新たな始まり

第36話 凱旋

 王都への帰路は、来た時とは全く違った。

 

 心が軽かった。

 

 ゼノンを倒し、魔王の復活を阻止した。

 

 世界に、平和が戻った。

 

 二日間の旅を終えて、私たちは王都に到着した。

 

 城門をくぐると、そこには多くの人々が待っていた。

 

 国王、エリーゼ、メルキオール、そして宮廷の人々。

 

 街の人々も、集まっていた。

 

「アレン様」

「勇者様」

「お帰りなさい」

 

 人々が、歓声を上げた。

 

 エリーゼが、涙を流しながら駆け寄ってきた。

 

「アレン、水野様」

 

 エリーゼは、私たちを抱きしめた。

 

「本当に、無事で」

「ただいま、エリーゼ」

 

 アレンは、微笑んだ。

 

「約束通り、帰ってきた」

 

 国王も、前に出てきた。

 

「アレン・ヴァルハイト」

「はい、陛下」

「よくやった」

 

 国王は、アレンの肩に手を置いた。

 

「お前は、再び世界を救った」

「...」

「王国の、いや、世界の英雄だ」

 

 国王は、群衆を見渡した。

 

「皆の者、聞け」

「...」

「勇者アレン・ヴァルハイトと、その仲間たちが、魔王の復活を阻止した」

「...」

「世界に、平和が戻った」

 

 群衆から、大きな歓声が上がった。

 

「アレン様」

「勇者様、万歳」

「ありがとうございます」

 

 私たちは、王城の中に案内された。

 

 謁見の間で、正式な報告を行った。

 

「ゼノンを倒し、闇の心臓を破壊しました」

 

 アレンが、報告した。

 

「魔王の城も、完全に崩壊しました」

「...」

「もう、魔王が復活することはありません」

 

 国王は、満足そうに頷いた。

 

「素晴らしい」

「...」

「アレン、お前には、何か褒美を与えたい」

「...」

「何か、望むものはあるか」

 

 アレンは、少し考えて、言った。

 

「では、一つだけ」

「何だ」

「水野あかりとの結婚を、正式にお認めいただきたい」

 

 国王は、微笑んだ。

 

「それは、すでに認めている」

「...」

「では、もう一つ」

「...」

「盛大な結婚式を、執り行わせてほしい」

 

 国王は、大きく頷いた。

 

「もちろんだ」

「...」

「王国最大の祝福を持って、お前たちの結婚を祝おう」

 

 私は、嬉しくて涙が出そうになった。

 

 アレンと、正式に結婚できる。

 

 この世界で、新しい人生を始められる。

 

 謁見が終わった後、エリーゼが私を呼んだ。

 

「水野様、少しお話ししてもよろしいですか」

「はい」

 

 私たちは、庭園を散歩した。

 

「水野様、本当におめでとうございます」

「ありがとうございます、エリーゼ様」

「結婚式は、一週間後に行われます」

「...」

「王国最大の式典になるでしょう」

 

 エリーゼは、微笑んだ。

 

「私も、全力でサポートします」

「...」

「ドレスの最終調整、式場の準備、招待客のリスト」

「...」

「すべて、私にお任せください」

 

 私は、エリーゼの手を握った。

 

「本当に、ありがとうございます」

「いいえ」

 

 エリーゼは、空を見上げた。

 

「これは、私の最後の仕事です」

「最後の?」

「ええ」

 

 エリーゼは、私を見た。

 

「アレンへの想いを、手放す最後の仕事です」

「...」

「お二人の結婚式を、完璧にすることで」

「...」

「私も、前に進めます」

 

 私は、エリーゼを抱きしめた。

 

「エリーゼ様、ありがとうございます」

「...」

「あなたは、本当に強い人です」

 

 エリーゼも、私を抱きしめ返した。

 

「いいえ、水野様」

「...」

「あなたの方が、ずっと強いです」

 

 その夜、アレンと二人で王城の屋上に上がった。

 

 星空が、美しかった。

 

「水野」

「はい」

「一週間後、俺たちは結婚する」

「...ええ」

「本当に、いいのか」

「...」

「元の世界に、戻らなくても」

 

 私は、アレンの手を握った。

 

「もう、決めました」

「...」

「この世界で、アレンさんと生きていきます」

 

 アレンは、私を抱きしめた。

 

「ありがとう」

「...」

「俺は、お前と出会えて、本当によかった」

「...」

「お前が、俺の人生を変えてくれた」

 

 私も、アレンを抱きしめ返した。

 

「私も、アレンさんと出会えて、よかったです」

「...」

「この世界に来て、よかった」

 

 二人で、長い時間、抱き合っていた。

 

 一週間後、私たちの新しい人生が始まる。

 

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