海底神殿への挑戦

第30話 準備の日々

 プロポーズの翌日から、王城は慌ただしくなった。

 

 アレンと私の婚約が、正式に発表されたのだ。

 

 エリーゼが、国王に報告してくれた。

 

 国王は、快く承諾してくれた。

 

「勇者アレン・ヴァルハイトと、異世界の癒し手水野あかりの婚約を、認める」

 

 謁見の間で、正式に発表された。

 

 宮廷の人々は、祝福の言葉をくれた。

 

「おめでとうございます」

「アレン様にふさわしい方です」

「美しいお二人ですね」

 

 私は、少し恥ずかしかった。

 

 でも、嬉しかった。

 

 アレンと、正式に結ばれることができる。

 

 ガルドとリーナも、心から祝福してくれた。

 

「アレン、よかったな」

 

 ガルドは、アレンの肩を叩いた。

 

「ああ」

「水野殿は、いい人だ」

「...」

「大切にしろよ」

「ああ、わかっている」

 

 リーナも、涙を流して喜んでくれた。

 

「水野様、本当におめでとうございます」

「ありがとうございます、リーナさん」

「お二人とも、お幸せに」

 

 エリーゼは、複雑な表情をしていたけれど、それでも笑顔で祝福してくれた。

 

「水野様、アレン」

「エリーゼ」

「本当に、おめでとうございます」

「...」

「お二人とも、幸せになってください」

 

 エリーゼの目には、涙があった。

 

 でも、それは悲しみの涙ではなく、祝福の涙だった。

 

「ありがとう、エリーゼ」

 

 アレンは、エリーゼの手を握った。

 

「お前がいてくれたから、俺はここまで来られた」

「...」

「本当に、ありがとう」

 

 エリーゼは、涙を拭った。

 

「いいえ」

「...」

「私は、何もしていません」

「...」

「すべては、お二人の力です」

 

 婚約の発表後も、海底神殿への準備は続いた。

 

 エリーゼの指示で、職人たちが特別な装備を製作していた。

 

 まず、潜水服。

 

 特殊な革と魔法で作られた、水を通さない服。

 

 そして、水中呼吸の魔法具。

 

 首にかける首飾りのような形をしていて、水中でも呼吸ができるようになる。

 

 さらに、深海の水圧に耐えられる防具。

 

 軽いけれど、非常に強固な鎧。

 

「これらの装備は、すべて最高級の魔法使いが作っています」

 

 エリーゼは、説明してくれた。

 

「費用も、莫大です」

「...」

「でも、アレンたちの命には代えられません」

 

 私は、エリーゼに感謝した。

 

「本当に、ありがとうございます」

「いいえ」

 

 エリーゼは、微笑んだ。

 

「これは、王国のためでもあります」

「...」

「魔王の復活を阻止することは、すべての人々のためですから」

 

 準備の合間に、私はアレンと二人で過ごす時間を大切にした。

 

 王城の庭園を散歩したり、街を見て回ったり。

 

 普通のカップルのように。

 

「水野」

「はい」

「結婚式は、どんなのがいい」

 

 アレンが、聞いた。

 

「どんな、って」

「盛大にやるか、それとも質素にやるか」

「...」

 

 私は、少し考えた。

 

「質素でいいです」

「...」

「大切な人たちだけで」

 

 アレンは、微笑んだ。

 

「俺も、そう思う」

「...」

「ガルド、リーナ、エリーゼ」

「...」

「そして、お前と俺」

 

 アレンは、私の手を握った。

 

「それだけで、十分だ」

 

 私も、微笑んだ。

 

「はい」

 

 ある日、私はリーナと二人で買い物に出かけた。

 

 王都の市場は、活気があった。

 

 様々な店が並び、人々が行き交っている。

 

「水野様、こちらを見てください」

 

 リーナが、あるドレスショップを指した。

 

「ウェディングドレスです」

「...」

 

 ショーウィンドウには、美しい白いドレスが飾られていた。

 

 この世界にも、ウェディングドレスがあるのか。

 

「入ってみましょう」

 

 リーナに誘われて、店に入った。

 

 店主が、笑顔で迎えてくれた。

 

「いらっしゃいませ」

「あの、ウェディングドレスを見せていただけますか」

「もちろんです」

 

 店主は、いくつかのドレスを見せてくれた。

 

 どれも美しかった。

 

 でも、一つ、特に目を引くドレスがあった。

 

 シンプルだけど、エレガント。

 

 レースが繊細で、美しい。

 

「これ、試着してもいいですか」

「もちろんです」

 

 私は、ドレスを試着した。

 

 鏡に映った自分を見て、驚いた。

 

 まるで、お姫様のようだった。

 

「水野様、とてもお似合いです」

 

 リーナが、感動した様子で言った。

 

「アレン様、きっと喜ばれますよ」

 

 私は、少し照れた。

 

「ありがとうございます」

 

 ドレスを購入して、店を出た。

 

 リーナと歩きながら、私は未来を想像した。

 

 このドレスを着て、アレンと結婚式を挙げる。

 

 そして、この世界で、アレンと一緒に生きていく。

 

 幸せだった。

 

 一ヶ月が経った。

 

 海底神殿への装備が、すべて完成した。

 

 エリーゼが、装備を確認してくれた。

 

「完璧です」

「...」

「これなら、海底でも大丈夫でしょう」

 

 エリーゼは、真剣な顔で言った。

 

「でも、油断はしないでください」

「...」

「海底神殿は、本当に危険です」

「わかっている」

 

 アレンは、頷いた。

 

「必ず、無事に帰ってくる」

「...」

「そして、水野と結婚する」

 

 エリーゼは、微笑んだ。

 

「はい、待っています」

 

 出発の前夜、私はアレンと二人きりで話をした。

 

 王城の屋上で、星空を見ながら。

 

「水野」

「はい」

「明日から、最後の試練だ」

「...ええ」

「不安か」

「...少し」

 

 私は、正直に答えた。

 

「でも、アレンさんと一緒なら、乗り越えられると思います」

 

 アレンは、私を抱きしめた。

 

「俺も、お前がいるから、頑張れる」

「...」

「絶対に、生きて帰ろう」

「はい」

「そして、結婚しよう」

「はい」

 

 私たちは、長い時間、抱き合っていた。

 

 明日から、最後の試練が始まる。

 

 でも、怖くなかった。

 

 アレンと一緒なら、どんな困難も乗り越えられる。

 

 そう、信じていた。

 

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