第27話 炎の守護者

 ファイアドラゴンは、溶岩から体を起こした。

 

 巨大だった。体長は、優に二十メートルを超える。

 

 全身が炎に包まれ、目は赤く光っている。翼を広げると、火口全体を覆うほどだった。

 

「これは」

 

 ガルドも、驚きを隠せない様子だった。

 

「氷山や遺跡の守護者よりも、遥かに強そうだ」

 

 ファイアドラゴンは、私たちを見下ろした。

 

 そして、低い声で言った。

 

「我は、炎の守護者」

「...」

「何者も、この地の宝を奪うことは許さぬ」

 

 ドラゴンは、大きく息を吸い込んだ。

 

「滅びよ」

 

 そして、炎のブレスを吐いた。

 

 巨大な炎の奔流が、私たちに襲いかかった。

 

「リーナ、バリアを」

 

 リーナは、必死に杖を振った。

 

「水の壁」

 

 水のバリアが、炎を防いだ。

 

 でも、炎が強すぎる。

 

 バリアが、徐々に蒸発していく。

 

「持たない」

 

 リーナの顔が、苦痛に歪んだ。

 

「みんな、岩の陰に」

 

 アレンの指示で、私たちは台座の陰に隠れた。

 

 炎が、台座を直撃した。

 

 でも、台座は古代の魔法で守られているのか、溶けなかった。

 

 炎が止んだ。

 

「今だ」

 

 アレンは、飛び出した。

 

 そして、ドラゴンに向かって剣を投げた。

 

 剣が、ドラゴンの胸に命中した。

 

 でも、炎の体には、効かなかった。

 

「くそ」

 

 ドラゴンは、翼を羽ばたかせた。

 

 強風が、吹き荒れた。

 

 私たちは、吹き飛ばされそうになった。

 

 必死に、台座にしがみついた。

 

 ドラゴンは、再び炎のブレスを準備している。

 

「このままでは、やられる」

 

 ガルドが、叫んだ。

 

「何か、弱点はないのか」

 

 私は、必死に考えた。

 

 炎のドラゴン。

 

 ファイアハウンドの時は、酸素を奪って弱体化させた。

 

 でも、ドラゴンは大きすぎる。

 

 リーナの魔法では、カバーしきれない。

 

 他に、方法は。

 

 その時、ふと気づいた。

 

 ドラゴンの体。

 

 よく見ると、胸の部分が、他より明るく光っている。

 

「あそこだ」

 

 私は、叫んだ。

 

「アレンさん、ドラゴンの胸の光っている部分」

「...」

「あそこが、核です」

「核?」

「はい。ファイアハウンドと同じように」

「...」

「あそこを破壊すれば、倒せるはずです」

 

 アレンは、ドラゴンの胸を見た。

 

「でも、どうやって近づく」

「...」

「あの高さでは」

 

 その時、リーナが言った。

 

「私の魔法で、アレン様を飛ばせます」

「飛ばす?」

「はい。風の魔法で」

「...」

「でも、一度きりです」

 

 リーナは、疲れた顔をしていた。

 

「魔力が、もうほとんどありません」

「...」

「一度だけ、アレン様をドラゴンの胸まで飛ばせます」

 

 アレンは、少し考えて、頷いた。

 

「わかった」

「...」

「一撃で、決める」

 

 アレンは、剣を拾った。

 

「リーナ、頼む」

「はい」

 

 リーナは、最後の力を振り絞った。

 

「風よ、翼となれ」

「疾風の翼」

 

 アレンの体が、浮き上がった。

 

 そして、風に乗って、ドラゴンに向かって飛んだ。

 

 ドラゴンは、驚いた様子だった。

 

 そして、アレンを炎で焼こうとした。

 

 でも、アレンは避けた。

 

 そして、ドラゴンの胸に到達した。

 

「これで、終わりだ」

 

 アレンは、左手で剣を握った。

 

