第28話 麓の村での休息
翌朝、私たちは麓の村に戻った。
アレンもリーナも、歩けるまでには回復していたけれど、完全ではなかった。
特にアレンの火傷は深く、完治まで時間がかかりそうだった。
宿屋に戻ると、主人が驚いた顔で迎えた。
「生きて、戻ってきたのか」
「ああ」
アレンは、疲れた顔で微笑んだ。
「なんとか」
主人は、私たちの傷だらけの姿を見て、部屋を用意してくれた。
「ゆっくり、休んでください」
「ありがとうございます」
私たちは、それぞれの部屋で休息を取った。
私は、定期的にアレンとリーナの部屋を訪ねて、治療を続けた。
「アレンさん、火傷の具合はどうですか」
「だいぶ、良くなった」
アレンの火傷は、魔法薬のおかげで、予想より早く治癒していた。
でも、まだ痛みは残っている。
「もう少し、安静にしていてください」
「わかっている」
アレンは、窓の外を見た。
「でも、早く王都に戻らないと」
「...」
「ゼノンが、動いているかもしれない」
「それは、そうですが」
私は、アレンの肩に手を置いた。
「無理をして、取り返しのつかないことになったら、元も子もありません」
「...」
「せめて、三日は休んでください」
アレンは、少し考えて、頷いた。
「わかった」
三日間、私たちは村で休息を取った。
その間、私はアレンとリーナの治療に専念した。
ガルドは、村の周辺を警戒していた。
ゼノンの手下が、襲ってくる可能性もある。
でも、幸い、何事もなかった。
三日目の夕方、アレンの火傷はほぼ完治した。
リーナの魔力も、完全に回復した。
「明日、王都に向けて出発しよう」
アレンが、宣言した。
「三つ目の欠片を、国王に報告しなければ」
「ああ」
その夜、私は一人で村の外に出た。
星空を見上げる。
美しかった。
この世界に来てから、何度も星空を見た。
その度に、複雑な気持ちになる。
この世界に残るか、元の世界に帰るか。
まだ、答えは出ていない。
「水野」
背後から、アレンの声がした。
「アレンさん」
「一人で、何をしている」
「星を、見ていました」
アレンは、私の隣に立った。
「きれいだな」
「ええ」
しばらく、二人で星を見ていた。
「水野」
「はい」
「お前は、やはり元の世界に帰るのか」
突然の質問に、私は戸惑った。
「...わかりません」
「...」
「まだ、決められないんです」
私は、正直に答えた。
「この世界に残りたい気持ちもあります」
「...」
「でも、元の世界にも、大切な人たちがいます」
アレンは、黙って聞いていた。
「アレンさんは、どう思いますか」
「...」
「私に、どうしてほしいですか」
アレンは、少し考えて、答えた。
「俺は、お前にここに残ってほしい」
「...」
「でも、それは俺の願いだ」
アレンは、私を見た。
「お前の人生は、お前のものだ」
「...」
「俺が、決めることじゃない」
アレンは、私の両手を握った。
「だから、お前が決めろ」
「...」
「自分の心に従って」
私は、涙が出そうになった。
アレンの優しさが、胸に染みた。
「ありがとうございます」
「...」
「でも、もう少し、時間をください」
「ああ」
アレンは、私を抱きしめた。
「いつでもいい」
「...」
「お前が、答えを出すまで、俺は待つ」
私も、アレンを抱きしめ返した。
この温もりを、ずっと感じていたい。
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