第35話 魔王城へ

 翌朝、私たちは早くに出発した。

 

 森を抜けて、荒野に出た。

 

 荒涼とした大地。草も木もほとんどない。

 

 そして、遠くに黒い城が見えた。

 

 魔王の城。

 

 かつて、アレンが魔王を倒した場所。

 

「あれか」

 

 ガルドが、城を見た。

 

「不気味だな」

「ああ」

 

 城は、巨大だった。

 

 黒い石で作られ、無数の塔がそびえ立っている。

 

 周りには、黒い霧が漂っていた。

 

 私たちは、馬を降りて、徒歩で城に近づいた。

 

 城門は、開いていた。

 

 まるで、私たちを待っているかのように。

 

「罠か」

 

 ガルドが、警戒した。

 

「おそらく」

 

 アレンは、聖剣を抜いた。

 

「でも、行くしかない」

 

 私たちは、城門をくぐった。

 

 中は、薄暗かった。

 

 リーナが、光の魔法を使った。

 

「光よ」

 

 杖が光って、周りが見えるようになった。

 

 広い中庭。

 

 でも、何もない。

 

 静かすぎる。

 

「気をつけろ」

 

 アレンが、前を歩いた。

 

 中庭を抜けて、城の本体に入った。

 

 長い廊下が続いている。

 

 壁には、古い絵画が飾られている。

 

 戦争の絵、破壊の絵、死の絵。

 

 不気味だった。

 

 廊下を進むと、広いホールに出た。

 

 天井が高く、シャンデリアが吊るされている。

 

 でも、明かりは灯っていない。

 

 そして、ホールの中央に、誰かが立っていた。

 

 黒いローブを着た、男。

 

 ゼノンだった。

 

「よく来たな、アレン・ヴァルハイト」

 

 ゼノンは、冷たく笑った。

 

「待っていたぞ」

「ゼノン」

 

 アレンは、剣を構えた。

 

「闇の心臓を、返してもらう」

「返す?」

 

 ゼノンは、嘲笑った。

 

「もう、遅い」

「...」

「魔王は、もうすぐ復活する」

 

 ゼノンは、手を広げた。

 

「あと、数時間だ」

「...」

「そうしたら、この世界は再び闇に包まれる」

「させるか」

 

 アレンは、ゼノンに向かって走った。

 

 聖剣が、ゼノンに届こうとした。

 

 でも、ゼノンは闇の魔法で防いだ。

 

「闇の壁」

 

 黒い壁が、剣を弾いた。

 

「無駄だ」

「...」

「お前ごときに、俺は倒せない」

 

 ゼノンは、反撃した。

 

「闇の槍」

 

 無数の黒い槍が、アレンに飛んだ。

 

 アレンは、聖剣で弾いた。

 

 聖剣が、光を放った。

 

 槍が、光に触れて消えた。

 

「ほう」

 

 ゼノンは、興味深そうに言った。

 

「聖剣か」

「...」

「なるほど、闇を打ち消す力がある」

「...」

「だが、それだけでは足りん」

 

 ゼノンは、さらに強力な魔法を放った。

 

「闇の奔流」

 

 巨大な闇の波が、私たちに襲いかかった。

 

「リーナ、バリアを」

「はい」

 

 リーナは、杖を振った。

 

「光の盾」

 

 光のバリアが、闇を防いだ。

 

 でも、バリアが徐々に侵食されていく。

 

「持ちません」

 

 リーナの顔が、苦痛に歪んだ。

 

「ガルド」

「わかってる」

 

 ガルドは、大剣を投げた。

 

 大剣が、ゼノンに向かって飛んだ。

 

 ゼノンは、それを避けた。

 

 その隙に、アレンが接近した。

 

 聖剣が、ゼノンの肩を切り裂いた。

 

「くっ」

 

 ゼノンは、後ろに下がった。

 

 肩から、黒い血が流れている。

 

「やるな」

「...」

「だが、まだまだ」

 

 ゼノンは、傷を手で押さえた。

 

 すると、傷が塞がった。

 

「再生するのか」

「ああ」

 

 ゼノンは、笑った。

 

「俺は、もう人間ではない」

「...」

「魔王の力を取り込んだのだ」

「...」

「不死身に近い」

 

 戦いは、膠着状態になった。

 

 アレンとガルドが攻撃するけれど、ゼノンは再生する。

 

