第9話 階層守護者
—— テスター生活3日目 テストダンジョン1階層 マイルーム 真田 夜雲——
「ん……なんだ……まだ5時か」
目が覚め時計を見るとまだ5時だった。
そして全裸で寝ていたことに気付く。腹が減っていることにも。
ああ、そういえば昨夜は結局褐色サキュバスに挑発されるままに、合計7発も出したんだったか。それから褐色サキュバスが消えていくのを見送ったあと、スッカラカンで倒れるようにそのままベッドで眠りについたんだった。
本当は夕飯食ってシャワー浴びて寝る予定だったんだけどな。2回目に褐色サキュバスが現れなければだが。
まさか4発出したあとに30分で3発抜かれるとは。しかも相手は消える寸前まで尻を振って挑発して来たし。
まあ3Pができたうえに、とんでもない名器を使い放題だったから大満足なんだが。
しかし不思議だ。一昨日より3発分多く出したのに、身体が全然ダルくない。
これはやはり寝たことでまた魔力が上がったか?
確認しようと全裸のままベッドから起き上がり、机へと向かい魔水晶で『鑑定』、〈魔力測定〉をタップ。そして魔水晶に手を乗せると測定結果が表示された。
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真田 夜雲
年齢:25
種族:人族
保有魔力:F+
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「F……プラス?」
Fの次はEじゃなかったのか?
ということはG+もあったということか? つまり昨日はG+を飛ばしてFになったってことか。
じゃあもし昨日G+だったら、身体強化は1回か2回しか使えなかったってことになるな。F+だと何回使えるんだろうな。ダンジョンで試してみるか。
「しかしなるほどな」
140匹倒してGからG+を飛び越えてFになって、翌日に210匹倒してFからF+か。ランクアップするほど上がりにくくなるとは、本当にゲームみたいなシステムだな。
「とりあえず飯食うか」
腹が減ったのでそのままショップを開き、食料欄から朝食セットと昼用に弁当をタップ。
朝食セットはいつも通りサンドイッチだが、毎日具が変わる。昨日はツナと卵で、今日はハムとレタス&トマトだ。昨日の夜は何も食べてないので二セット分買う。
弁当も昨日はシュウマイ弁当だったが、今日は焼肉弁当だ。
弁当も昨日一つじゃ足らなかったので二つ買っておこう。どうも魔力が増えると燃費が悪くなるようだ。いや違うな、毎日タンパク質を出しすぎているせいかもしれん。後悔はないが。
朝食50DPと弁当60DP、それぞれ二セット分で合わせて220DP。
昨晩の壁尻3回分で1,500DP使ったから、これで残高は6,040DPとなる。
壁尻3Pはたまににしておこう。二人いっぺんに呼んでも30分で消えるしな。おそらく今夜以降は4発じゃ満足できないかもしれない。
一人ずつ呼ばないと、このままだと一晩で2,000DPとか使いかねん。収入的には大丈夫だが、そのぶんスレイブ購入が遠のく。ただでさえ上級スレイブ狙いなんだ、支出を抑えられるところは抑える努力をせねばな。
とはいえ股間が痛くなるほど勃起したままじゃ寝られないから、壁尻を呼ぶこと自体はやめられんが。これは力を得た代償として、必要経費ということで納得しよう。
朝食を平らげてシャワーを浴びる。
その後は早起きし過ぎたこともあり、コーヒーを飲みつつ魔水晶で販売されているアイテムを見ていく。
ほうほう、やはり4等級のポーションは高いな。5等級が2,000DPなのに4等級になると1万DPに跳ね上がる。効果を見ると止血と単純骨折や深い切り傷の即時回復とあるから、納得と言えば納得の効能ではある。なにせ5等級だと止血と浅い傷と打撲を治す程度だしな。骨折や重症になり得る傷が治るのはデカイ。
「まあ今は買えないんだが」
