第23話 遺跡の罠

 遺跡の内部は、想像以上に広かった。

 

 長い廊下が続き、両側には古代の壁画が描かれている。王や戦士たち、そして魔法使いの姿。

 

「美しいですね」

 

 私は、壁画を見上げた。

 

「ああ。でも、油断するな」

 

 アレンが、注意を促した。

 

「いつ、罠が作動するかわからない」

 

 ガルドが先頭で、床を慎重に確認しながら進む。

 

「ここは、大丈夫だ」

 

 一歩、また一歩。

 

 私たちは、ゆっくりと廊下を進んだ。

 

 十分ほど歩いたところで、ガルドが立ち止まった。

 

「待て」

「...」

「ここに、圧力板がある」

 

 ガルドは、床の一部を指した。

 

 よく見ると、他の床とわずかに色が違う。

 

「これを踏むと、罠が作動する」

「...」

「みんな、ここを避けて通れ」

 

 私たちは、慎重に圧力板を避けた。

 

 さらに進むと、広い部屋に出た。

 

 部屋の中央には、大きな石像が立っている。戦士の像だ。

 

「何もないな」

 

 ガルドが、部屋を見渡した。

 

「いや、待て」

 

 リーナが、杖を振った。

 

「探知」

 

 杖が、淡く光った。

 

「この部屋には、魔法の罠があります」

「どこに」

「石像の前です」

 

 リーナは、石像を指した。

 

「あそこを通ると、炎の魔法が発動します」

「...」

「部屋全体が、炎に包まれます」

 

 アレンは、考えた。

 

「石像を通らずに、向こうの扉に行けるか」

「いえ、無理です」

 

 リーナは、首を振った。

 

「部屋の構造上、石像の前を通るしかありません」

「...」

「では、罠を解除できるか」

「試してみます」

 

 リーナは、石像に近づいた。

 

 そして、解呪の魔法を唱え始めた。

 

「古の封印よ、我に従い、解き放たれよ」

 

 リーナの杖が、激しく光った。

 

 石像から、赤い光が放たれる。

 

 魔法の罠が、抵抗している。

 

「くっ」

 

 リーナは、額に汗を浮かべた。

 

「強い、魔法です」

「リーナ、無理するな」

「いえ、もう少しです」

 

 リーナは、さらに魔力を込めた。

 

 そして、ついに。

 

 石像から放たれていた赤い光が、消えた。

 

「成功、しました」

 

 リーナは、その場に座り込んだ。

 

「お疲れ様です」

 

 私は、リーナに魔力回復の薬を渡した。

 

「ありがとうございます」

 

 リーナが休んでいる間、私たちは部屋を調べた。

 

 特に変わったものは、なかった。

 

 休憩を終えて、私たちは次の部屋に進んだ。

 

 遺跡は、複雑に入り組んでいた。

 

 いくつもの部屋、いくつもの廊下。

 

 そして、その度に、罠があった。

 

 落とし穴、毒針、炎の罠、氷の罠。

 

 ガルドとリーナが、一つ一つ見つけて、解除していった。

 

 二時間ほど進んだところで、大きな扉に辿り着いた。

 

「これが、最深部か」

 

 アレンが、扉を見上げた。

 

 扉には、複雑な文字が刻まれている。

 

「リーナ、これは」

「少し待ってください」

 

 リーナは、文字を読んだ。

 

「『ここに眠るは、王の秘宝』」

「...」

「『試練を乗り越えし者のみ、その宝を手にする資格を持つ』」

 

 アレンは、扉を押した。

 

 扉は、ゆっくりと開いた。

 

 中は、広い部屋だった。

 

 天井が高く、壁には松明が灯っている。

 

 そして、部屋の中央に、台座があった。

 

 台座の上には、黒い宝石が置かれている。

 

 闇の心臓の欠片だ。

 

「あった」

 

 ガルドが、嬉しそうに言った。

 

「でも、待て」

 

 アレンが、制止した。

 

「簡単に取れるとは思えない」

「...」

「必ず、何か仕掛けがある」

 

 アレンは、慎重に部屋を調べた。

 

 そして、台座の周りに、魔法陣が描かれていることに気づいた。

 

「リーナ、これは」

「召喚の魔法陣です」

「召喚?」

「ええ。欠片を取ると、何かが召喚されます」

「...」

「おそらく、守護者でしょう」

 

 アレンは、覚悟を決めた。

 

「わかった」

「...」

「みんな、戦闘の準備を」

 

 私たちは、それぞれ準備をした。

 

 アレンとガルドは、剣を構えた。

 

 リーナは、杖を持った。

 

 私は、医療道具を用意した。

 

「行くぞ」

 

 アレンは、台座に近づいた。

 

 そして、欠片を手に取った。

 

 その瞬間、魔法陣が激しく光った。

 

 部屋全体が、震えた。

 

 そして、魔法陣の中央から、何かが現れた。

 

 巨大な、石の巨人。

 

 ゴーレムだった。

 

 氷山の守護者よりも、さらに大きい。

 

「石のゴーレム」

 