 リーナの魔法も、ゼノンには効かない。

 

 私は、何もできずに見ているしかなかった。

 

 どうすれば、倒せるのか。

 

 その時、ふと気づいた。

 

 ゼノンの胸。

 

 ローブの下に、何か光るものがある。

 

 闇の心臓だ。

 

「アレンさん」

 

 私は、叫んだ。

 

「ゼノンの胸」

「...」

「闇の心臓を、取り込んでいます」

「...」

「あれが、ゼノンの力の源です」

 

 アレンは、理解した。

 

「胸を狙えばいいのか」

「はい」

 

 アレンは、ゼノンに向かった。

 

 でも、ゼノンは警戒している。

 

 胸を守るように、闇の魔法を展開した。

 

「気づいたか」

「...」

「だが、この守りは破れない」

 

 その時、リーナが言った。

 

「私が、守りを破ります」

「リーナ」

「最後の力を使います」

 

 リーナは、杖を高く掲げた。

 

「光よ、すべてを貫け」

「聖光の矢」

 

 眩しい光の矢が、ゼノンに向かって飛んだ。

 

 闇の守りを、貫いた。

 

「今だ、アレン」

 

 アレンは、全力で走った。

 

 そして、聖剣をゼノンの胸に突き刺した。

 

 ゼノンの目が、大きく見開かれた。

 

「ば、馬鹿な」

 

 闇の心臓が、砕けた。

 

 ゼノンの体が、崩れ始めた。

 

「俺は、魔王を復活させるはずだったのに」

「...」

「世界を、闇に包むはずだったのに」

 

 ゼノンは、倒れた。

 

 そして、灰になって消えた。

 

 戦いは、終わった。

 

「やった」

 

 ガルドが、嬉しそうに言った。

 

 でも、次の瞬間。

 

 城全体が、激しく揺れ始めた。

 

「何だ」

 

 天井から、石が落ちてきた。

 

 城が、崩壊し始めている。

 

「まずい、逃げるぞ」

 

 アレンが、叫んだ。

 

 私たちは、来た道を戻り始めた。

 

 でも、道が崩れていく。

 

 リーナは、魔力を使い果たして、倒れた。

 

「リーナさん」

 

 私は、リーナを支えた。

 

「ガルド、リーナを」

「わかった」

 

 ガルドは、リーナを背負った。

 

 私たちは、必死に走った。

 

 石が、降り注ぐ。

 

 壁が、崩れる。

 

 出口が、見えた。

 

 あと少し。

 

 でも、天井が落ちてきた。

 

「危ない」

 

 アレンは、私を押し倒した。

 

 天井の石が、アレンの背中を直撃した。

 

「アレンさん」

 

 私は、叫んだ。

 

 アレンは、血を流していた。

 

「大丈夫だ」

 

 アレンは、立ち上がろうとした。

 

 でも、足がふらついた。

 

「アレンさん、動かないで」

 

 私は、すぐに回復薬を取り出した。

 

 エリーゼがくれた、最強の回復薬。

 

 アレンに飲ませた。

 

 傷が、一瞬で治った。

 

「ありがとう、水野」

 

 アレンは、立ち上がった。

 

「さあ、行こう」

 

 私たちは、出口に向かって走った。

 

 そして、城の外に出た。

 

 その直後、城が完全に崩壊した。

 

 轟音と共に、瓦礫の山になった。

 

 私たちは、安全な場所まで離れた。

 

「ふう」

 

 みんな、座り込んだ。

 

 疲れ果てていた。

 

 でも、達成感があった。

 

 ゼノンを倒した。

 

 魔王の復活を、阻止した。

 

「やったな」

 

 ガルドが、笑った。

 

「ああ」

 

 アレンも、微笑んだ。

 

「みんなのおかげだ」

 

 リーナは、まだ意識がなかった。

 

 私は、リーナを診た。

 

 過労だった。

 

 休めば、回復するだろう。

 

 私たちは、その場で一晩過ごした。

 

 翌朝、リーナが目を覚ました。

 

「あれ、私」

「リーナさん、よかった」

 

 私は、安堵した。

 

「無事です」

「...そうですか」

 

 リーナは、微笑んだ。

 

「よかった」

 

 私たちは、王都への帰路についた。

 

 長い戦いが、終わった。

 

 これで、本当に平和が戻る。

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