第24話 モンスターハウス
—— テスター生活10日目 テストダンジョン1階層 マイルーム 真田 夜雲——
3階層の守護者を倒した翌朝。
いつも通り昨日の疲れが残っておらず、身体的には快適な朝を迎える。
精神的にはまあ、ダンジョンという閉鎖空間に閉じ込められているんだ。多少
俺は少年兵養成所という塀の中に長年いたからそこまでじゃないが、生徒たちはキツイだろうな。
命懸けで戦わないと生きていけないストレスと、閉じ込められたストレス。そこに魔力により強化された身体が加われば、どこかで暴発する奴が出てもおかしくない。
ベッドから起き上がり魔水晶で魔力を測る。
E+のままだ。まあ上がったばかりだからそうだろうとは思っていた。
他のテスターたちの大部分は1階層でウロウロしている。となるとG+かFが限界だろう。
結城たちは他のグループに1階層の守護者の場所は教えないだろうし、E+の俺が有利なのは変わらない。
だがFランクとはいえ数十人で来られるとどうなるかはわからない。魔法を覚えている者が複数いたら尚更だ。
「もっと先へ、もっと魔力ランクを上げないとな」
生徒たちが世紀末状態になる前に、できるだけ実力差と装備の差を作っておく。いつ襲われても撃退できるように。
そんなことをシャワーを浴び髭を剃りながら考えつつ、体を拭いて服を着てから魔水晶へと向かう。
そしていつものように朝食を買うためにショップを開き、購入しようとした時にソレに気付いた。
「は? 朝食セットが100DP?」
朝食セットの値段が倍になっていることに驚く。
弁当も140DP、夕食セットも200DPと軒並み倍になっている。
慌てて他の商品を見るが、飲料やお菓子にポーション類などの価格は変わっていない。
安心しつつもこりゃ外は大騒ぎだろうなと予想する。
「早く戦え、そしてもっと奥へ進めってことか」
サキュバスクイーンも引きこもってる奴らや、いまだに1階層をウロウロしてる奴らが気に入らないようだ。
そりゃ十日も経っているのに次の階層に進んでいるのが俺と結城たちだけじゃな。
こりゃ引きこもってる奴らはもう戦うしかないな。そうなると1階層は大混雑になる。
ますます他のテスターは稼げなくなるし、ランクも上げにくくなるだろう。
それに値上げがこの一回で終わる保証はない。テスト開始から十日目というキリのよい日数で値上げしたことから、二十日目にまた上がる可能性もある。
そうなると1階層では、パーティーを組んでいる者は食費を稼ぐのがやっとになる。つまり早く次の階層に行かないと壁尻を呼べなくなる。
魔力ランクが上がり精力が強くなっている状態で壁尻を呼べないのは、キツいどころの話じゃない。夜中に息子がギンギンになって痛くて寝れなくなるくらいだしな。
じゃあオカズ無しで右手で処理しようにも、5回も6回も想像力だけで抜くのは厳しい。販売されているマンガにはエロマンガは無いしな。少年誌のパンチラで抜ける奴は別だが。
何より一度壁尻で生身の女の膣を経験したら、右手じゃ肉体のムラムラは収まっても精神的にはずっとムラムラするだろう。
今まで慎重だった奴らも必死に次の階層を探すようになるに違いない。
そんなことを予想しつつ、100DPに値上げされた朝食セットを2セット購入。
そしておにぎり2つと白身魚のフライという、特に豪華になったわけではない朝食を微妙な気持ちで平らげた。
食事を終えると守衛服を着てその上から革鎧を着込む。次に革の籠手と脛当てを着け、鉄の小盾を左手に装備し盾の裏にあるまだ一度も使っていない投げナイフを取り出し、動作確認を行う。
最後に腰に黒鉄のマチェットとナイフを装備しマイルームを出る。
耐刃ローブは走るのに邪魔だし暑いので置いていく。以前手に入れた革の帽子は結局一度も装備していない。どうしても神風特攻隊員にしか見えないからだ。
部屋を出ると予想通り広場は騒然としていた。
俺の知るある程度稼げている奴らは、既に装備を整え集まっている。真剣な顔をして話している事から、1階層に人が増える前に早く次の階段を見つけようと話し合っているのかもな。
