第40.5話 希望という名の光
希望が生まれて、最初の一年は、慌ただしかった。
夜泣き、授乳、おむつ替え。
初めての育児に、私は戸惑うこともあった。
でも、アレンがいつもそばにいてくれた。
「水野、今日は俺が見ている」
「でも」
「お前は、少し休め」
アレンは、希望を抱き上げた。
「ほら、希望。父さんだぞ」
希望は、アレンの顔を見て、笑った。
小さな、でも明るい笑顔。
「笑った」
アレンは、感動した顔をした。
「希望が、笑った」
私も、嬉しかった。
生後三ヶ月。
希望は、首がすわるようになった。
私が抱くと、しっかりと首を持ち上げて、周りを見渡す。
好奇心旺盛な子だった。
「水野、見ろ」
アレンが、嬉しそうに言った。
「希望が、おもちゃを掴んだ」
確かに、希望は小さな手で、ガラガラを掴んでいる。
そして、振っている。
カラカラと、音が鳴る。
希望は、その音が気に入ったようで、何度も振った。
「賢い子ですね」
「ああ。お前に似たんだ」
ある日、エリーゼが訪ねてきた。
「水野様、希望ちゃんの様子を見に来ました」
「ありがとうございます」
エリーゼは、希望を抱き上げた。
「まあ、大きくなりましたね」
「...」
「もう三ヶ月ですか」
「はい」
エリーゼは、希望に微笑みかけた。
「希望ちゃん、おばさまですよ」
希望は、エリーゼの顔をじっと見た。
そして、手を伸ばして、エリーゼの髪に触れた。
「あら」
エリーゼは、笑った。
「髪が気に入ったのかしら」
希望は、エリーゼの金髪を掴んで、引っ張った。
「痛い痛い」
でも、エリーゼは嬉しそうだった。
「元気な子ですね」
生後六ヶ月。
希望は、寝返りができるようになった。
そして、ずりばいを始めた。
床の上を、一生懸命に這っている。
「希望、こっちだ」
アレンが、希望の前におもちゃを置いた。
希望は、おもちゃに向かって這っていく。
そして、おもちゃを掴んだ。
「やった」
アレンは、拍手した。
私も、拍手した。
希望は、私たちを見て、笑った。
拍手が嬉しいようだ。
ある日、ガルドとリーナが訪ねてきた。
「おお、希望」
ガルドは、希望を見て、豪快に笑った。
「大きくなったな」
リーナも、嬉しそうだった。
「希望ちゃん、覚えていますか」
希望は、リーナの顔を見た。
そして、手を伸ばした。
「あら」
リーナは、希望を抱き上げた。
「覚えていてくれたんですね」
希望は、リーナの顔に手を伸ばして、頬を触った。
「優しい子ですね」
ガルドは、アレンに言った。
「アレン、父親の顔になってきたな」
「...そうか」
「ああ。以前よりも、柔らかい顔をしている」
アレンは、少し照れた。
「希望のおかげだ」
「...」
「この子がいるから、俺は毎日幸せだ」
生後九ヶ月。
希望は、つかまり立ちができるようになった。
テーブルの脚を掴んで、立ち上がる。
そして、嬉しそうに私たちを見る。
「すごいですね、希望」
私は、拍手した。
希望は、得意げな顔をした。
でも、次の瞬間、バランスを崩して、座り込んだ。
「大丈夫?」
私は、駆け寄った。
でも、希望は泣かなかった。
すぐに、また立ち上がろうとした。
「強い子だな」
アレンが、感心した。
「転んでも、すぐに立ち上がる」
「...」
「お前に似たんだな、水野」
私は、微笑んだ。
「あなたにも似ていますよ」
生後十ヶ月。
希望は、伝い歩きを始めた。
家具を伝って、部屋中を移動する。
好奇心旺盛で、何でも触りたがる。
「希望、それは危ない」
アレンが、希望を止めた。
希望は、アレンを見上げて、少し不満そうな顔をした。
「父さんが、守ってやる」
アレンは、希望を抱き上げた。
「だから、危ないことはするな」
でも、希望はすぐに、別のものに興味を示した。
窓の外を見て、手を伸ばす。
外に、鳥が飛んでいた。
「とり」
希望が、初めて言葉を発した。
「今、何て言った?」
私は、驚いた。
「とり、って言いましたよね」
アレンも、驚いていた。
「希望、もう一度言ってみろ」
「とり」
希望は、はっきりと言った。
私たちは、大喜びした。
「すごい、希望」
「初めての言葉だ」
その日から、希望はどんどん言葉を覚え始めた。
「まま」
「ぱぱ」
「ちゃ」(お茶)
「まんま」(ご飯)
一歳の誕生日。
私たちは、小さなパーティーを開いた。
エリーゼ、ガルド、リーナ、そして国王も来てくれた。
「希望ちゃん、一歳のお誕生日おめでとう」
エリーゼが、大きなケーキを用意してくれた。
希望は、ケーキを見て、目を輝かせた。
「けーき」
「そうよ、ケーキよ」
みんなで、歌を歌った。
そして、希望がケーキのろうそくを吹き消した。
「わあ」
みんなが、拍手した。
希望は、嬉しそうに笑った。
一歳三ヶ月。
希望は、一人で歩けるようになった。
最初の一歩は、忘れられない。
私とアレンが、少し離れて座っていた。
「希望、おいで」
私が、手を伸ばした。
