第13話 魔法練習

 


 —— テスター生活4日目 テストダンジョン1階層 マイルーム 真田 夜雲——




 ピピピッ ピピピッ


 アラームの電子音が鳴り目が覚める。


 今朝も力がみなぎっていて調子が良い。


 昨晩は結局合計で7発搾り取られた。5発出した辺りでムラムラは収まっていたことから、F+の魔力だと5発出さないとスッキリしないのだろう。


 まあスッキリしても褐色サキュバスは尻尾で俺の尻を固定して、時間切れで消えるまで抜かせてくれなかったが。


 今日も寝ている間に魔力が上がっているかもしれないと思い、ベッドから起き上がり魔力測定をしてみる。


 ——————


 真田 夜雲

 年齢:25

 種族:人族

 保有魔力:F+


 ——————



「上がってないか」


 140匹倒してGからG+を飛び越えてFに上がり、200匹倒してF+になった。そして昨日300匹+階層守護者も倒したのにEランクになっていない。


 ホーンラビット程度の経験値では、なかなか上がらなくなってきているということか。


 今日は魔法の練習をしたかったから、魔力が上がっていて欲しかったが仕方ない。


 現状の魔力値がわかったところでシャワーを浴び、髭を剃り歯を磨く。こういった生活に必要な消耗品がショップで買えるのはありがたい。この牢屋のような部屋にしても、身一つでダンジョンに放り込まれるよりは遥かにマシだろう。


 前に読んだマンガでダンジョン発生に巻き込まれ、最下層に身一つで放り込まれるというのがあった。そんなベリーハードモードに比べればイージーモードではある。まあこっちは現実でチート能力とかは無いんだが。


 サッパリしたところでショップで朝食セットを2つ買う。なんと今日は和食で、おにぎりが3つとお茶のペットボトルのセットだった。


 数日ぶりの米に顔がほころぶ。なんと言っても米は腹持ちが良いし、具がシャケとおかかなのも良い。


 食事を終え少し腹を休ませ、8時を回ったところで立ち上がり強化守衛服を着る。

 そして革鎧を装備しようとしたところで、姿鏡を買うのを忘れていたことに気づき500DPで購入。ついでにお弁当セットも2つ買う。今日はとんかつ弁当のようだ。


 ベッド横に現れた姿鏡をドアの横に置き、鏡で確認しながら革鎧を装備し腰のベルトにナイフを取り付ける。


 やはり鏡を見ながらの方が装備しやすいな。


 それから革の脛当てと革の籠手も装備し、鉄の小盾を左腕に取り付け裏側に固定している投げナイフ2本をスムーズに取り出せるかを確認。最後にマチェットを手に持ちマイルームから出る。


 マイルームを出ると広場では、泉の周囲でダベりながら顔を洗う者。武器を手に打ち合わせをしている集団など、多くの生徒がいた。だいたい全体の半分ちょっとか。まだ100人以上はマイルームから出てきていないのだろう。


 とはいえまだ4日目だ。初期に配布されたDPも壁尻を利用しなければ余裕がある。だが武器はサービス価格とはいえ一番安い物で300DPする。となると1日3食食べている者は7日目もしくは8日目に決断が迫られるだろう。


 まあ、余程の馬鹿じゃなきゃ節約はしてるだろうが。それだって二週間が限度だろう。そこで決断しなければ最後は素手で戦うことになる。


 いずれにしろ300DPを残さず使い切ったら詰みなのは間違いない。


 泉から離れた場所で話し合っているいくつかの集団に視線を向ける。彼らは宝箱で手に入れたのだろう、籠手や木の盾を持っていた。


 その中にジャージ姿の体育教師の大井田を見つけ、手に持っていた武器に目を見張る。


「大剣?」


 素早いホーンラビット相手に大剣を当てるには、相当な回避力と腕力が必要だ。奴はなぜそんな武器を選んだんだ?


 確かに大井田は目がつぶらで威圧感は0とはいえ、体がデカイし元柔道のオリンピック強化選手だったらしく腕力も相当あるとは思うが。


 他の教師やコーチたちを見ると槍と弓を持っている。


 ほう、肉壁役ということか。防具の盾が買えないから大剣でホーンラビットの突撃を受け、そこを他の皆が弓や槍で攻撃するということか。


 よく見れば大井田のジャージはボロボロだ。あちこちが破れかけている。恐らく大剣で受け損ねて角がかすったりしたのだろう。


「体張ってんな」


 そんな大井田たち教師陣は、数人のワイシャツ姿の生徒を囲んで何やら話し掛けていた。生徒たちが迷惑そうな顔をしていることから、恐らくマイルームに引き篭もっている者たちなのだろう。水を泉に補充しにきたところを捕まったか。