そんな中、ひときわ騒がしい集団がいた。
引きこもりと思われる70~80人ほどの集団だ。
今まで教師たちの勧誘をウザがっていた引きこもりたちが、その教師たちに詰め寄り助けを求めていた。
「アホか」
この期に及んで助けを求める彼らに俺はため息を吐く。
戦い方を教えて欲しいではなく、助けてくれだ。
まだまだ追い詰められ方が足らないな。こりゃ空腹で数日過ごすまでは戦いそうもない。下手したら餓死する者も出るだろうな。
当然助ける気なんてさらさら無い。死にたく無いなら戦え。それが嫌なら餓死すればいい。
それが自分が選んだ結果だ。恨むなら自分の判断を恨んで死ね。
俺は騒々しい広場を横目にさっさとダンジョンへの入口へと向かうのだった。
そしてそれから3日間、俺は4階層を探索を続けたが、階層守護者の部屋を見つけることができなかった。
—— テスター生活12日目 テストダンジョン4階層 真田 夜雲——
「おかしい」
全ての横道を探索したのに、守護者部屋に繋がる道が無い。
3階層は2日で見つけることができたのに、4階層では3日探しても見つからない。
正確には2日目に全ての通路と横道は調べ終わっていた。3日目の今日は一度調べた場所をもう一度調べるべく回っていた。
二重壁などのギミックなどの存在も慎重に探したがそれも見当たらない。
モンスターハウスも5つほど見つけ中を覗いたが、通路になっているところは無かった。中にはしっかりコボルトがいた。
「モンスターハウスか……」
唯一探索していない場所ではある。
「3階層は偽装モンスターハウスに守護者部屋があった。次は本物のモンスターハウスの中にとかか?」
だが中を覗いた時に黒い門は見かけなかった。そこまでしっかり覗いたわけじゃ無いがあんなデカくて目立つ門だ、あったら見落とすはずがない。
となるとモンスターハウス内のどこかに通路があるパターンか。
「ありえるな」
魔力は……少し回復して4分の1か。一つは潰せるな。
今朝やっと魔力がDランクになり、魔力を半分ほど使ったことでだいたいどれくらい増えたのかが分かった。恐らく身体強化が25回は使えると思う。ウィンドカッターやファイアーボールだと50回分だ。
Eランクで身体強化が10回で、E+ランクで5回分増えて15回だった。やはりアルファベットのランクが上がると魔力の上がりも大きいようだ。
体力と筋力、それに動体視力も大幅に上がった。今なら熊を素手で殴り倒せそうだ。
昨日はコボルトが同時に4匹出てくるようになった4階層の奥では、遠距離で数を減らしてからでないと体力が保たなかった。その結果、途中で魔力切れとなり魔力回復ポーションを飲んでいた。
しかし今日は魔法を節約しながらでも戦えており、魔力回復ポーションを飲まなくても魔力に余裕がある。
「身体強化6回分の魔力が残っているし、帰りながら一つ潰してみるか」
ファイアーボール換算で12発だ。外から撃ち込んで数を減らし、身体強化をして突っ込めば殲滅できるだろう。
そう計画を立て、書き込んでいた地図を見て帰り際にすぐ入れるモンスターハウスを探す。
そしてここから歩いて2時間ほど戻った場所にある、モンスターハウスへと向かうのだった。
§
『ファイアーボール』
「ファイアーボー……マジか」
目的のモンスターハウスに着いた俺は、早速胸までの高さしかない亀裂のような入口の外から中へ魔法を放った。
そして立て続けに2発目を放とうとしたところで、1発目が入口に弾かれたのを見て中断した。
外したわけじゃ無い。火球は間違いなく入口の亀裂の中へと向かっていた。
だが火球が中に入ろうとしたところで、見えない壁のようなもので防がれたのだ。
亀裂に近づき腕を差し込むが、特に防がれることもなく中へと入った。
「魔法無効バリアってことか?」
外から魔法で楽に殲滅させないということか。
「めんどくせえな」
魔法は買うと高いんだから、これくらいいいじゃねえかと愚痴を吐く。
「ハァ……やるか」
歩いている間にいくらか魔力も回復したから、まだ身体強化魔法を使っても魔法を10発は撃てる。