ホーンラビット相手には必要ないしな。他の強い魔物が出てきた時に購入すればいいだろう。
あとは魔力回復ポーションか。これは5等級で回復速度が2倍になるようだ。お値段は2,000DP。これも今は必要ないな。他にも『状態異常回復ポーション』てのもあるな。毒、麻痺、石化、混乱、魅了、病気なんかを回復してくれるらしい。
これも5等級だと2,000DPだ。だが効果はお察しだ。石化や魅了には効果ないみたいだし、病気も恐らくは病院の薬とそう変わらなさそうだ。ホーンラビットには必要ないだろう。これも他の魔物が出てきた時に、買うかどうか考えればいいだろう。
「おっ、これは便利だな」
他に良いのがないか見ていると、『マジックポーチ』というのがあった。見た目の20倍の荷物を入れられるらしい。だいたい畳一帖分くらいか? 宝箱のアイテムは嵩張るから欲しいが、10万DPもするのか。
その上位互換に『マジックバッグ』というのもあり、こっちも見た目の20倍の荷物を入れれるようだが、バッグがデカいので畳4帖分は入りそうだ。値段は30万DP。もし買うとしたらポーチの方で十分だな。
他にも『一命のタリスマン』という致命の一撃を防いでくれるマジックアイテム20万DPや、『力の腕輪』や『速力のアンクレット』という腕力や速力が1.5倍になるマジックアイテムもある。どちらもこっちは10万DPするが、こういう戦闘に有用な物はいずれ欲しいな。
「くはっ! なんだこれ、こんなものまであるのかよ」
そろそろショップ画面を閉じようかと思っていたら、とんでもないアイテムが売っており思わず笑ってしまった。
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毛生え薬 5万DP 液体を振りかけた場所に毛が生えてくる。効果は永続。
痩せ薬 3万DP 飲むと5キロ痩せる。
背伸び薬 5万DP 飲むと5から10センチ背が伸びる。
豊胸薬 1万DP 飲むと一晩で1〜2カップバストサイズが大きくなる。効果期間は1ヶ月。
永遠の豊胸薬 50万DP 飲むと2〜3カップバストサイズが大きくなる。効果は永続。
整形薬 50万DP 飲むと理想の顔に変えることができる。効果は永続。
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他にも美肌クリームや美髪クリームなど色々とある。これは外に持っていけば高く売れそうだな。テストダンジョンというのなら持って帰らせてもらえそうな気もするが。
しかしいろんなアイテムがあるんだな。アイテムバッグのテント版とかもある。ただ、いくら中が異空間になっていて広いとはいえ、50万DPは高過ぎだろ。
「こんなもんかな」
一通り販売されているアイテムを見終わり画面を閉じる。
ポーション類は次の魔物の脅威度次第というところか。そのほかは高額なため、買うとしてもスレイブを買った後だな。武器ももっと良い物が必要になる可能性もあるし、防具も強化守衛服や丸盾だけでは厳しくなるかもしれない。それに宝箱から出てくる可能性もある。
とにかく誰よりも早く先へ進むことが大事だ。そうすれば宝箱を独占できるし、他の先行者特典があるかもしれんしな。
それから1時間ほど昨日描いた地図を見返し今日入る横穴を選定したあと、守衛服に袖を通し装備を身につけていく。
「少し早いが行くか」
昨夜は力尽きる形だったとは言え、早い時間に寝たし体調も良い。なによりも魔力が増えたせいか力が有り余っている。それに早く行けばそれだけ稼げる。スタミナも増えているだろうから、昨日ほど疲れないだろう。
そうして準備を整えた俺は、昨日より2時間以上早くマイルームを出た。
マイルームから出ると広場は閑散としていた。まだ7時前だし皆は寝ているようだ。
今日は何人が新たに覚悟を決めてダンジョンに挑むのか。壁尻の噂も広がっているだろうから多そうだ。
