第20話 偽装

 


 —— テスター生活9日目 テストダンジョン1階層 マイルーム 真田 夜雲——




 ピピピッ ピピピッ



「んあ……朝か……ふぁぁ」


 目覚ましの音で目が覚めた俺は起き上がり大きな欠伸をする。


 昨夜は高貴サキュバスとの死闘の末、結局いつも通り3発搾り取られた。


 その後、また褐色お姉様サキュバスが現れるかもしれないと警戒し少し休憩をした。


 さらにリスク分散のために二人同時に呼んだら、現れたのはメスガキサキュバスと褐色お姉様サキュバスだった。


 二人同時に尻尾をクイックイッとする光景を見て”地獄かよ”と思ったわ。


 顔を引き攣らせつつも休みのうちに買っておいた小さなコケシを手に、速攻でメスガキを屈服させワカラセた。そして次に挑んだ褐色サキュバスにワカラセられた。高貴サキュバスの名器に慣れてきたとはいえ、まだまだお姉様には勝てなかった。


 そんなことを繰り返し、二人の挑発にことごとく引っ掛かった俺は4発も搾り取られた。


 そしてフラフラになりながらベッドに崩れ落ちた。


 ムラムラは収まってはいたのでそのまま寝ようかと思ったが、癒しが欲しくて追加でもう一回呼んだ。するとドMサキュバスが現れ、ディスプレイを見るとこれがまた嬉しそうな顔でさ。


 翼もパタパタと羽ばたかせて尻尾もブンブンと振っていた。思わず犬を連想しちまったよ。


 そこまで楽しみにされていたなら男冥利に尽きるというもんだ。俺はこれまた休みの日に買っておいた頑丈なベルトと、メスガキにも使ったコケシを手にSMプレイを楽しんだ。


 その後は汚れまくった床を清掃し、シャワーを浴びてベッドで眠りについたというわけだ。



「しかし毎度思うが、どんだけ出しても次の日に響かないのはいいな」


 普通9発も出したら次の日は動けないんじゃないだろうか? その前に半日で9発も出せないが。高校生ならワンチャンあるか?


 いや、俺が十代の頃は1日で7発が限界だったから無理だろう。


 あの時は情婦の彼女もいい加減にしてという顔をしてたっけ。


 そんな懐かしい情景を思い出しながらシャワーを浴び、寝汗を流したあと歯を磨く。


 そして魔水晶の前に立ち、日課の魔力測定の画面を表示させた。


「さて、今日こそ上がっていると思うんだがどうだ?」


 俺は画面の指示通りに魔水晶に手を置く。


 ——————


 真田 夜雲

 年齢:25

 種族:人族

 保有魔力:E+


 ——————


「よしっ! やっぱ上がってたか」


 今回はずいぶんと間が空いたが、Fランクのホーンラビット中心だったからな。コボルトを下見の時と合わせて200匹以上倒したことで、規定の経験値に到達したというところか。


