第34話 最終決戦への準備

 翌朝、王城では緊急の会議が開かれた。

 

 国王、エリーゼ、メルキオール、そして各地の領主たち。

 

 アレン、ガルド、リーナ、そして私も参加した。

 

「状況を、説明する」

 

 メルキオールが、立ち上がった。

 

「昨夜、ゼノンが闇の心臓を奪い、魔王復活の儀式を開始しました」

「...」

「儀式には、三日間かかります」

「...」

「三日後、魔王が完全に復活します」

 

 会議室が、ざわついた。

 

「では、三日以内に、ゼノンを倒さなければならない」

 

 一人の領主が、言った。

 

「その通りです」

 

 メルキオールは、地図を広げた。

 

「ゼノンは、北の廃城に潜んでいると思われます」

「...」

「かつて、魔王が本拠地にしていた場所です」

 

 メルキオールは、地図上の一点を指した。

 

「ここです」

「...」

「王都から、二日の距離」

 

 国王が、アレンを見た。

 

「アレン」

「はい」

「お前に、任せる」

「...」

「ゼノンと魔王を、倒してくれ」

 

 アレンは、頷いた。

 

「必ずや」

 

 会議が終わった後、私たちは準備を始めた。

 

 武器、防具、食料、薬。

 

 すべてを確認した。

 

 エリーゼが、特別な武器を用意してくれた。

 

「これは、聖剣エクスカリバー」

 

 エリーゼは、美しい剣を取り出した。

 

 刃が、淡く光っている。

 

「王家に代々伝わる、伝説の剣です」

「...」

「魔王を倒す力があると、言われています」

 

 アレンは、剣を受け取った。

 

「重い」

「ええ。でも、強力です」

 

 アレンは、剣を振ってみた。

 

 剣が、空気を切り裂く音。

 

「確かに、強力だ」

 

 エリーゼは、また小さな瓶を取り出した。

 

「これは、最強の回復薬です」

「...」

「どんな傷も、一瞬で治します」

「...」

「ただし、一人一本しかありません」

 

 エリーゼは、私たち四人に一本ずつ渡した。

 

「大切に、使ってください」

「ありがとうございます」

 

 その日の午後、私はアレンと二人で庭園を散歩した。

 

 明日、出発する。

 

 最後の戦いに。

 

「水野」

「はい」

「お前は、城に残ってくれないか」

 

 アレンは、真剣な顔で言った。

 

「今回の戦いは、これまでで最も危険だ」

「...」

「魔王との戦いだ」

「...」

「だから、お前は」

「いいえ」

 

 私は、首を振った。

 

「私も、行きます」

「でも」

「アレンさん、私たちは婚約者です」

「...」

「一緒に戦います」

 

 私は、アレンの手を握った。

 

「それに、私は医療の専門家です」

「...」

「もし、誰かが怪我をしたら、私が必要です」

 

 アレンは、しばらく黙っていた。

 

 そして、ため息をついた。

 

「...わかった」

「...」

「でも、絶対に無理はするな」

「はい」

「危険だと思ったら、すぐに逃げろ」

「約束します」

 

 アレンは、私を抱きしめた。

 

「俺は、お前を失いたくない」

「...」

「だから、絶対に生きて帰ろう」

「はい」

 

 私も、アレンを抱きしめ返した。

 

「二人で、生きて帰りましょう」

「...」

「そして、結婚しましょう」

「ああ」

 

 その夜、エリーゼが私を呼んだ。

 

「水野様、少しお話ししてもよろしいですか」

「はい」

 

 私たちは、エリーゼの部屋で話をした。

 

「水野様、明日から最後の戦いですね」

「はい」

「...怖くありませんか」

「怖いです」

 

 私は、正直に答えた。

 

「とても、怖いです」

「...」

「でも、アレンさんのそばにいたいんです」

 

 エリーゼは、微笑んだ。

 

「水野様は、本当に強い方ですね」

「...」

「私には、できません」

「...」

「大切な人を、危険な場所に送り出すことしか」

 

 エリーゼの目から、涙がこぼれた。

 

「私は、いつも待つだけです」

「...」

「何もできないんです」

 

 私は、エリーゼの手を握った。

 

「エリーゼ様、あなたは十分頑張っています」

「...」

「装備を用意してくれて、励ましてくれて」

「...」

「それは、とても大切なことです」

 

 エリーゼは、涙を拭った。

 

「ありがとうございます」

「...」

「水野様、お願いです」

「はい」

「アレンを、連れて帰ってきてください」

「...」

「必ず、生きて」

 

 私は、頷いた。

 

「約束します」

 

 翌朝、私たちは出発した。

 

 国王、エリーゼ、そして多くの宮廷の人々が、見送りに来てくれた。

 

「アレン・ヴァルハイト」

 

 国王が、言った。

 

「王国の、いや、世界の命運が、お前たちにかかっている」

「...」

「頼んだぞ」

「はい、お任せください」

 

 エリーゼは、涙を流しながら手を振っていた。

 

 私たちは、馬に乗って出発した。

 

 北へ。廃城へ。

 

 魔王との、最後の戦いへ。

 

 道中、私たちはほとんど話をしなかった。

 

 みんな、緊張していた。

 

 これから、どんな戦いが待っているのか。

 

 生きて帰れるのか。

 

 不安だった。

 

 でも、同時に、決意もあった。

 

 絶対に、勝つ。

 

 魔王を倒す。

 

 そして、平和を取り戻す。

 

 一日目の夕方、私たちは森の中で野営した。

 

 焚き火を囲んで、夕食を取った。

 

「明日の昼には、廃城に着く」

 

 アレンが、地図を見ながら言った。

 

「そして、戦いが始まる」

 

 ガルドが、大剣を磨きながら言った。

 

「今度こそ、ゼノンを倒す」

「...」

「あいつに、やられっぱなしだったからな」

 

 リーナは、静かに祈っていた。

 

「神よ、どうか私たちに力を」

 

 私は、医療道具を確認していた。

 

 包帯、消毒液、縫合道具、薬。

 

 すべて、揃っている。

 

「みんな」

 

 アレンが、立ち上がった。

 

「明日、魔王との戦いになる」

「...」

「正直に言う。勝てる保証はない」

「...」

「でも、俺たちは戦わなければならない」

 

 アレンは、私たち一人一人を見た。

 

「ガルド、リーナ、水野」

「...」

「ありがとう」

「...」

「お前たちがいてくれて、本当に心強い」

 

 ガルドが、笑った。

 

「何を言ってるんだ、アレン」

「...」

「俺たちは、仲間だろう」

「...」

「最後まで、一緒に戦うさ」

 

 リーナも、頷いた。

 

「私も、最後まで戦います」

「...」

「みなさんと一緒に」

 

 私も、立ち上がった。

 

「私も、最後まで一緒にいます」

「...」

「アレンさんを、支えます」

 

 アレンは、微笑んだ。

 

「ありがとう、みんな」

 

 その夜、私はなかなか眠れなかった。

 

 明日、魔王と戦う。

 

 生きて帰れるだろうか。

 

 アレンと、結婚できるだろうか。

 

 不安が、襲ってきた。

 

 でも、同時に、覚悟もあった。

 

 どんなことがあっても、アレンを守る。

 

 そして、一緒に生きて帰る。

 

 それが、私の使命だ。

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