第二話
カロリナが僕を飲み干してから、どれだけの時間が経っだろうか、もう、僕には分からない。
(1億年ボタンを押した人はこんなこんな気分なのかなぁ)
僕は意識はあるが、生きているわけではない。だから、眠くもならないし、お腹も空かない。孤独感は、周りにたくさんの
(それにしても、不思議なところだな。ここ。)
僕はカロリナに飲み干されたあと、気がついたら川の一部になっていて、流れに従っていたら不思議な洞窟に流れ着いていた。この世界にも水の循環はあるのだろう。
見たことの無い植物、不思議な光を放つ鉱物、どれも僕が知っている洞窟の姿ではなかった。そして、何よりも違うのは、
(なんなんだろう、この感覚…。)
不思議な感覚がすることだ。なんとも形容詞がたい、恐ろしくもあり、不思議な感じもある、本当に不思議な感覚だ。
(またあの練習でもするか…)
僕がただぼーっとしていたと思っていた読者諸君、それは間違っている。僕は、この長い洞窟での生活の中で、動く練習をしていたのだ。お陰で川が続いている範囲を探索するくらいのことは、出来るようになったのだ。
(うん。もう見飽きた。)
一通り洞窟の中を見て回った時、僕は得体の知れない感覚に襲われた。
(うわぁ!なんなんだ、これ!)
※※※
「ウォーターボール!」
(は?…うわぁ!!)
僕は、謎の謎の掛け声と同時に宙へ飛ばされた。
(なんなんだ今の?そもそもここは?)
僕は宙に飛ばされたあと、大きい、タライのような容器に入った。辺りには田畑が広がっている。村のような場所だろうか。
「師匠〜、水魔法難しいです〜!」
「今初めて打ったんだから当たり前です!もう一度やってみなさい。」
「ふぅ…。ウォーターボール!」
(うわぁぁ!!)
僕は再び容器に飛ばされた。
「なかなか上手く行きませんねぇ…。てぇ!師匠、見てくだい!この水、一部が盛り上がって動いてます!」
やってしまった。つい人前で動いてしまった。
「本当ですねぇ。この水、すごいです。魔力の量がとても多い。まるで生き物みたいです。もしかしたら意識があるかも…。」
(あります。意識、あります。)
「まぁいいです。早く水魔法の練習をやりますよ、シオン。」
「えぇー少し休憩しましょうよ〜。フリミア師匠〜。」
「ダメです!さぁ早く。」
「ちぇぇ。…ウォーターボール!」
(うあああ!!)
※※※
こんなことが何十回、何百回と続いた。僕には三半規管はないはずなのに、なんだか気分が悪くなってきた。
「シオン、そろそろ終わりましょうか。」
「やっとですかぁぁ〜。」
あたりは夕陽に照らされ、紅く染まっている。
「お疲れ様でした。今日は私が夕飯を作ります。シオンはゆっくり休んでください。」
「師匠、優しい。好き。」
「はいはい。早く戻りますよ。」
やっとこの苦行が終わったようだ。
(やっぱりこの世界には、魔法があるみたいだな。カロリナのお母さんの話から、魔物がいることは知っていたけど…。)
「あっ、そうだ!この水、持って帰りましょうか。こんなに多くの魔力を持っている水なんて縁起がいいに決まっています。重いのでシオン、あなたが運んでください。」
「…師匠、やっぱり優しくない。師匠、好きくない。」
※※※
そんなこんなで、僕はこのふたりが住む家に運び込まれた。
「シオン〜。夕飯できましたよ!降りてきて食べましょう。」
「フリミア」と呼ばれる魔法使いが叫ぶ。そして、「シオン」と呼ばれる魔法使いが2階から降りてくる。このふたりは師弟関係で、生活を共にしているのだろう。ふたりが食卓を囲んだ。
「フリミア師匠、あの魔力たっぷりの水はどうするのですか?」
シオンが尋ねた。
「そうですねぇ…。なにかの研究には使えそうですが、まだ検討中ですかね。今のところはあなたの水魔法の練習に使うくらいですね。」
(またあの感覚を味わわせるのか…。普通に嫌だ。)
「…。それはそうとして、フリミア師匠に聞きたいことがあったんです。」
「なんですか?」
「魔法を使った時に現れる、火や水はどこから来るんですか?」
「良い質問ですね。関心です。その問の答えを知るためには、まず、魔力について知る必要があります。」
(魔力…。この世界を知るために、しっかり聞いておいた方が良さそうだ。)
「まず、魔力は、大気のように、この世界全体を包んでいます。そして、魔力どうしは繋がっていて、情報を伝え合います」
「ほうほう。」
「これがわかると、なぜ魔法を使うと火や水が現れるのかが分かります。魔法とは、周囲の魔力に情報を伝えることなのです。魔法を使うと、術者の周囲の魔力に情報が伝わり、さらにその情報が周りの魔力へと伝わり、最終的には、術者の近くの魔力が濃い場所にある、火や水が、術者の前に現れるのです。」
「ほへぇーん。」
気の抜けた返事だ。
「シオン!あなた、私の話聞いてなかったでしょう!」
「だって、師匠の話が長いんだもん。」
「呆れますね。」
(なるほど、僕が突然洞窟から村に移動したのは、あの洞窟が魔力が濃い場所で、僕がそこにいたからなのか。それなら、あの不思議な感覚も説明がつく。)
※※※
「ウォーターボール!」
(なんか慣れてくると、楽しく感じるな。)
すると、シオンが叫んだ。
「フリミア師匠!あれはなんですか!?」
翼の生えた、巨大な生物がこちらに向かってきている。田畑に大きな影ができている。
「…。あれは、竜族です。私たちでは絶対に勝てません。シオン、逃げますよ。」
「待ってください!私たちは魔法で逃げることができます。しかし、この村の住民はどうなるのですか!」
「…。食べられるか、踏み潰されてしまうでしょう…。」
(そんな…。酷すぎる。この村で平和に過ごして来た住民が、突然やってきた、1匹の竜族に蹂躙されていいわけが無い。)
「フリミア師匠、私、戦います。私はこの村の人達が大好きです。彼らが殺されている中、私だけ逃げることなんてできません。」
シオンがさっきまでとは別人のような真剣な表情でそう言った。フリミアは1度俯き、顔を上げた。
「そうですね。私も戦います。せいぜい死なないでくださいね。」
「当然です!」
※※※
ふたりは勇敢に戦った。ふたりが戦っている間に住民は安全な王都まで避難することができた。しかし、魔法使いのふたりは…。
死んだ。
シオンは、フリミアの目の前で爪で体を三つに割かれ、ショックで動けなくなったフリミアは、生きたままいたぶられた後、竜族に丸呑みにされた。
(…まさに悪夢だ。これが現実だなんて信じられない。)
平和だった村は見る影もなく、荒れ果てた土地になっていた。ついさっきまで人が住んでいたとは誰も思わないだろう。
僕はこの世界の残酷さ、無情さを憎みながら、僕は、蒸発しきってバラバラになった。
転生したら水でした。水として、雲として、水蒸気として、異世界のあちこちをめぐります。 水乃タマ @misakaki3
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