第2話 サキュバス試験ダンジョン
どこからか聞こえてくる水の音に目が覚めると、最初に目に入ったのはうっすらと青白い光を発する不思議な岩だった。
背中からもゴツゴツした岩の感触があり、自分が倒れている事に気付く。
俺は咄嗟に跳ね起きたあと、流れるような動作で警棒を抜き周囲を警戒する。
すると少し離れた場所に綺麗にカットされた石で囲まれた小さな池があり、その周囲に紺色のブレザー姿の生徒が多数倒れているのが確認できた。
更に奥へと視線を向け周りを見渡すと、かなりの数の生徒の姿があった。
どうやらここは岩壁に囲まれたグラウンドほどの広さがある空間のようだ。
スマホをポケットから取り出す。圏外だった。つまり電波の届かないほどの山奥か地下にいる?
集団拉致? いや、この人数を拉致するなんて不可能だ。なにより自分の手すら見えなくなるほど真っ暗になったあの現象はなんだ?
まさか最近キナ臭い隣国が核でも落としたのか? 直撃か何かでブラックアウトしただけってことか? つまりここは死後の世界?
俺があまりの急な環境の変化に眉を顰めて思考していると、倒れていた他の生徒らも気が付いたのか次々と身を起こし始めた。
周囲を確認し驚いている姿が目に映る。パニックになって喚いている奴もいれば、俺と同じ結論に達したのか、俺たちは死んだのかと口にしている奴もいた。中にはまさか異世界召喚!? とか言って騒いでいる奴らもいる。
異世界召喚? ああ、日本に戻って来てから読んだマンガにそんなのがあったな。勇者として召喚され魔王を倒したり、ダンジョンマスターとして召喚されたりと色々あってなかなかに面白かったのを覚えている。そういえば最近やった18禁のエロゲーもそんな設定だったな。
だが漫画のように召喚時に現れる魔法陣とか足下に無かったし、光に包まれたわけでもない。それどころか世界が真っ暗になり、周囲が一切見えなくなる現象。どう見ても死んだと思った方が納得いく。
やっぱ俺の知らないところで核戦争が勃発してたのか? 首都圏に近い神奈川県にドーンとかありえそうだ。
こんなことになるなら預金を全部使ってもっと豪遊するんだったなと考えていると、突然頭の中に女性の声が響いた。
「300ちょいね。まあこんなものかしら」
その声は美しくそして蠱惑的で、聞いているだけで頬や股間が熱くなっていくようなそんな声だった。
『なんだ?どこから聞こえてくるんだ?』
『ここはどこなんだ!?』
『まさか本当に異世界召喚!?』
突然聞こえた声に、周囲の生徒たちは顔を紅潮させつつ反応する。
俺ももしかしたら本当に異世界召喚かと少し期待してきた。
だとしたらマジカルチ○ポと魅了スキルのチートをもらえないだろうか?
「異世界召喚? ふふっ、違う。ここはお前たちのいた場所に作った私のダンジョンよ」
は? ダンジョン? 作った? 日本に?
オイオイ、つまりダンジョン発生に巻き込まれたとかそういうのか? いや、さっきこの女はなんと言った? 300ちょい、こんなものと言った。つまり最初から巻き込むつもりでいた?
『どういうことだ!? 俺たちを元の場所に戻せ!』
『女子たちはどうした!』
『おい! どこにいんだよテメー! 姿を見せろよ!』
などと騒ぐ周囲の生徒たち。こういう時は黙って情報を集めるのが正解なんだが、普通の高校生にそんなことを期待するだけ無駄か。
しかし生徒たちが言っていたように、確かにこの場に女生徒の姿はない。
騒ぎがエスカレートして行き文句の大合唱となった頃、めんどくさそうな声で女は一言。
「黙りなさい、下等生物」
そう言葉を紡いだ瞬間。ピタッと周囲の声が止んだ。
周囲を見ると皆が一様に喉元を押さえ驚愕の表情を浮かべている。
どうなっているんだ? と試しに声を発そうとするが出ない。
どうやら不思議な力で言葉を封じられたようだ。
静かになると声の女性は私はサキュバス族の女王、サキュバスクイーンとそう名乗った。
そして淡々と説明を始めた。
その説明を要約すると
・魔神ザーザードから地球にダンジョンを作り、多くの魂を集めるように命令されている。
・そのため全ての魔族の首長たちがこの地球にダンジョンを作る準備をしている。
・サキュバス族は他の魔族たちに先がけ、この世界とそこに住む人間の力を調査するために試験用のダンジョンを造った。
・そして俺たちは、この試験のテスターとなりこの世界の人間の力を示さなければならない。
と、こういった内容だった。
どうやら地球は魔族から侵略されるらしい。そして俺たちはそのために作られたダンジョンのテスターのようだ。
いや、困惑しかない。
まさかそんなファンタジー漫画のような展開が実際に起こるとは。しかもダンジョンマスターとしてではなく、テスター側とは……そういう漫画もあった気がしたが、どうせならダンジョンマスター側が良かった。そしたらエロダンジョンを作ったんだが。