 全力で、光っている部分に突き刺した。

 

 剣が、深く突き刺さった。

 

 ドラゴンが、苦痛の叫びを上げた。

 

 そして、体が激しく発光した。

 

 爆発だ。

 

「アレンさん」

 

 私は、叫んだ。

 

 アレンは、爆発に巻き込まれた。

 

 体が、吹き飛ばされた。

 

 溶岩に向かって、落ちていく。

 

「アレン」

 

 ガルドが、手を伸ばした。

 

 でも、届かない。

 

 その時、リーナが最後の魔法を使った。

 

「風よ、彼を受け止めて」

 

 風が、アレンを包んだ。

 

 そして、ゆっくりと台座まで運んできた。

 

 アレンは、台座に着地した。

 

 でも、意識がない。

 

「アレンさん」

 

 私は、駆け寄った。

 

 アレンの体は、火傷だらけだった。

 

 服は、焦げている。

 

「すぐに、手当てを」

 

 私は、医療道具を取り出した。

 

 火傷の薬を塗って、包帯を巻く。

 

 エリーゼがくれた魔法薬も使った。

 

「アレンさん、しっかりして」

 

 私は、必死に治療した。

 

 ガルドが、アレンの顔を見た。

 

「呼吸はしている」

「...」

「意識が戻れば、大丈夫だ」

 

 リーナは、完全に魔力を使い果たして、倒れていた。

 

 私は、リーナも診た。

 

 過労だった。

 

 休めば、回復するだろう。

 

 ドラゴンは、消滅していた。

 

 溶岩も、少し静かになった。

 

「ここから、出よう」

 

 ガルドが、言った。

 

「このままでは、危険だ」

 

 でも、アレンとリーナは、動けない。

 

「私が、アレンを」

 

 ガルドは、アレンを背負った。

 

「水野殿は、リーナを」

「はい」

 

 私は、リーナを支えた。

 

 そして、来た道を戻り始めた。

 

 岩の足場は、もう沈んでいた。

 

 でも、火口の縁には、別の道があった。

 

 細い道だけれど、歩けないことはない。

 

 私たちは、慎重に火口の縁を歩いた。

 

 一時間ほどかけて、火口から脱出した。

 

 そして、洞窟の入口まで戻った。

 

 外は、夕暮れだった。

 

 美しい夕日が、空を赤く染めていた。

 

「ふう」

 

 ガルドは、アレンを地面に降ろした。

 

「なんとか、脱出できたな」

「はい」

 

 私は、再びアレンの様子を確認した。

 

 火傷は酷かったけれど、命に別状はなさそうだった。

 

「アレンさん、起きてください」

 

 私は、アレンの顔を撫でた。

 

 しばらくすると、アレンの目が開いた。

 

「水野」

「アレンさん」

 

 涙が、止まらなかった。

 

「よかった。目が覚めて」

「...俺は」

「ドラゴンを、倒しました」

「...そうか」

 

 アレンは、小さく笑った。

 

「やったな」

 

 その夜、私たちは洞窟の近くで野営した。

 

 焚き火を囲んで、休息を取った。

 

 アレンとリーナは、まだ本調子ではなかった。

 

 でも、二人とも、命に別状はなかった。

 

「水野」

 

 アレンが、私を呼んだ。

 

「はい」

「ありがとう」

「...」

「お前が、治療してくれたから、助かった」

「当然のことです」

 

 私は、微笑んだ。

 

「私は、医療の専門家ですから」

 

 アレンは、私の手を握った。

 

「お前がいてくれて、本当によかった」

 

 私も、アレンの手を握り返した。

 

「私も、アレンさんがいてくれて、よかったです」

 

 焚き火の炎が、静かに燃えていた。

 

 三つ目の欠片を、手に入れた。

 

 あと、一つ。

 

 西の海底神殿。

 

 最後の試練が、待っている。

 

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