第14話 シスコンと魔力ランクアップ

 



 ——— テスター生活4日目 テストダンジョン1階 マイルーム 3年 結城 智哉 ——



「分配は終わったな? ではこれで解散とする」


「「「お疲れ様でした」」」


 僕の解散の合図に皆が剣や槍。そして弓を胸の前に掲げたあと、それぞれが自分のマイルームへと帰って行く。


 僕も疲れた体に鞭打ちながら自分のマイルームへと戻り、短槍をドアの横に置きリュックを下ろす。


 そして制服を脱ぎジャージへと着替え、ショップでスポーツドリンクを購入しベッドに腰掛け一息つく。


 10分ほどそうしてから立ち上がり、桶とボディーソープやシャンプー。そしてタオルと替えの下着を手に、再びマイルームを出て泉へと向かう。


 泉の側には同好会員たちもおり、服を脱ぎ彼らの隣に腰を下ろす。


 部員たちは今夜は二日ぶりに壁尻を呼ぶんだなどと話している。


 僕はその話を聞かないよう、淡々と冷たい水で身体を洗う。泉の石の囲いの外側には溝があり、なぜかそこに流した汚水は吸収されていく。そのため泉の周囲が水浸しになることはない。


 頭を洗い終えたところで急いで身体を拭き、新しい下着とジャージに着替えたあと震えながら部員たちに声を掛けマイルームに戻った。


 マイルームに戻るとリュックを拾い上げ、中に入っている魔石を精算する。


「7時間で14個か……」


 休憩時間を抜けば6時間戦ってこの数か。昨日より多いとはいえ、その収入の少なさに肩を落とす。


 バトルスポーツ同好会全体では145個だった。それを10人で均等に分け、余りはもしものことがあった時のために同好会貯金として預かっている。


 やはり10人は多いのかもしれないな。


 他の一般生徒や部活毎に集まっている者たちは、僕たちより少ない人数でパーティを組んでいる。


 教師陣は6人。空手部は6人を3パーティ。


 剣道部と弓道部は合流し、6~7人で7パーティほど作っていると聞く。


 キックボクシング部の奴らも6人と8人の2パーティのようだ。


 まあ、キックボクシング部だけは精鋭と補欠ではっきりパーティが分かれているが。


 誰が名付けたかわからないがホーンラビットと呼ばれている魔物を倒している数は、他の部とそう変わらないと思う。いや、どこよりも奥に行き戦っている僕たちの方が多いだろう。だけど人数の関係で一人頭の魔石の取り分は少ない。そのせいでDPの収入以外にも損をしている。


 教師陣や空手部やキックボクシング部の何人かは、二日目にシャワールームを手に入れたらしい。しかしうちのバトルスポーツ同好会は誰も手に入れられていない。


 どうやら20個を一度に精算しないといけないらしく、しかも先着10人だけだったようだ。


 それに予想していたことだが、魔力も上がりにくいことが判明した。


 教師陣ほか積極的に戦っている6人パーティの者たちが3日目の昨日の朝にG+になったのに対し、僕たちは今朝やっとG+になった。


 初日に早い段階でダンジョンに入り、そしてどこよりも多くホーンラビットを倒していた僕たちがだ。


 倒した魔物の数は変わらないのに魔力が上がるのに差があるということは、魔物を倒した際に得られる経験値的なものが人数割りされているということだ。


 つまり僕たちは他のパーティの2倍近く魔物を倒さないといけない状態だ。


「しかし本当にゲームみたいだな」


 最初拉致された時は戸惑い、そして怒り、同好会の皆を集めてすぐに武器を買い集まった。競技で使うようなレプリカの武器ではなく本物の武器に興奮し、そして初めての命をかけた実戦に恐怖した。


 それでもどの部よりも下地があったことと、僕たちより先にダンジョンに入った者たちから情報を得られたことで戦うことができた。


 こんな形でバトルスポーツ同好会に入っていたことが役に立つとは思わなかったな。


 昔から中世のヨーロッパが好きで、その影響で欧州で人気の中世ヨーロッパのように剣と槍で戦うバトルスポーツを習った。そして高校に入学する際に、バトルスポーツ同好会があるこの学園を選んだ。