 リーナが、叫んだ。

 

 ゴーレムは、私たちを見下ろした。

 

 そして、低い声で言った。

 

「我は、この地の守護者」

「...」

「何者も、王の秘宝を奪うことは許さぬ」

 

 ゴーレムは、巨大な拳を振り上げた。

 

「滅びよ」

 

 拳が、振り下ろされた。

 

 アレンは、それを避けた。

 

 拳が、床に激突する。

 

 ガガガガという音と共に、床に大きな穴が開いた。

 

「強い」

 

 ガルドが、驚いた顔をした。

 

「氷山の守護者よりも、強いぞ」

「ああ」

 

 アレンは、剣を構えた。

 

「でも、倒すしかない」

 

 二人は、ゴーレムに立ち向かった。

 

 アレンの剣と、ガルドの大剣が、ゴーレムを襲う。

 

 でも、石は硬い。

 

 剣が、弾かれる。

 

「くそ」

 

 リーナが、魔法を放った。

 

「炎の矢」

 

 でも、石のゴーレムには、炎は効かなかった。

 

「効かない」

「では、雷を」

「雷の槍」

 

 雷の魔法が、ゴーレムに命中した。

 

 ゴーレムが、少しよろめいた。

 

「雷が効く」

「もう一度」

 

 リーナは、再び雷の魔法を放った。

 

 でも、ゴーレムは学習していた。

 

 今度は、魔法を避けた。

 

「速い」

 

 そして、ゴーレムは反撃した。

 

 巨大な拳が、リーナに向かった。

 

「リーナさん、危ない」

 

 私は、叫んだ。

 

 リーナは、バリアを張った。

 

 でも、ゴーレムの拳は強力だった。

 

 バリアが砕け、リーナは吹き飛ばされた。

 

「リーナ」

 

 私は、駆け寄った。

 

 リーナは、意識はあったけれど、腕を痛めていた。

 

「動かないでください」

 

 私は、応急処置をした。

 

 アレンとガルドは、必死に戦っていた。

 

 でも、ゴーレムは強すぎた。

 

 二人とも、傷だらけになっていった。

 

 どうすれば、倒せるのか。

 

 私は、考えた。

 

 石のゴーレム。

 

 氷のゴーレムの時は、亀裂を作って砕いた。

 

 でも、石は氷よりも硬い。

 

 亀裂を作るのは、難しい。

 

 何か、別の方法は。

 

 その時、ふと気づいた。

 

 ゴーレムの体。

 

 よく見ると、関節の部分が、他よりも脆そうだ。

 

「アレンさん」

 

 私は、叫んだ。

 

「関節を狙ってください」

「関節?」

「はい。膝、肘、首」

「...」

「そこが、弱点です」

 

 アレンは、理解した。

 

「わかった」

 

 アレンは、ガルドに伝えた。

 

「ガルド、関節を狙うぞ」

「了解」

 

 二人は、戦術を変えた。

 

 ゴーレムの膝を狙う。

 

 何度も、何度も攻撃した。

 

 ゴーレムの膝に、亀裂が入った。

 

「効いてる」

 

 さらに攻撃を続けた。

 

 そして、ついに。

 

 ゴーレムの右膝が、砕けた。

 

 ゴーレムは、バランスを崩して、倒れた。

 

「今だ」

 

 アレンは、ゴーレムの首に飛びついた。

 

 そして、剣を首の関節に突き刺した。

 

 ガルドも、大剣で首を叩いた。

 

 ゴーレムの首が、砕けた。

 

 ゴーレムは、動かなくなった。

 

 戦いは、終わった。

 

「ふう」

 

 アレンは、その場に座り込んだ。

 

 ガルドも、疲れ果てていた。

 

「やった、か」

「ああ」

 

 私は、二人のところに駆け寄った。

 

「二人とも、傷だらけです」

「大丈夫だ」

「いえ、大丈夫じゃありません」

 

 私は、すぐに治療を始めた。

 

 傷を洗浄して、消毒して、縫合が必要なものは縫った。

 

 そして、包帯を巻いた。

 

 リーナの腕も、診た。

 

 骨折はしていなかったけれど、打撲が酷かった。

 

「しばらく、魔法は使えません」

「...すみません」

「いえ、無理をしないでください」

 

 治療が終わった後、アレンは欠片を確認した。

 

 黒い宝石。

 

 不気味に光っている。

 

「これで、二つ目だ」

「ああ」

「あと、二つ」

 

 私たちは、遺跡を後にした。

 

 帰り道は、罠はもう作動しなかった。

 

 すでに、通った道だからだ。

 

 遺跡を出ると、夕日が美しかった。

 

「生きて、出られたな」

 

 ガルドが、笑った。

 

「ああ」

 

 私たちは、オアシスに戻った。

 

 そして、宿屋で休息を取った。

 

 みんな、疲れ果てていた。

 

 でも、達成感があった。

 

 二つ目の欠片を、手に入れた。

 

 あと、二つ。

 

 南の火山と、西の海底神殿。

 

 まだまだ、旅は続く。

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