第33話 帰還、そして暗雲
二週間後、私たちは王都に到着した。
長い旅だった。
四つの試練を乗り越え、すべての欠片を集めた。
王城の門をくぐると、エリーゼが駆け寄ってきた。
「アレン、水野様」
エリーゼの目には、涙があった。
「本当に、無事で」
「ただいま、エリーゼ」
アレンは、微笑んだ。
「約束通り、帰ってきた」
エリーゼは、私たち一人一人を抱きしめた。
「みなさん、お疲れ様でした」
「...」
「本当に、よく頑張られました」
私たちは、すぐに謁見の間に案内された。
国王とメルキオールが、待っていた。
「アレン・ヴァルハイト」
国王は、威厳のある声で言った。
「よくぞ、戻った」
「はい、陛下」
「そして、四つの欠片、すべてを回収したと聞いた」
「はい」
アレンは、袋から四つの欠片を取り出した。
黒い宝石が、不気味に光っている。
国王は、欠片を見て、真剣な顔をした。
「これが、魔王の力の源か」
「はい」
「...恐ろしい力を感じる」
メルキオールが、前に出た。
「陛下、これらの欠片は、すぐに破壊しなければなりません」
「破壊?」
「はい。四つが揃った今、ゼノンがこれを狙ってくるでしょう」
「...」
「もし奪われたら、魔王が復活してしまいます」
国王は、頷いた。
「では、すぐに破壊の儀式を行え」
「はい」
メルキオールは、欠片を受け取った。
「今夜、満月の下で、破壊の儀式を行います」
「...」
「それまで、厳重に保管いたします」
謁見が終わった後、エリーゼが私たちを自分の部屋に招いた。
「みなさん、本当にお疲れ様でした」
エリーゼは、豪華な食事を用意してくれていた。
肉料理、魚料理、新鮮な野菜、果物。
久しぶりの、まともな食事だった。
「美味しいですね」
私は、感動しながら食べた。
「ええ」
リーナも、嬉しそうに食べている。
ガルドは、豪快に肉を食べていた。
アレンは、少し疲れた顔をしていたけれど、それでもしっかり食べていた。
食事の後、エリーゼが言った。
「今夜の儀式ですが」
「...」
「王城の中庭で行います」
「...」
「アレンたちも、参加してください」
「わかった」
アレンは、頷いた。
「欠片が、完全に破壊されるのを、この目で見届けたい」
その日の午後、私は自分の部屋で休んでいた。
長い旅の疲れが、どっと出てきた。
ベッドに横になって、目を閉じた。
すぐに、眠りに落ちた。
夢を見た。
日本の夢だった。
訪問看護ステーション「ひまわり」。
田中さん、川口さん、患者さんたち。
森下さん、山田さん、桐島さん。
みんなの顔が、浮かんでくる。
「水野さん、どこに行ったの」
田中さんが、悲しそうに言った。
「もう、戻ってこないの」
私は、答えられなかった。
ごめんなさい。
私は、この世界に残ることを決めた。
みんなを、置いていく。
夢の中で、涙が流れた。
ふと、目が覚めた。
頬が、濡れていた。
本当に、泣いていたようだ。
私は、起き上がった。
窓の外を見ると、夕日が沈んでいた。
もうすぐ、夜になる。
儀式の時間だ。
私は、服を着替えて、部屋を出た。
廊下で、アレンに会った。
「水野」
「アレンさん」
「泣いていたのか」
アレンは、私の頬に触れた。
「...少し」
「元の世界のことか」
「...はい」
私は、正直に答えた。
「患者さんたちのことを、思い出して」
「...」
「みんなを、置いていくことが、少し辛くて」
アレンは、私を抱きしめた。
「辛いなら、まだ戻れる」
「...」
「エリーゼに頼めば、帰還の魔法を」
「いいえ」
私は、首を振った。
「もう、決めました」
「...」
「この世界に残ります」
「...」
「アレンさんと、一緒にいます」
アレンは、優しく微笑んだ。
「ありがとう」
夜になった。
満月が、空に浮かんでいる。
私たちは、王城の中庭に集まった。
国王、エリーゼ、メルキオール、そして宮廷の重臣たち。
