第25話 炎の試練への準備
王都での滞在は、二週間に及んだ。
その間、私たちはしっかりと休息を取った。
傷も、ほぼ完全に癒えた。
リーナの腕も、ようやく魔法が使えるまでに回復した。
「水野様のおかげです」
リーナは、感謝の言葉を述べた。
「いえ、リーナさんの回復力が強かったんです」
「...」
「これからも、無理はしないでくださいね」
「はい」
二週間目に、エリーゼが南の火山への準備を整えてくれた。
耐熱性の外套、冷却の魔法石、大量の水、そして火傷の薬。
「火山は、想像を絶する暑さだそうです」
エリーゼは、真剣な顔で説明した。
「普通の装備では、数時間も持ちません」
「...」
「この耐熱外套は、特別に作らせました」
エリーゼは、黒い外套を見せた。
「ドラゴンの鱗を織り込んでいます」
「ドラゴンの?」
「ええ。非常に高価ですが、これなら火山の熱にも耐えられます」
エリーゼは、また小さな石を取り出した。
「これは、冷却の魔法石です」
「...」
「体温の上昇を抑えてくれます」
「...」
「ただし、効果は限定的です」
エリーゼは、真剣に私たちを見た。
「火山は、本当に危険です」
「...」
「どうか、無理はしないでください」
アレンは、頷いた。
「わかっている」
「...」
「でも、行かなければならない」
出発の前日、私はアレンと二人で話をした。
王城の庭園で、夕暮れ時。
「水野」
「はい」
「お前は、火山に行かなくてもいい」
「...」
「ここで、待っていてくれ」
私は、首を振った。
「いいえ、行きます」
「でも、危険だ」
「それは、アレンさんも同じでしょう」
「...」
「私も、一緒に行きます」
アレンは、私の肩に手を置いた。
「水野、俺は、お前を失いたくない」
「...」
「だから」
「私も、アレンさんを失いたくないです」
私は、アレンの目を見た。
「だから、一緒に行きます」
「...」
「アレンさんが怪我をした時、そばにいたいんです」
アレンは、しばらく黙っていた。
そして、小さく笑った。
「...負けたよ」
「...」
「お前は、本当に頑固だな」
「アレンさんには、負けます」
二人で、笑った。
「わかった。一緒に行こう」
「はい」
「でも、約束してくれ」
「...」
「危険だと思ったら、すぐに逃げると」
「約束します」
アレンは、私を抱きしめた。
「ありがとう」
「...」
「お前がいてくれて、本当に心強い」
私も、アレンを抱きしめ返した。
この温もりを、ずっと感じていたい。
でも、いつかは別れが来る。
それでも、今は、この瞬間を大切にしたい。
翌朝、私たちは出発した。
エリーゼが、見送りに来てくれた。
「アレン、水野様、みなさん」
「エリーゼ」
「必ず、無事に帰ってきてください」
「ああ、約束する」
エリーゼは、涙を浮かべていた。
「待っています」
私たちは、馬車に乗り込んだ。
南へ。火山へ。
王都から、十日間の旅。
最初の五日は、平原を進んだ。
でも、六日目から、景色が変わり始めた。
草木が減り、地面が黒くなっていった。
火山灰だ。
そして、七日目には、遠くに火山が見えてきた。
巨大な山。頂上からは、煙が上がっている。
「あれが、火山か」
ガルドが、呟いた。
「想像以上に、大きいな」
「ああ」
気温も、徐々に上がってきた。
十日目、私たちは火山の麓の村に到着した。
小さな村だったけれど、火山への登山者が時々訪れるという。
宿屋の主人から、情報を集めた。
「火山に登るんですか」
主人は、驚いた顔をした。
「今の時期は、活動が活発です」
「...」
「噴火する可能性もあります」
「危険なのは、承知しています」
アレンが、言った。
「それでも、行かなければなりません」
主人は、ため息をついた。
「わかりました」
「...」
「では、助言をしましょう」
主人は、地図を広げた。
「火山には、三つのルートがあります」
「...」
「一つ目は、東の斜面。比較的なだらかですが、距離が長い」
「...」
「二つ目は、西の斜面。急ですが、距離は短い」
「...」
「三つ目は、北の洞窟。地下を通るルートです」
アレンは、地図を見ながら考えた。
「どれが、一番安全ですか」
「どれも、危険です」
主人は、首を振った。
「東は、溶岩流に遭遇する可能性がある」
「...」
「西は、落石が多い」
「...」
「北の洞窟は、有毒ガスが充満している」
ガルドが、腕を組んだ。
「どれも、一長一短だな」
「ああ」
アレンは、しばらく考えて、決断した。
「北の洞窟を行こう」
「洞窟?」
「ああ。有毒ガスは、魔法で防げる」
アレンは、リーナを見た。
「リーナ、防護の魔法は使えるか」
「はい、大丈夫です」
「では、洞窟ルートで行く」
その夜、私たちは作戦を立てた。
「洞窟は、暗い」
アレンが、説明した。
「リーナの光の魔法で、道を照らす」
「はい」
「そして、有毒ガスには、防護の魔法で対処」
「わかりました」
ガルドが、付け加えた。
「洞窟には、魔物も棲んでいるかもしれない」
「ああ」
「警戒を怠るな」
私も、準備をした。
「万が一、ガスを吸い込んでしまった場合の解毒剤を用意しました」
「...」
「それと、火傷の薬も」
アレンは、頷いた。
「ありがとう、水野」
翌朝、私たちは火山に向かった。
麓から、徐々に登っていく。
気温が、どんどん上がっていった。
耐熱外套を着ていても、暑い。
冷却の魔法石が、なければ耐えられなかっただろう。
三時間ほど登ると、洞窟の入口が見えてきた。
大きな穴。中からは、熱気が漏れ出ている。
「ここか」
アレンは、洞窟を見た。
「行くぞ」
私たちは、洞窟に入った。
中は、予想以上に暑かった。
そして、硫黄の臭いが充満していた。
「リーナ、防護の魔法を」
「はい」
リーナは、杖を振った。
「清浄なる空気よ、我らを包め」
透明なバリアが、私たちを包んだ。
臭いが、和らいだ。
「ありがとう、リーナ」
「いえ」
リーナは、また杖を振った。
「光よ」
杖が明るく光って、洞窟の中が見えた。
長い道が、奥へと続いている。
「行こう」
私たちは、洞窟の奥へと進んだ。
炎の試練が、始まった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます