第23話 祝い

 


 —— テスター生活9日目 テストダンジョン1階層 階層転移室 真田 夜雲——



「ん?」


 3階層の守護者であるコボルトリーダーを倒し4階層の下見を終え転移陣で1階へ戻ると、そこには見覚えのある生徒たちがいた。


 確かバトルスポーツ同好会だったな。


 どうやら俺の次に2階層へ到達したのは彼らのようだ。


 生徒たちは転移陣に現れた俺を見ると驚き、そしてどこか納得した表情を浮かべていた。


 そんな彼らを見回すと目を逸らす者、誰かの後ろに隠れる者、慌てて手に持っていた武器をしまう者、俺をジッと見つめる者など様々な反応があった。


 俺は内心で苦笑しつつ、彼らの前をいつものように通り過ぎようとした。


 しかし一人だけ俺をジッと見ていた鷹のような目をした生徒が、隣にいた生徒に持っていた槍を渡したあと一歩前に出て声を掛けてきた。


「すみません守衛さん。少しお時間よろしいでしょうか?」


 その声は少し震えていたが、彼は拳を強く握りしめ俺へと強い視線を向けていた。


 ほう


「なにか用か?」


 その強い意志を感じさせる目を気に入った俺は足を止め答える。


「僕はバトルスポーツ同好会会長の3年の結城といいます。守衛さんはどこまで進まれたのか教えていただけませんでしょうか?」


「4階層だが?」


「「「「「!?」」」」」


 俺が応えると結城だけでなく、周囲にいた生徒全員が驚愕の表情を浮かべた。


「ソ、ソロでもうすでにそこまで」


 なんとか言葉を繰り出した結城だが、動揺を隠せないようだ。


「戦闘には自信があるからな。なんたって俺は暴力野郎と呼ばれているそうだしな」


 初日に彼らが小声で話していた言葉を口にすると、何人かの顔が青ざめた。


 すると結城が慌てて弁明に入った。


「も、申し訳ありません。その……キックボクシング部の件など色々と噂を聞いたものですから」


「ククク、冗談だ。別に気にしちゃあいない。ただ、キックボクシング部の奴らの件に関しては、下級生にスパーリングという名のもとに過剰なシゴキをしているのを巡回中に見つけてな。上には上がいることを少しわからせてやっただけだ」


「そういうことでしたか……どうやら噂に惑わされていたようです。申し訳ありません」


 うーむ、なんとも礼儀正しい青年だ。格闘系の生徒で強さに自信のある奴らは、生意気なのが多いんだがな。


「いいさ、そういえばバトルスポーツ同好会は日本大会で優勝した者がいると聞いたが?」


「あ、はい。僕です。槍の部の個人戦で」


「お前がそうだったのか。優勝おめでとう。確かそれが評価されて来年度から部に昇格すると聞いた。技術が役に立って良かったな」


「はい……ありがとうございます」


 俺が祝福すると結城は微妙そうな表情で答えた。


 まあこんなとこに拉致されて命懸けで戦わされてるんだしな。技術が役に立っても素直には喜べないか。


 俺は毎日見かけていた女生徒や女教師たちを性奴隷にできるとモチベーション上がりまくりだが。


 そんなことを考えていると、結城が意を決したように口を開いた。


「あのっ! 3階層や4階層に行けば稼げますか!?」


「ん? ああ。3階層からコボルトが出てくるんだが、その魔石は1つ90DPになる」


「90DP!?」


 そりゃ驚くよな。なんたって3倍だからな。


「そうだ、だからせいぜい頑張れ。じゃあな」


 そう言って去ろうとすると、結城は慌ててまた声を掛けてきた。


「そ、その! 変なこと聞いて申し訳ないのですが守衛さんは……ち、ちっぱいと巨乳のどっちが好きですか?」


「はあ?」


 それまで好青年ぽかった男がいきなり下ネタに走った事に面食らい、思わず抜けた声が出てしまった。


 いきなりなに言ってんだコイツ。


「あ、いえ……その……さ、参考までにお聞かせいただければと」


 顔を真っ赤にしつつも、真剣な表情でそう口にする結城。


 そんな彼の姿に俺はため息を吐きながら答える。


「ハァ、俺の好みを知ってどうするのかは知らないが……俺は巨乳と巨尻好きだ」


ちっぱいでも抱けるが、両方いたら多少見た目が劣っていても迷わず巨乳や巨尻の子を選ぶ。


「そ、そうですか!」


 俺の答えにホッとする結城。周囲の同好会の者たちもどこか安心している雰囲気だ。


 なんだ? バトルスポーツ同好会は巨乳同好会でもあるのか? それで同志がいて安心している?