 バトルスポーツは日本ではマイナーだったけど、同好会にはマンガやアニメに影響されて中世ヨーロッパが好きな者たちが集まっていた。先輩たちと動画を見て研究し、試合会場に皆で足を運び、武器は先輩のお古か自腹。プロテクターは格闘系の部活から借りて練習した。その結果、僕は3年目の夏に日本大会で優勝した。


 そういった下地もあり、最初は苦戦したが2日目からはホーンラビットの攻撃パターンがワンパターンなのを見切った。そのため警戒さえしていれば、たいして怖くない魔物だということがわかった。


 それからはどこよりも先へ進み、どこよりも多く狩ったと思う。


 今日から探索を始めた横道で苦戦してはいるが。


 横道はダンジョン入口から真っ直ぐ伸びているメイン通路と違い道幅が狭い。そのためホーンラビットが飛び出してきてから僕たちに到達するまでの時間が短く、常に神経を張り巡らせていないといけない。


 横道に入った途端に怪我人が出てしまいかなり苦戦している。


 幸い宝箱から入手したポーションを飲むことで動けるようにはなったが。


「単純に分け前を増やすなら、うちも5人2パーティに分けるべきなんだろうけど」


 うーん……メイン通路で2匹相手なら5人でも対応はできる。だが横道だと厳しいし、今後3匹や4匹出てきたら対応できない可能性が高い。やはり他のパーティと同様に、前衛二人に後方警戒二人。左右に一人ずつで最低6人は必要だろう。それにパーティを分ければ、同好会で強い者が分散してしまう。


 士気の問題もある。同じ同好会でも、僕とほか数人以外はそこまで必死ではない。僕を助けようと頑張ってくれる者もいるが、今の安全で適当に稼げる状態から人数が減り危険度が増すことに反対する者もいるだろう。横道に入ることも怖がって消極的になっているくらいだし。


 しかしこのままだと魔力も上がりにくいし、収入も少ないままだ。


 人数は今のままで稼ぎを多くするとなると……次の階層に行くくらいしか思いつかない。違う魔物が出てくるようになれば、魔石の単価が上がるかもしれないしな。


 ただ、肝心の階段がまだ見つかっていない。メイン通路には無かったから、やはり横道の探索は避けては通れないだろう。


 他の部はまだメイン通路でレベル上げをしているので、階段を見つけた者がいないのは確かだ。


 となると皆を説得して横道を積極的に探索し、探索の時間も増やす必要があるだろう。幸い今朝魔力が上がってから体力も向上している。昨日までは帰ってきたらしばらく動けなかったが、今日はそこまでじゃない。


「明日皆に相談してみるか」


 横道での探索と、探索時間を増やすよう相談してみよう。


 明日の方針を決めた僕は、ショップで一番安い朝食セットを購入して食べる。


 そしてスレイブ購入画面を開き、〈壁尻サキュバス〉をタップする。すると目の前に様々なコースが表示されてされた。


「壁尻か……」


 一昨日試したという部員が言うには、一番安い300DPのコースでも満足できるらしい。抜かずに3発出したと自慢していた。なんでも魔水晶に可愛いサキュバスの顔が映し出されるので興奮もひとしおのようだ。


 正直羨ましい。


 今朝からムラムラして仕方がない。僕たちより一日早く魔力が上がった他の部の者たちも同じらしく、身体能力が上がった副作用じゃないかと昨日言っていた。確かに腕力や体力が少し上がっていたので理屈は合うが。


 壁尻は魅力だが、そんな無駄遣いはできない。誰よりも早く僕は妹を助けないといけない。


 でなければ妹は、僕の大切な可愛い妹が他の奴らの性奴隷に……


「それだけは駄目だ!」


 僕は机に拳を叩きつける。


 僕の妹は今年入学したばかりの1年生だ。小さくて可愛くて穢れを知らない天使のような妹。そんな妹がケダモノたちの性奴隷になんて絶対にさせない!