混むと稼げなくなりそうだから、早いとこ次の階層へ続く階段を見つけないとな。
そんなことを考えながら誰もいない広場を後にし、ダンジョンへと足を踏み入れるのだった。
§
「フッ、ハッ」
ほぼ同時に小穴から飛び出して来たホーンラビットを躱しながら捌いていく。
そして首や腹を掻っ捌かれたホーンラビットが足下で消え、残った魔石を拾い洞窟の奥へと進む。
ダンジョンに足を踏み入れてから4時間。
俺は途中小休憩を挟みつつ、昨日よりも軽くなり疲れにくくなった体で順調にメイン通路から続く横穴を潰していた。
ちなみに身体強化魔法だが、試しに発動した魔力の減り具合から感覚的に5回は連続して発動できるようになった。一回の発動時間が10分だから、時間にして50分だな。
とはいえホーンラビット相手に身体強化を使うほどでもなく、今日も今日とて昨日と同じくどの横穴も進むと行き止まりだったり、元の位置に戻るの繰り返しだ。分岐も途中にあるがハズレばかりだ。
せめてもの救いは宝箱が結構見つかったことだろうか。
メイン通路よりもホーンラビットの出現率が高いのと、行き止まりにポツンとあったりしたので既に5つの宝箱を見つけている。
内訳は
棍棒×1
ナイフ×1
革の帽子×1
大銅貨×8、小銅貨×12
5等級ポーション×1
となる。
棍棒はハズレ枠だが、一応リュックの横にくくりつけて持って帰る。革の帽子は、第二次大戦時に零戦に乗っているパイロットがかぶってたようなやつだ。正直守衛服の上に被るのは勇気がいる。革鎧を手に入れたら考えよう。
あとは5等級ポーションだな。これで在庫が4本になる。売ると買い値の半額だから1本1,000DPになるが、今は売るつもりはない。
こうして手に入れた宝箱を心の支えに、全部の横穴を潰せば必ず階段があると信じ進み続けた。
そうして進み続け、それから1時間ほどした時に変化があった。
「ん? また分岐か? やけに多いな」
メイン通路から2時間と少しほど歩いた場所にあった、小さめの横穴に入ったんだが他の横穴と違い分岐がやたら多い。
「これはもしかするとだな。飯食ったら全部潰すか」
他の横穴と何かが違うと感じた俺は、午後の時間を全てを使ってこの横穴を徹底的に調べることを決めた。
そして昼食を採った後。
飛び出してくるホーンラビットを処理し、新たに見つけた宝箱の回収を繰り返す。そんなことを続けながら次々と新たに現れる分岐を一つずつ2時間ほど掛かりつつも潰していくと、道の先に分岐でも行き止まりでもなく広くなっている空間を見つけた。
もしかしてと期待しつつも慎重に進んで行き、気配を殺しながら広場に出る手前で止まり覗き見る。
するとそこは20メートル四方の小広場になっており、その奥に高さ3メートルほどの黒い門があった。
そしてその門の前に、中型犬ほどの大きさのホーンラビットよりも遥かに大きいホーンラビットが鎮座していた。
黒い門は閉じられていることから、恐らくは巨大なホーンラビット。ビッグホーンラビットとでもしておこうか。そのビッグホーンラビットを倒さないといけないのだろう。
「どうみてもボスっぽいな。もしかして1階層ごとにボスがいるのか?」
そういう設定の漫画もあったな。確か階層守護者とか言うんだったっけか? それを倒して門とか渦の中に入ると、次の階層に行けるとかそういうのだった。
もしそうならアレを倒し、後ろの黒い門を潜れば次の階層に行けるということか。
広場の壁を見るが小穴は見当たらない。つまりあのビッグホーンラビットとタイマンということだ。
「ちょっとデカイがまあ的がデカくなっただけだな、問題ない」
俺はその場に背負っていたリュックを下ろし、身体強化魔法を発動させゆっくりと小広場へと足を踏み入れた。
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