中庭の中央には、魔法陣が描かれていた。
複雑な紋様が、月の光を受けて光っている。
メルキオールが、前に進んだ。
そして、四つの欠片を魔法陣の中央に置いた。
「これより、闇の心臓の欠片、破壊の儀式を行う」
メルキオールは、杖を高く掲げた。
「古の封印よ、今ここに解き放たれ」
「闇の力よ、永遠に滅びよ」
杖が、激しく光った。
魔法陣も、光り始めた。
そして、欠片が浮き上がった。
四つの欠片が、空中で回り始めた。
その時、突然。
空が暗くなった。
黒い雲が、月を覆った。
「何だ」
国王が、空を見上げた。
そして、空から何かが降りてきた。
黒いローブを着た、人影。
ゼノンだった。
「久しぶりだな、アレン・ヴァルハイト」
ゼノンは、冷たく笑った。
「そして、愚かな王よ」
「ゼノン」
アレンは、剣を抜いた。
「なぜ、ここに」
「なぜ、だと?」
ゼノンは、欠片を見た。
「決まっているだろう」
「...」
「欠片を、奪いに来たのだ」
ゼノンは、手を伸ばした。
「闇よ、我に従え」
黒い魔法が、欠片に向かって伸びた。
「させるか」
メルキオールは、杖で魔法を防いだ。
「光の盾」
でも、ゼノンの魔法は強力だった。
盾が、砕けた。
「くっ」
メルキオールは、吹き飛ばされた。
「メルキオール」
国王が、叫んだ。
アレンは、ゼノンに向かって走った。
「お前を、倒す」
剣が、ゼノンに届こうとした。
でも、ゼノンは姿を消した。
そして、欠片の前に現れた。
「遅い」
ゼノンは、欠片を掴んだ。
四つの欠片が、ゼノンの手に集まった。
「やめろ」
アレンが、叫んだ。
でも、もう遅かった。
ゼノンは、欠片を一つに合わせた。
四つの欠片が、融合した。
そして、完全な形の、闇の心臓になった。
黒い宝石が、激しく光った。
「ついに、手に入れた」
ゼノンは、高笑いした。
「これで、魔王を復活させられる」
「...」
「そして、この世界は、再び闇に包まれる」
ゼノンは、空に向かって叫んだ。
「我が主、魔王よ」
「今ここに、汝の復活を」
闇の心臓が、さらに激しく光った。
そして、空に巨大な魔法陣が現れた。
黒い魔法陣。
その中央から、何かが現れようとしている。
巨大な、闇の存在。
魔王だった。
「くそ」
アレンは、ゼノンに斬りかかった。
でも、ゼノンは闇の魔法で防いだ。
「無駄だ」
「...」
「もう、止められない」
ゼノンは、再び姿を消した。
そして、空の魔法陣の中に入った。
「アレン・ヴァルハイト」
ゼノンの声が、響いた。
「お前が倒した魔王が、復活する」
「...」
「そして、お前たちを滅ぼす」
「...」
「せいぜい、震えて待て」
ゼノンの笑い声が、空に響いた。
そして、魔法陣が消えた。
ゼノンも、消えた。
中庭に、沈黙が戻った。
みんな、呆然としていた。
国王が、ようやく口を開いた。
「まさか」
「...」
「欠片を、奪われるとは」
メルキオールは、地面に倒れたまま言った。
「すみません、陛下」
「...」
「私の、力不足です」
「いや」
国王は、首を振った。
「お前のせいではない」
「...」
「ゼノンが、あまりにも強すぎた」
アレンは、拳を握りしめた。
「くそ」
「...」
「せっかく、集めた欠片を」
私は、アレンの肩に手を置いた。
「アレンさん」
「...」
「まだ、終わっていません」
「水野」
「魔王は、まだ完全には復活していません」
「...」
「今なら、まだ間に合います」
国王が、頷いた。
「その通りだ」
「...」
「アレン、もう一度、戦ってくれ」
「...」
「魔王を、倒してくれ」
アレンは、少し考えて、頷いた。
「わかりました」
「...」
「もう一度、戦います」
アレンは、空を見上げた。
「そして、今度こそ」
「...」
「魔王を、完全に滅ぼします」
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