 なんか違う気もするがまあいいか。


「話はそれだけか? なら俺はもう帰るぞ」


「は、はい。教えていただきありがとうございました」


 そう言って結城は深々と頭を下げた。


 ふむ……


「ああ、そうだ。2階層の守護者だが、耳が剣のようになっているホーンラビットだ。一人しか通れない狭い通路を抜けて小広場に入ると、いきなり3次元攻撃を仕掛けてくるから盾を構えながら入るなりして十分警戒しろ」


 見たところ何人かが木の盾を装備しているから、油断さえしなきゃ対応できるだろう。


「あ……ハイッ! 情報感謝します!」


「「「「「ありがとうございます!」」」」」


「なに、優勝祝いだ」


 俺は頭を下げる彼らにそう告げて前を通り過ぎ、自動岩壁ドアを開け転移部屋から出たのだった。


 転移部屋を出て横道を進む。


 本当は情報を教えるつもりはなかったんだがな。


 結城のあの必死な目と、安易に2階層の守護者部屋の場所を聞いてこなかった事につい気を良くしてしまった。最後の質問には頭を傾げたが。


 まあ俺は4階層だし、1階層の守護者部屋を突破しても2階層のあの二重岩壁は見つけにくいからな。


 すぐに追いつかれることはないだろう。


 そう自分に言い聞かせながら俺はダンジョンの出口へと足を進めるのだった。



 §



 マイルームに戻ると装備を外しシャワーを浴びる。


 そして冷たい炭酸ジュースを買うべくショップを開くと、お知らせのベルマークが点滅していた。


 もちろんベルマークの横には『1』と書かれている。


 先に炭酸ジュースを買い、飲みながらお知らせを開く。


 〈初回3階層守護者討伐報酬として、40,000DP(1/1)が贈られます。受け取りますか? (はい/いいえ)〉


「やはり1階層毎に1万DP増えていく感じか」


 じゃあ次は5万DPもらえるってことか。昨日の稼ぎの3日分と少しってところだな。悪くはない。


 次に魔石の換金を行う。


 《F+魔石226個20,340DPとなります。よろしいですか? はい/いいえ》


「おお、2万DP越え! とうとう日給20万円になったか」


 下見した4階層はいきなり2匹出てきたからな。奥に行けば4匹同時に出てくるだろう。そうなれば日給30万狙えるか? いや、戦闘時間が長くなるからそこまではいかないかも。


 次に3階層の守護者のコボルトリーダーの魔石を換金すると、Eランク魔石1個200DPと表示された。


「まあこんなもんか」


 だが先に進めばあのくらいの魔物がモブとして出てくるようになる。そうなれば今の倍以上稼げるかもしれない。


 続けて銅貨も換金し、これで残高が19万とちょいとなった。


 いよいよ後少しで5級スレイブが買えるほどにまで貯まったな。それも十日掛からずにだ。他の生徒たちで6人パーティなら3ヶ月は掛かっただろう。


 とはいえ5級を買うつもりはない。このまま先へと進みEランクの魔物がメインで出てくるようになれば、思ったより早く1級スレイブを買えるかもしれないのだからな。


 そう思うと股間が疼き、シャワールームで鎮めた息子がまた元気になってきた。


 いつものようにもう少し待てと言い聞かせ、先に飯を食う。今日の夕食セットは牛タンと麦飯にとろろだった。好物ということもあって思わず3セット分も食べてしまった。


 今日に限ってなぜかやたら豪華だったなと思いながら休憩したあと、魔水晶の前に立ち壁尻を呼び楽しむのだった。

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