だが中に入ってからだと、発動速度がそれほど早くないファイアーボールをそんなに撃てるとも思えない。
なら2発分の魔力を込めたやつを撃つか。
そう決めた俺はマチェットを構え身体強化魔法を発動したあと、コボルトの巣窟たる亀裂の中へ飛び込んだ。
亀裂の中に入るとそこは20メートル四方の小部屋で、高さも2メートルほどしかなかった。
その中にコボルトが20匹ほどギッシリ詰まっている。
俺は予定通り三方向に2発分の魔力を込めたファイアーボールを3発撃ち込む。
『ファイアーボール』『ファイアーボール』『ファイアーボール』
そして4発目を放とうとしたところで、着弾し燃え盛る炎を避けるように3匹のコボルトが飛び込んできた。
『ウィンドカッター』 『ウィンドカッター』
即座に発動速度の速いウィンドカッターで2匹を迎撃。
残り1匹が正面から襲い掛かる。その背後からさらに2匹、右側面から3匹とファイアーボールから逃れた新たな個体が迫ってくるのが見える。
俺は正面から来るコボルトの爪攻撃を横へスライドして避け、すれ違い様に首へとマチェットを振り下ろす。
そしてその後ろから迫ってくる2匹へ通常のファイアーボールを放つと見事に命中。2匹とも火だるまになった。次に右側から体に火の粉を纏わせながら迫ってくる3匹へ視線を向けるがまだ距離がある。
魔力が切れそうなので、小盾の裏から投げナイフを取り出し中央の1匹に放つと胸へ深々と刺さった。
隣にいた仲間の胸に突然ナイフが生えたことに一瞬動きを止めた2匹へ、俺は一瞬で間合いを詰めマチェットで立て続けに斬る。
そして壁を背に気配を探りながら周囲へ視線を送る。
小部屋の中は火の海と言っていい。
コボルトがあちこちで黒焦げになり息絶えており、その周囲では火に包まれ転げ回っているコボルトの姿が見える。
立って襲い掛かってくるコボルトはもういなさそうだ。
残りの魔力を確かめると、ギリギリ魔法1発分放てる程度しか残っていなかった。
魔力回復ポーションを飲んでから突入した方が良かったかもなと反省。
「まあしかしファイアーボール1発で4匹は巻き込めたか」
奇襲だったこと。そして2発分の魔力を込めて殺傷範囲を広げたことと、コボルトが密集していたおかげだろう。
しかし素早さが売りなのに、なぜこんな狭い場所で密集しているのか謎だ。
やはり密集してる敵にはファイアーボールは絶大な効果があるな。まさにモンスターハウス向けの魔法と言っていい。
こうしてモンスターハウスに挑戦するのを見越して、3階層の守護者の宝箱がファイアーボールの魔法書だった?
確かにファイアーボールの魔法がなければ、物量に押し潰されていたかもしれない。
もしそれが考え過ぎや偶然でなければ、モンスターハウスに守護者部屋に繋がる通路がありそうだ。
それから数秒後にファイアーボールの効果が切れると、俺は瀕死になって倒れている生き残りのコボルトにトドメを刺して回った。
すると部屋の奥に木製の宝箱が3つあることに気づく。
「報酬が木の宝箱が3つか」
微妙過ぎる。いや、これだけのリスクを冒して木の宝箱が3つだけなど割りに合わない。
中を開けてみると大銅貨と長方形の木の小盾。そして5等級魔力回復ポーション1つだった。
当たり前だが、普通の横道にある宝箱と中身は同じだ。
「ハァァァ」
俺はクソデカため息を吐きながらポーションと硬貨をリュックのポケットに入れ、木の小盾をリュックに縛りつけた。
そして小部屋に転がる魔石を拾いながら隠し通路的なものを探す。
が、壁に亀裂も穴も見つからない。
「ハズレか」
どうやらハズレのモンスターハウスのようだ。
当たりがあるかわからないが、調べてない場所がもうモンスターハウスしかないのだから仕方ない。
「明日全部潰してみてからだな」
思ってたよりも魔力を大量に使うから、明日は魔力回復ポーションを飲みながらやろう。
そんなことを考えつつ俺は帰路に着くのだった。
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