 僕は画面を戻しスレイブカタログを開く。


 そして妹。ヒナのバストアップ画像へと視線を固定し目を潤ませる。


「ヒナ……僕の可愛いヒナ。待っていてくれ、必ずお兄ちゃんが助けてあげるから」


 そう妹の顔を手でなぞっていると、妹のいる列の上の”2級”という文字が視界に入った。


 その文字を認識した僕は眉を顰めた。


「チッ、なぜヒナが2級なんだ」


 何度見ても納得がいかない。


 あんなに可愛い妹がなぜ1級じゃない? おかしいだろ。サキュバスと人間では美的感覚が違うのか?


 いや……理由はわかっている。


 1級にいる子たちとの差。それは胸の大きさだろう。


 妹は美少女だ。世界一といってもいい。ただ胸は小さい。それがエロサキュバスにとっては減点対象なのだろう。


「なにもわかっていない」


 僕は目を瞑り首を横に振る。


 小さい胸の良さが、サキュバスには理解できないんだろう。


「だが……そのぶん助けやすいのは確かだ」


 妹が1級じゃないことは腹立たしいが、1級より50万DP安くなっていることは助かる。


「それでも150万DPか」


 魔石が1個30DPだから14個で1日420DP。全て朝食セットにしても食費で150使うから、1日270DPしか稼げない。


 これじゃいつになっても妹を助けられない。


 先へ、二階層に誰よりも早く行くしかない。


「そういえばあの守衛、良い装備をしていたな」


 僕はちょこちょこ見かける守衛の姿を思い浮かべる。


 恐らく宝箱から手に入れたんだろうが、それにしたって揃いすぎてる。


 ソロだからかもしれないな。僕たちが10人で1人1日420DPならその10倍を毎日稼いでいるんだ。そりゃ揃うか。


「しかしあの兎を一人でか」


 現状2匹が出てくる状態だが、かなり慣れてきたしやろうと思えばできなくもない。


 ただ、3匹になったら一人で対処できるかは不安だ。恐らく怪我をする。


 初日に僕たちより先にダンジョンに入り、速攻で足を引きずり腹を押さえながら逃げ帰ってきたアニメーション学科のオタたちの姿を思い出す。


 かなり酷い打撲だったらしい。骨にヒビも入っているかもと先生たちは言っていた。


 あれから彼らはマイルームから出て来なくなった。


 ただ、彼らのおかげで角を持つ兎が現れる事と、攻撃方法がわかったから感謝はしている。とはいえ、ああはなりたくないな。


 やはり先々のことを考えたら一人では無理だ。

 守衛は強いから問題なくやっていけそうな気がする。あの人は強い。立ち居振る舞いだけでそれはわかる。それにあの目はヤバい。


 僕はあの目を知っている。戦争を経験した曾祖父と同じ、人を殺したことのある目だ。この日本であんな目をしてる人間なんて限られている。反社か、人を殺したくて外国人傭兵部隊に自ら飛び込んでいった狂人か。


 あの男なら一人でも2階層やその先に行ってもおかしくはない。それにソロなら僕よりも遥かに早くスレイブを購入するだろう。


 そうなったら間違いなく妹を買おうとするはずだ。


「駄目だ駄目だ駄目だ!」


 そんなこと絶対に認められない!


 今のうちに殺すか? 無理だ。同好会の全員で挑んでも勝てる気がしない。それに初日に見掛けた時の皆のビビり様から、僕以外は尻込みするに決まっている。


 ならどうする? 妹を買わないようお願いするか? いや、逆に妹の存在を意識させることになるかもしれない。あの狂人は気に入らないと生徒をぶん殴ると聞いた。キックボクシング部の奴らもスパーリングという名のもとにボコボコにされたらしい。


