞬時に間合いを詰め、マチェットを横薙ぎに振るう。


 コボルトソルジャーは慌てて剣で防ごうとするが、マチェットがコボルトソルジャーの首へ到達する方が早かった。


「ふぅ……」


 目の前で首を刎ねられ、崩れ落ちるコボルトソルジャーを見届けながら息を吐く。


 最初に足を傷つけることができたお陰で楽に戦えたな。力と速度が厄介な魔物だ、機動力を削げたのは大きい。


 それとコボルトソルジャーが剣を使うことに拘っていたのもよかった。なりふり構わず接近されて噛みつかれる方が面倒だったかもしれない。


 そう考えるとコボルトリーダーの方がやりにくかったな。


 戦いを振り返りながらコボルトソルジャーが黒い粒子となって消えていくのを見送る。


 するとそこにはコボルトリーダーと同じ色と大きさの魔石が残った。


「同じEランクか、まあこんなもんか」


 コボルトリーダーに剣を持たせただけかよと思いつつ、黒い門へと視線を向ける。


 するとその前には銅の宝箱が鎮座していた。


「本日2つ目の銅の宝箱には何が入っているかね」


 初めて1日に2度も銅の宝箱を目にした俺は、期待を胸に宝箱を開ける。


「革鎧か」


 宝箱の中には灰色の革鎧が入っていた。


 手に取ってみると、かなり大きいというか長い。


 今まで着ていた革鎧は腰までの長さしかなかったが、この灰色の革鎧は太ももまでの長さがある。


 形はスタイリッシュでなかなかにカッコよく、腰から確か草摺くさずりと呼ばれるすだれのような物が股間と両太ももへ3つ垂れ下がっている。


 革自体もかなり頑丈そうに見える。


「宝箱にこれしか入っていないということは、3万DP相当の革鎧ということか」


 今の革鎧が5千DPだから、値段相応の防御力が期待できそうだ。


 しかしまたタイムリーな物が入っていたな。


 さっきのモンスターハウスで革鎧は傷だらけになっていた。そこへこの灰色の革鎧だ。


「まあいいか、とっとと5階層を下見したら帰ろう」


 俺は灰色の革鎧をはみ出させつつも無理やりリュックに詰め込んだあと、魔石を拾い集めてから黒い門を開ける。


 門の先はお馴染みの洞窟だった。


 へいへい、了解了解と心の中で言いつつ門を潜る。


「ん?」


 しかしすぐにいつもの洞窟でないことに気付く。


 いつも門を潜ると5メートルほど横に魔法陣があるのだが、それが無い。


 慌てて門に戻ろうとするが、門は開いているのに見えない壁に阻まれ守護者部屋へ戻れない。


 そうこうしている内に門が閉まる。


「おいおいおい、こりゃいったいどういうことだ?」


 初めての展開に混乱する。が、直ぐに冷静になる。


 戦場で混乱する行為は、死を早めることだと子供の頃から訓練されていたお陰だ。


「魔法陣は……やはり無いな」


 念のために魔法陣があるはずの場所に行くがそこには何もなかった。


「となると、この階層の守護者を倒さないと帰れないってことか?」


 だがなぜ5階層だけ転移魔法陣が無いんだ?


 5階……まさかボスがいる階層とか?


 マイルームで読んだマンガで各階のボスの他に、それらをまとめるボスが5階層毎に現れるというのがあった。


 もしそうなら守護者の周回をし難くしているこのダンジョンだ。転移陣が無いのも頷ける。


 よく見るとメイン通路に横道が見当たらない。まるで一本道のようにも見える。


「考えていても仕方ないか、とりあえず行ってみるか」


 俺はメイン通路を進むことにした。


 

 警戒しつつメイン通路を歩くが一向に魔物と遭遇しない。


 そして15分ほど進んだ頃、行き止まりにそれはあった。


「扉ね……あーこりゃ間違いなくボス部屋だわ」


 俺の目の前には高さ3メートル、幅2メートルほどの大きな木製の扉が鎮座している。


「魔力は……身体強化3回分か、厳しいな」


 恐らく今まで戦って来た守護者より強いはずだ。そこに今の魔力量で突っ込むのはリスクが高い。


 満タンと言わないまでも、半分以上は回復してから挑みたいいのだが……5等級の魔力回復ポーションじゃ、そこまで回復するのに6時間か7時間は掛かりそうだ。


 時計を見ると15時を回ったところだった。


 こんな何も無いところで6時間も待機するのは怠い。なにより腹が減る。一応非常食としてカロリーバーは持って来てはいるが。


「4等級を飲むか」


 4等級の魔力回復ポーションなら回復速度が5倍になる。残っている魔力を合わせれば、2時間もあれば半分は回復するだろう。


「1本十万円はもったいないが、時は金なりってな」


 まあ本当は美味しい飯を食って早く壁尻を呼びたいだけだ。夕方になると、どうにもムラムラして来て股間がウズウズするんだよ。


 なに、ここの守護者は普通の守護者より特別っぽいしな、討伐報酬も多いだろう。


 俺はリュックから4等級の魔力回復ポーションを取り出し飲み干す。


「今のうちに装備するか」


 時間ができたので、リュックに無理やり詰め込んでいた灰色の革鎧を取り出し装備することにした。


 初めて着る革鎧で、鏡もないので少し苦戦したが10分ほどで装備できた。


 サイズは少し大きく感じるくらいで動きに支障は無さそうだ。


「これはいいな」


 マチェットを振って動いてみるが動きやすい。それにやはり頑丈そうだ。


 一通り動きを確認し満足した俺は、岩壁に背を預けながら魔力が回復するまでしばしの休憩をするのだった。


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