 これで少しは楽になるかね。


 昨日ほど疲れないことを願いながら朝食セットと弁当と飲料を購入し、おにぎりと厚焼き卵を平らげたのちに装備を整えるのだった。



 §



『ウィンドカッター』 『ウィンドカッター』


『『ギャンッ』』


 追ってきた4匹のコボルトのうち先頭の2匹の胴体へとウィンドカッターを放つと、2匹は腹部を押さえながらその場に倒れ込む。


 俺はその2匹を飛び越え真後ろにいた2匹のうち1匹へとマチェットを振り下ろす。


「フンッ!」


『ギャイン』


 肩口から切り裂かれたコボルトはその場に崩れ落ちる。が、それと同時に遅れて追いついてきた残りの一匹がその鋭い牙を剥き出しにして俺へと飛びかかってきた。


「オラァッ」


 俺は飛びかかってくるコボルトの顔面を小盾で殴り飛ばし、吹っ飛んだコボルトへ駆け寄りその首へとマチェットを突き刺した。


 そして背後を振り返り、まだ息のある最初の2匹の首へと背後からマチェットを突き刺していく。


 トドメを刺されたコボルトたちは少しして黒い霧となって消え、小指ほどの大きさの黒い魔石だけがその場に残った。


「ふぅ……」


 俺は魔石を拾い戦闘開始時に地面に置いたリュックに入れると、タオルで汗を拭った。


 ローブは走るのに邪魔だし暑いので最初から着ていないが、さすがに走り通しで体が熱い。


 3階層に降りてきてから6時間。途中小休憩や昼休憩を挟んだが、それ以外はずっと走りっぱなしだ。


「まだ余裕はあるな」


 昨日ほど疲れてはいない。魔力ランクが上がったことで筋力だけでなく、ちゃんと体力も増えているな。


「残り魔力は……半分くらいか。ということは回復した分を引くと10発分は増えているな」


 身体強化魔法の回数でいえば15回ってところか。E+になったことで5回分増えたな。


「あと1時間進んだら戻るか」


 ここから走れば転移陣まで戦闘時間含めて1時間で戻れるだろう。


「今日中に見つけられると思ったんだが甘かったか」


 駆け足で横道という横道を潰して回った。宝箱を見つけても速攻で回収してメイン通路に戻り、すぐに次の横道に入った。


 1階層や2階層の倍の効率で探索できているから、2日目の今日中には守護者部屋を見つけることができると思ったんだがな。


 それっぽい部屋はあった。大ハズレだったが。


 人一人がしゃがめば通れそうな岩壁の裂け目が横道の途中にあってな、2階層と同じ隠し通路でその先に守護者部屋があるかもと覗いてみたら20匹くらいのコボルトがいた。


 あれはビックリした。狭い広場に20匹ものコボルトがウロウロ歩いる姿に、思わず声が出そうになった。


 恐らくはモンスターハウスとかいうやつなんだろう。


 当然俺はゆっくりその場を離れた。そりゃそうだ、流石の俺も20匹のコボルト相手に戦おうなどとは思わない。


 まあファイアーボールの魔法を覚えていたら挑んだかも知れないが、ウィンドカッターとマチェットだけじゃリスクが高い。


 一気に20匹のコボルトを狩れば確かに収入は増えるが、そんなリスクを冒すくらいなら1時間走り回って20匹狩った方がいい。


 というわけでモンスターハウスをスルーして、途中メイン通路が二つに分かれていたので左を選んで走ってきたわけだが……遠くに行き止まりの壁が見えるってことはハズレだったかもしれん。


「いや、まだ先の方に横道が見える」


 俺はメイン通路の行き止まり手前にある横道へ、最後の希望とばかりに走り出した。


 しかし


「チッ、行き止まりなうえにまたモンスターハウスかよ」


 横道に入るとすぐに行き止まりとなり、しかも側面の岩壁には裂け目があった。そしてそこから1匹のコボルトが出てくる姿を見た俺は眉を寄せた。


「ハァ、とっとと倒して今日は帰るか」


 そして明日は右側のメイン通路を進もう。


 そう考えながらウィンドカッターで裂け目から出てきたコボルトを倒す。


 そして魔石を拾おうと屈んだ時、裂け目の中がチラリと視界に映った。


「ん? 真っ暗?」


 これまで見たモンスターハウスは、入口から少し覗けばすぐに薄暗い小広場が見えた。


 しかしこの裂け目の中は真っ暗だ。


 疑問に思い裂け目に近づきしゃがんでそっと中を覗いてみると、そこはコボルトが2匹は並んで通れるほどの通路になっていた。そして5メートルほど先に薄っすらと明かりが見えた。


「これは……」


 モンスターハウスに見せかけた隠し通路かもしれないな。


 ふむ、行ってみるか。


 俺はマチェットを構えしゃがみながらゆっくりと進む。


 この先が守護者部屋であってくれと願いながら。




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