困惑と不安や絶望。そんな様々な表情を浮かべている俺たちの様子など気にも止めず、サキュバスクイーンは言葉を続ける。
「お前たちが今いる場所は、私のダンジョンの1階層の入口近くの広間である。当然出口はない。だが安心するといい、ここは安全地帯に設定したゆえ魔物は現れない。ここにお前たちが生活するための拠点を用意してやろう」
サキュバスクイーンがそう言うと、今までただの岩壁だった場所に次々と木製の扉が現れた。その数は軽く百を超え、広場の中央付近にいる俺たちを半包囲するように等間隔で展開している。
突然現れた無数の扉に唖然としている生徒たちに、サキュバスクイーンが与えた拠点の説明を始めた。
それによると拠点はマイルームというらしい。
扉の先は俺たち一人一人に与えた異空間に繋がる部屋があるらしく、最初に扉を開いた者以外は入れないそうだ。
中には生活するのに必要最低限の物と、武器防具に食料など、様々な物が購入できる魔水晶という物が置いてあるらしい。
ダンジョンの奥へ潜り魔物を倒し魔石を手に入れ、その魔石を魔水晶でDP《ダンジョンポイント》というこのダンジョンでのみ使える通貨へ換金し食料を買うこと。そうすれば飢えることは無いそうだ。
そして最後に簡単に死なれても困るので、俺たちの着ている制服に簡単な強化魔法を掛けたと言っていた。
そこまで告げると、サキュバスクイーンはそれまでの淡々とした物言いから一変。
楽しさを滲ませたような声色で、先ほどから皆が気になっていたことの答えを告げた。
「そうそう。一緒にいた女たちは戦闘テスターにしても役に立たないゆえ、スレイブ《奴隷》として別次元に保管している。まあ年を取りすぎた者は処分したがな」
は? 女子たちがスレイブ? って奴隷!? 年を取ったのは処分した? 教頭や保健医のおばさんもってことか?
処分という言葉に驚く俺をよそに、彼女はさらに楽しそうに言葉を続ける。
「スレイブとしたのは全部で240人ほどだ。この女たちは DP《ダンジョンポイント》で購入する事ができる。買われた女は購入者の命令に絶対服従となる。淫紋を付与しておるゆえ、性奴隷にするなり好きにすればいい。ダンジョンマスターである我が用意した魔物を倒し、地球の人族の能力を示せ。我が認めるほどの力を得たならば、手に入れたスレイブともども生きてここから出してやろう」
その言葉を最後にサキュバスクイーンの声は聞こえなくなった。
俺はこれまで生きてきた中で1番驚愕していた。
学園にいた女性を購入すれば性奴隷にできる? そんなエロ漫画みたいなことあっていいのか? 本当なのか?
それに力を示したら奴隷と共にダンジョンから出れる? なら売れ残った女生徒や教師たちはどうなる? スレイブになれなかった人たちと同じように処分されるのか?
これは……DPとやらを稼いでスレイブを購入し助けないといけないのでは?
もしかしてここから生きて出るためという大義名分で奴隷ハーレムが作れる?
毎日挨拶してくれる水泳部の美少女や、パンを咥えながら駆け込んでくる金髪ナイスバディの留学生にバレー部の臨時コーチやカウンセラーの美女も性奴隷に?
いや、待て待て。そんな簡単なはずが無いだろう。ここはダンジョンだと言っていたし、魔物を倒せとも言っていた。
つまり対価は命。
うむ、問題ないな。
魔物がどれだけ強いかは知らんが、こちとら物心がついた時から殺し殺される環境にいたんだ。普通の高校生をテスターに選ぶくらいだ。最初からドラゴンとか出て来ることはないだろう。
こういったものは漫画でもゲームでも、最初は弱い魔物から相手にしていくものだ。
できればチートみたいなのは欲しかったが。
ん? そういえば守衛長や他の同僚の姿が見当たらないな。よく見れば学園長や学年主任やほかの教師の姿も見えない。
30代の体育教師やコーチたちはいる。確か守衛長は40代だったから、40歳以上は足切りされたってことか?
「なるほど、男も年を取ったのは駄目ってことか」
守衛仲間や年長の教師の中には良い人もいたが……そうか、処分されたか。
つまり若い男の戦闘能力を知りたいと言うわけか。まあ道理だな。
俺は軽く黙祷を捧げ、手に持っていた警棒を腰のケースに戻した。
先ずはマイルームとかいう部屋の確認をしてみるか。
そう考えた俺は未だに動揺し動けないでいる生徒や教師たちを尻目に、恐らくダンジョンの入口であろう。洞窟の入口のような場所から一番近い扉を開け中に入るのだった。
さて、中はどんな部屋で魔水晶とかいうのでは何が売っていて性奴……いや女子生徒たちはいくら払えば助けられるのか。まずは確認だな。
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