 まだ余裕がある者に何を言っても無駄だろうになと思いつつ、俺はダンジョンへと足を踏み入れた。


 ダンジョンに入ると、早速入り口付近で戦っている生徒の姿が見える。その先でも人影が見えることから、すでに結構な数の生徒が1階層で戦っているのだろう。


 昨日まですれ違った者たちの様子から、生徒たちのだいたいは剣と槍と弓の6〜10人パーティだ。俺のようにソロの者はいない。


 魔法の練習をするのに最初は1匹ずつと思っていたが、このぶんではホーンラビットに出会うのに苦労しそうだ。


「仕方ない、2階層で練習するか」


 俺は戦っている彼らを横目に階層転移陣のある横穴へと入る。


 そして突き当たりで自動石壁ドアを開け、小広場の中央にある転移陣の上に乗る。


 すると足下が光り一瞬で景色が変わり、2階層の門から5メートルほど離れた場所にある魔法陣の上に立っていた。


「とりあえず門の周囲で練習だな」


 門から30分ほどの距離にはホーンラビットが2匹しか出てこないので、その区間で魔法の練習をすることにする。


「まずはどれだけの速度と威力があるかだが……『ウィンドカッター』」


 とりあえず試しにと、近くの岩に手を向け魔法を発動する。


 すると手のひらの少し先の空気がくの字に歪んだと思ったら、次の瞬間には岩の端が削れ破片が舞い散った。


「おお……魔法だ」


 魔法書の知識で発動することは分かっていたが、いざ目の前でマンガやアニメでしか見れない現象が起こったことに軽く感動する。


 そしてもう一度放ってみたいという気持ちが湧いてくるが、そこはグッと堪え魔法の検証をする。


「まず発動速度と攻撃速度は速かったな」


 銃弾ほどではない。が、それでも十分速いし、威力も申し分ない。クマが相手でも腕なら切断できそうだ。


「さて、問題の魔力消費量だが……ちょっとわからないな。もう一発打ってみるか」


 身体強化魔法よりも少ない魔力消費量というのはわかるが、それがどれくらいかが分からない。


 そのためもう一度。今度はホーンラビットに向けて打ってみようとダンジョンの奥へと歩き出した。


 そして2分ほど歩くと早速側面にホーンラビットの気配を感じた。


 俺はすぐにホーンラビットがいる方向に身体を向ける。そして小穴から飛び出してきたホーンラビットへ向け魔法を放った。


『ウィンドカッター』


 俺の手の先から放たれた風の刃は真っ直ぐホーンラビットへと向かい、ピンと立った耳を切断した。


 しかしホーンラビットは勢いそのままに突っ込んでくる。


 だが俺はウィンドカッターを放ったと同時に、ホーンラビットの射線から外れていた。


 それはそうだ。初めて実戦で使って当たるとは思っていない。


 そして耳から血を噴き出しながらも、殺意満面の目を向け突っ込んでくるホーンラビットの首を横からマチェットで切断する。


 それと同時に背後から飛び出してきたホーンラビットを小盾で叩き落とし、その首を安全靴で踏み潰した。


「身体強化の半分ってところか」


 ホーンラビットを処理し終えた俺は体内の魔力の残量を確認する。すると身体強化1回分の魔力が減っているように感じた。


 F+ランクの俺が連続して発動できる身体強化魔法は5回だ。その半分の魔力でウィンドカッターが発動できるのなら、ウィンドカッターは連続で10回放てるということになる。


 試しに壁に向かって込める魔力を少なくして放とうとするができなかった。


 なんというか自動で身体が通常のウィンドカッターを放とうとする。それを抑えようとするが、どうにもできそうにない。逆に多く込めることは簡単にできそうだった。


 注ぐ魔力を増やすのは簡単だが、減らすのはできないということか。


 となると通常のウィンドカッターを使うしかないな。


 3分に1回魔物とエンカウントし、戦闘時間はだいたい2〜3分だ。ということは1時間に10回は戦闘があるということになる。つまり1時間で魔力切れだ。


 魔力が24時間で完全回復すると仮定すると、身体強化1回分が4.8時間で1回分。ウィンドカッターなら半分の2.4時間で1回分回復することになる。


 が、微妙と言えば微妙だ。それもこれも魔力の総量が少ないからなんだろうが。


「4匹出てきた時にだけ使うか」


 3匹なら多少時間は掛かるが魔法なしでも対応はできる。魔法は対応できない数の時に使うのがいいだろう。もともとそのつもりで手に入れたんだしな。ただ今日は練習するつもりだったから、3匹出てきたら使うか。


