第3話 削除されるはずのヒロイン
「うんうん。そうそうこれこれ!」
俺は村の中心で腕を組みながら小さく何回も頷く。
見覚えしかない村の景色。
ここは草原を抜けた先にある最初の村。
通称【はじまりの村】
そのままだ。
死闘を制した者だけが辿り着く場所で、ここは畑や木で作られた家が並ぶだけの殺風景な村なんだ。
ちなみにチュートリアルで消耗したHPはそのまま継続されるので、殆どのプレイヤーはまず回復アイテムを探すところから始まる。
本来は村の中央へ進むと最初のイベント【村長の娘を救出せよ!】がスタートするのだが、なぜか何も起きない。
まず頭によぎるのが、俺が出会っていないバグの出現だ。
バグによってイベントフラグが立っていない。と予想する。
そうであればゲームの再起動なり対処法はあるが、ゲームの中にいるので再起動することができない。
「じゃあどうすんのおおおお!!!」
頭を抱えてしゃがみこむ。
さっそく座礁に乗り上げてしまった。
開発・制作陣くたばれよマジで。
もうこのゲーム遊ばせる気ねーじゃん。
ってかなんだよシナリオライターが途中で辞めるって。
それのせいで唯一可愛いヒロインの登場シーンが削除されてんだぞ。
意味わかんねーよヒロイン削除って。
よくその状態でリリースしたな。
タイトルに愛を知れって書いてあるけど、時空を越えて恥を知れって罵るユーザーがわんさか沸いたんだぞ。
そのとき。
「あの」
か細い声がした。
振り向くとそこにいたのはフードを被り赤いスカートを履いた女の子がいた。
「えっ……」
その子は俺のほうを向いている。
「あなた……想定外の存在ですよね?」
「なんすかそれ」
俺は考えもせず言葉を発した。
「あなたがここに来たことで、誤差が生じています」
「誤差? えっと、君は?」
「申し遅れました、私はシェルン、と言います」
「シェルン……ってえええええ! ヒロインのシェルン!?」
俺が大声を上げると、シェルンと名乗る子はビクッと体を震わせた。
「ヒロ……イン?」
「あぁっ! いや、こちらの話です!」
「そうでしたか。私をご存じのようですね」
はい。
消されたヒロインですからね。
「そう、ですねちょっとは知っています。それで、誤差というのは?」
「誤差というのは、あなたが負荷となり処理誤差が生じました。ですので本来村長が現れるシーンで何も起きない。という状態です。今村長は自宅の壁に向かって立ち尽くしていますね」
それはちょっとおもろいけど……
「そうなんですね。なぜシェルンさんがそのことを知っているんですか?」
「私はこのゲームが生み出したAIです。ですが、一度私の存在は削除されましたが、あなたが現れたことで再び産み落とされたようです」
「ナイスじゃん俺」
「はい?」
「いやなんでもないです。そしたら俺はどうしたらいいですか?」
生み出したAIというのが気になるけど、きっと制作側の性癖で作っただろうから触れないでおこう。
「はい。ズレたものを戻す必要があります。まずは次の街に向かいましょう。道案内は私に任せてください」
「えっ? このゲームってシナリオ通りにしか進めないはず。順番通りにエリア移動しないとたまにフリーズするし、そもそも門が閉まってて移動ができないはずじゃ?」
「はいその通りです。ですが誤差の関係で門が開きました。つまりは次に向かう街のボスを倒してから、ここに戻るとイベントが発生します」
おいおいおいおいおいおい。
それじゃせっかくの予備知識が無駄になっちゃうじゃんかよ。
本来ならここで超地味な採集クエストを数回終えたあとに洞窟のゴブリン倒してクリアじゃん。
これじゃあ対策が立てられないよ。
しかもこの村のイベント報酬で貰えるアクセサリーが有能だから、必ずゲットしておきたい。
「どうかしましたか?」
「いえ。進みましょう」
制作側がヤケクソなら俺もヤケクソだ。
想定外だけどなんかこの子がガイドしてくれるみたいだし、味方が増えて戦闘が楽になるパターンっしょ。
「出発前に一つだけ。あなたの……お名前を聞いてもいいですか?」
「エイタって言います」
「エイタ。エイタの体力は街に着くまで回復しません。死なないように頑張ってください」
「制作陣死ねよおおおおおおおお!!!!!」
【急募】クソゲーの世界で生き抜く方法 ~転生先はバグ・理不尽・バランス崩壊のクソゲーだった~ ろっし @rossi64
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