 理事長と親しいからクビにならないとも。そんなクズにお願いなんかしたら、嫌がらせで余計に妹を買おうとするかもしれない。


 奴が巨乳好きならいいんだが……それに1級スレイブもいる。このままでも、もしかしたら妹を買わない可能性だって少ないがある。


「先へ進むしかないか」


 守衛より先に進む。そして僕が先に妹を助けるのが一番確実だ。


 スタートは強い守衛が有利かもしれないが、全員の魔力が上がれば人数が多い僕たちの方が有利だ。そして強い魔物と戦い収入を増やす。それしかない。


「ヒナ……待っていてくれ。お兄ちゃんが必ず助けるからな」


 スレイブカタログに映る最愛の妹の画像を見ながら、僕は決意を新たにするのだった。





 —— テスター生活5日目 テストダンジョン1階層 マイルーム 真田 夜雲——



 目覚ましの鳴る音で目が覚め、冷たいシャワーを浴びギンギンに朝勃ちをしている息子を鎮める。


 そして朝食セットを二セット購入し、野菜サンドを口へ運びコーヒーを飲みつつ昨夜のことを思い出す。


「昨日は昨日で良かったな」


 限界以上に搾り取られず、自分のペースでヤレたのが良かった。


 昨夜の壁尻は一人目と二人目は見た目が高校生くらいの子で、あまり慣れてない感じの子だった。


 ただ、スタイルは凄く良く胸もC~Dと揉み応えのある大きさだった。出した後も搾り取るような動きをするから気持ち良かった。そのためそれぞれ2発ずつ出せた。


 そして三人目はなんとも庇護欲をそそる、大人しそうなJCくらいの見た目のロリッ子が現れた。俺は褐色サキュバスじゃないことにホッとした。


 ロリっ子は最初の二人以上に慣れてない感じというか、怯えているようにも見えた。


 恐らく他のテスターに乱暴に扱われたんじゃないかと思う。だから俺はAカップほどの胸を揉んだり舐めたりしてたっぷり愛撫した。そして時間をかけて1発出し、合計5発でスッキリした。残った時間は尻や尻尾を撫でたりしながら過ごした。


 いつものいたずらっ子ドMサキュバスもいいが、こうして色んなタイプの子を試せるのも壁尻の魅力だなと改めて思う。


「さて、今日は上がっているかね」


 朝勃ちの激しさと、身体が昨日よりもかなり軽く感じることから上がっていそうだなと思いつつ魔力測定を行う。


 ——————


 真田 夜雲

 年齢:25

 種族:人族

 保有魔力:E


 ——————



「ほう」


 やはり上がっていたか。


 昨日の200匹で経験値が溜まりきったということか。


 ウィンドカッターが何回打てるようになったか確認しないとな。


 あの魔法は有用だ。ただ、打てる回数が少ないのがネックでもある。魔力が上がったことである程度解消できていればいいんだが。


 魔導値を確認した俺は腹を休めたあと、弁当を買い強化守衛服を身につける。


 そして革鎧、籠手、脛当てを装備して行き、鉄の小盾とマチェットを手に持ちマイルームを後にする。


 マイルームを出ると広場にはいつも通り顔を洗っている者。ダンジョンに入る前の打ち合わせをしている者など、大勢の生徒と教師たちの姿があった。そんな彼らを横目にダンジョンへと足を踏み入れ、戦っている者を尻目に階層転移室へと向かう。


 2階層に着くと昨日探索を止めた位置へと向かう。


 その途中でホーンラビットが現れたので魔法を試すが、昨日と同じように魔力の減り具合がわからなかった。首を傾げつつ何度か魔法を放ち、念の為身体強化も発動し結論に達する。


「これは……倍になっているな」


 感覚的に身体強化魔法が連続で10回は使えそうだ。Fの時は3回、F+で5回だったのにEでは倍の10回。アルファベットのランクが上がると一気に増えるということか?


 通常のウィンドカッターは身体強化の半分くらいの魔力消費だった。つまりウィンドカッターを20回連続で放てる事になる。


 GからFに上がった時は……そもそもGランクでは身体強化魔法が発動しなかったんだったな。ああ、だからFになって一気に魔力が増えたことで、発動できるようになったのか。


 そしてF+からEになって魔力が倍に跳ね上がった。今後もそうなるのかわからないが、FとEではかなりの差があるということだろう。


 試しに何度か魔法なしで3匹現れるホーンラビットと戦う。


「なるほどな」


 自力もかなり上がっていた。まるで身体強化魔法を掛けているようだった。


 つまり魔物もF+とEでは難易度が跳ね上がるということか。そんな敵が現れるのは3階層からか、それとも5階層以降か。


 これはますます気が抜けないな。


 とはいえまだ敵はホーンラビットだけだ。今のうちに経験値を稼いでおくとするか。


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