 それから2回ほど練習のためにホーンラビットを相手に使い、奥へと向かう。


 1階層と似たような造りなので、最初から横道に入り一つずつ潰していく。


 その途中で、射的のように飛び出してくるホーンラビットをマチェットで迎え撃ち首を狩る。1階層とやることは変わらない。作業みたいなもんだ。


 2匹同時に飛び出してきたら射線から外れ、2匹が重なったところにウィンドカッターを放ち2匹とも胴体ごと切断。斜め後ろから時間差で飛び込んでくる1匹も避けてマチェットで首を狩る。


「よし、上手くいった」


 魔法名を唱えてから発動するまでのタイムラグ。そしてウィンドカッターの速度を計算し、狙い通り当てることができたことに満足する。


 それから3匹現れるホーンラビットに使い続け、魔力がちょうど無くなったので休憩をする。


 ちなみに魔力が切れたからといって、漫画やアニメによくある気持ち悪くなるとか気絶するとかはない。これは昨晩寝る前に試したから間違いない。


 地球人はもともと魔力なんて持ってないからな。無かったものがなくなったからといって、体調に変化が出るわけがない。


 小休止を終えると魔法なしで戦う。そしてそれから1時間後に宝箱を発見。


 中を開けてみると、薄い青色の液体が入った小瓶だった。


 この色はショップで見た。恐らく魔力回復ポーションに間違いないだろう。木の宝箱からだから恐らく5等級だろう。なんというタイムリーさ。


 5等級だと確か魔力回復速度が2倍になるんだったか。となると2.4時間に1回分回復するものが1.2時間に短縮されるというわけか。仮定ではあるが。


 魔法が頻繁に必要になる階層に行った時に、あらかじめ飲んでおくと良いかもしれないな。今はそこまで必要じゃないから取っておくか。


 それからホーンラビットが4匹現れるということはなく、時折り魔法を放ち魔力回復速度を測ったりしながら横穴を一つずつ探索して行くのだった。


 17時となり探索を終え帰路につき18半頃に1階層へと戻る。


 2階層で生徒と会うことはなかったので、まだ1階層の守護者部屋を見つけられていないのだろう。


 階層転移部屋から出ると、ちょうどダンジョンから帰ろうとしていた生徒の集団とバッタリ会う。


 確か空手部の人間だったと思う。彼らは一瞬びっくりした顔をしたあと、首を傾げつつも俺の前を通り過ぎていった。


 何も無いはずの横穴から、いつも奥で戦っていた俺が出てきたことを不思議に思っているんだろう。お前らもその内わかるさ、頑張ってくれ。


 マイルームに戻りシャワーを浴びて魔石の精算をすると203個だった。


 昨日は10時間近く戦っていたのに対し、今日は休憩を抜いて7時間だ。それに魔法の練習もしていたし、3匹相手だと時間が掛かった。まあこんなもんだろう。


 大銅貨と銅貨も換金し、全部で6,710DP。残高と合わせて73,000DPほど。


 宝箱も5等級魔力回復ポーションと5等級ポーションに銅貨以外は、木の丸盾とナイフと棍棒や厚手の服など嵩張るものばかりでハズレだった。1階層と宝箱の中身の違いは、魔力回復ポーションが入っているかいないか程度のようだ。


 しかしホーンラビットばかりで飽きるな。3階層に行けば違う魔物が出てくるんだろうか? 魔石の単価をもう少し上げたいものだ。


 だが着々とDPは貯まってきている。あとは5級スレイブが買える20万DP貯まったあたりから、妥協しないようにできるかだな。そのためにも壁尻サキュバスたちにはしっかりと楽しませてもらわないとな。


 壁尻といえば、たまには正常位の状態で出てきてくれないだろうか? そうすれば胸をしゃぶりながらできるし、何より俺のカリ高チンポがGスポットを後背位よりも刺激できる。正常位なら褐色サキュバスに一矢報いることができそうなんだが……


「ちょっとキツイな」


 尻を出している状態なら壁から抜け出せなくなったおマヌケさんとして見れるが、仰向けで鎖骨から下だけ出てる状態はどう見ても首無し死体にしか思えん。というか戦場でそういう遺体を見たことがある。とてもじゃないが勃ちそうにない。


 そんなしょうもないことを考えつつ、俺は夕食セットを2セット購入し出てきたハンバーグカレーとサラダを口へと運んでいく。


 そして毎日の楽しみである壁尻サキュバスを呼ぶのだった。


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