希望は、立ち上がった。
そして、一歩、踏み出した。
よろよろとしているけれど、確実に歩いている。
二歩、三歩。
そして、私の腕の中に飛び込んできた。
「できた」
私は、希望を抱きしめた。
「すごいね、希望」
アレンも、駆け寄ってきた。
「よくやった、希望」
希望は、嬉しそうに笑った。
一歳半。
希望は、走り回るようになった。
家の中を、元気に走っている。
「希望、走りすぎだ」
アレンが、注意した。
でも、希望は止まらない。
「きゃは」
笑いながら、逃げ回っている。
「捕まえた」
アレンは、希望を抱き上げた。
希望は、アレンの腕の中で笑っている。
「父さんと、遊ぶの好きか」
「すき」
希望は、はっきりと言った。
アレンの目から、涙がこぼれた。
「ありがとう、希望」
二歳。
希望は、もうしっかりと話せるようになった。
「お母さん、お腹すいた」
「じゃあ、ご飯を食べましょうね」
「うん」
希望は、食事の時、いつも笑顔だった。
「美味しい」
「よかったね」
ある日、希望が聞いた。
「お母さん、お仕事は?」
「お母さんは、診療所で働いているのよ」
「しんりょうしょ?」
「そう。病気の人や、怪我をした人を助ける場所」
希望は、真剣な顔で聞いている。
「お母さんは、すごいね」
「...」
「希望も、大きくなったら、お母さんみたいになりたい」
私は、希望を抱きしめた。
「ありがとう、希望」
希望は、私の腕の中で、安心したように眠ってしまった。
小さな、温かい体。
この子が、私たちの娘。
この子のために、これからも頑張ろう。
そう、思った。
ある夜、アレンと二人で話をした。
希望は、もう寝ている。
「水野」
「はい」
「希望が生まれて、二年が経った」
「ええ」
「この二年間、本当に幸せだった」
アレンは、私の手を握った。
「お前と、希望と、三人で過ごす毎日が」
「...」
「何よりも、大切だ」
私も、アレンの手を握り返した。
「私も、です」
「...」
「毎日が、幸せです」
アレンは、私を抱きしめた。
「これからも、ずっと一緒にいよう」
「はい」
「三人で」
「はい」
私たちは、長い時間、抱き合っていた。
希望という名前をつけた、私たちの娘。
この子は、本当に私たちの希望だった。
この子がいるから、毎日を頑張れる。
この子がいるから、未来が明るい。
希望という名の光が、私たちの家族を照らしている。
これからも、ずっと。
二歳半のある日、希望が不思議なことを言った。
「お母さん」
「何?」
「お母さんは、どこから来たの?」
私は、少し驚いた。
まだ小さいのに、そんなことを聞くなんて。
「お母さんは、遠いところから来たのよ」
「遠いところ?」
「ええ。とても遠い、別の世界から」
希望は、不思議そうな顔をした。
「別の世界?」
「そう」
私は、希望を膝に乗せた。
「でも、この世界に来て、お父さんと出会ったの」
「...」
「そして、希望が生まれた」
希望は、私の顔を見上げた。
「お母さん、こっちに来てよかった?」
「ええ」
私は、はっきりと答えた。
「とてもよかった」
「...」
「だって、お父さんと、希望に会えたんだもの」
希望は、満足そうに微笑んだ。
「よかった」
そして、私の胸に顔をうずめた。
「お母さん、大好き」
私も、希望を抱きしめた。
「お母さんも、希望が大好きよ」
この子のために、この世界に来たのかもしれない。
そう思えるほど、希望は私の宝物だった。
三歳になる直前、希望は初めて診療所を訪れた。
「お母さん、ここがお仕事の場所?」
「そうよ」
診療所には、数人の患者がいた。
みんな、希望を見て、微笑んだ。
「先生のお嬢さんですか」
「はい」
「可愛らしい」
希望は、少し恥ずかしそうにしていた。
でも、すぐに患者さんたちに興味を示した。
「この人、どうしたの?」
希望が、リハビリ中の老人を見て、聞いた。
「脚を怪我して、歩くのが大変だったの」
「...」
「でも、リハビリで、少しずつ良くなっているのよ」
「リハビリ?」
「そう。諦めないで、毎日頑張ることよ」
希望は、真剣な顔で聞いていた。
「お母さんは、すごいね」
「...」
「人を助けてるんだね」
私は、希望の頭を撫でた。
「希望も、いつか誰かを助けられる人になってね」
「うん」
希望は、力強く頷いた。
「希望も、お母さんみたいになる」
その日の夜、アレンに報告した。
「希望が、診療所に来たんです」
「そうか」
「そして、言ったんです。お母さんみたいになりたい、って」
アレンは、微笑んだ。
「いい子に育っているな」
「ええ」
「お前のおかげだ、水野」
「いいえ、あなたのおかげでもありますよ」
二人で、笑った。
希望は、私たちの宝物。
これからも、大切に育てていこう。
そう、心に誓った。
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