第22話 古代遺跡への旅立ち

 王都での滞在は、四日間だった。

 

 その間に、エリーゼが砂漠用の装備をすべて用意してくれた。

 

 薄手だけど日差しを遮る外套、砂よけの布、大量の水筒、保存食、そして砂漠での方向を知るための魔法の羅針盤。

 

「これで、準備は万全です」

 

 エリーゼは、満足そうに言った。

 

「ありがとう、エリーゼ」

「いいえ」

 

 出発の朝、エリーゼが見送りに来てくれた。

 

「アレン」

「エリーゼ」

「必ず、無事に」

「ああ、約束する」

 

 エリーゼは、アレンに小さな袋を渡した。

 

「これは」

「砂漠の守り石です」

「...」

「熱中症を防ぎ、体力を維持する魔法がかかっています」

「ありがとう」

 

 エリーゼは、私にも袋を渡した。

 

「水野様にも」

「ありがとうございます」

 

 私たちは、馬車に乗り込んだ。

 

 エリーゼの姿が、小さくなっていく。

 

 彼女は、ずっと手を振っていた。

 

 王都から東へ。馬車で七日間の旅。

 

 最初の三日は、平原を進んだ。

 

 でも、四日目から、景色が変わり始めた。

 

 草木が少なくなり、地面が砂に変わっていった。

 

 そして、五日目には、完全に砂漠に入った。

 

 見渡す限り、砂の海。

 

 太陽が、容赦なく照りつける。

 

「暑いな」

 

 ガルドが、汗を拭いた。

 

「ああ。氷山とは、正反対だ」

 

 アレンも、外套で日差しを遮っている。

 

 砂漠は、想像以上に過酷だった。

 

 昼間は灼熱、夜は極寒。

 

 水の消費も激しい。

 

 七日目の夕方、私たちは砂漠のオアシスに到着した。

 

 小さな泉と、ヤシの木が数本。そして、簡素な宿屋があった。

 

「ここで、最後の休息を取ろう」

 

 アレンが、言った。

 

 宿屋は、砂漠の旅人たちで賑わっていた。

 

 私たちは、宿屋の主人から情報を集めた。

 

「古代遺跡ですか」

 

 主人は、渋い顔をした。

 

「あそこは、危険な場所ですよ」

「どう危険なんですか」

「魔物が、たくさん棲んでいます」

 

 主人は、声を低めた。

 

「特に、砂の中に潜む魔物が」

「砂の中に?」

「ええ。サンドワームと呼ばれる、巨大な虫のような魔物です」

 

 主人は、手で大きさを示した。

 

「長さは、十メートル以上」

「...」

「地中を移動して、突然現れます」

「...」

「多くの冒険者が、餌食になりました」

 

 ガルドが、腕を組んだ。

 

「厄介だな」

「ええ」

 

 主人は、続けた。

 

「そして、遺跡の中には、古代の罠があります」

「罠?」

「ええ。落とし穴、毒針、炎の罠」

「...」

「古代の魔法使いたちが、宝を守るために仕掛けたものです」

 

 リーナが、心配そうに言った。

 

「本当に、行くんですか」

「ああ」

 

 アレンは、頷いた。

 

「行かなければならない」

 

 その夜、私たちは作戦を立てた。

 

「サンドワームは、振動に反応する」

 

 アレンが、説明した。

 

「だから、できるだけ静かに移動する」

「...」

「そして、もし現れたら」

 

 アレンは、剣を見た。

 

「素早く倒す」

 

 ガルドが、付け加えた。

 

「遺跡の中の罠は、俺が先頭で確認する」

「...」

「罠を見つける目には、自信がある」

 

 リーナも、言った。

 

「私は、探知の魔法を使います」

「...」

「魔法の罠なら、感知できます」

 

 私は、何ができるだろうかと考えた。

 

「私は、毒への対処ができます」

「...」

「もし、誰かが毒針に刺されても、解毒剤を持っています」

 

 アレンは、頷いた。

 

「みんな、ありがとう」

「...」

「明日、遺跡に向かう」

 

 翌朝、私たちは遺跡へ向けて出発した。

 

 オアシスから三時間。砂漠の中を歩く。

 

 太陽が、容赦なく照りつける。

 

 でも、エリーゼがくれた守り石のおかげで、体力は維持できた。

 

 そして、遠くに何かが見えてきた。

 

 砂の中から、石造りの建物が顔を出している。

 

「あれが、古代遺跡か」

 

 ガルドが、呟いた。

 

 遺跡は、巨大だった。半分は砂に埋もれているけれど、残りの部分だけでも、城ほどの大きさがある。

 

 壁には、古代文字が刻まれている。

 

「リーナ、読めるか」

「少し待ってください」

 

 リーナは、文字を読み始めた。

 

「『ここに眠るは、古の王の宝』」

「...」

「『欲深き者よ、近づくなかれ』」

「...」

「『さもなくば、死を迎えん』」

 

 不吉な言葉だった。

 

 でも、引き返すことはできない。

 

「行こう」

 

 アレンが、先頭で進んだ。

 

 遺跡の入口は、大きな石の扉だった。

 

 扉には、複雑な模様が刻まれている。

 

「これは、封印の魔法陣ですね」

 

 リーナが、魔法陣を調べた。

 

「開けられますか」

「はい。でも、時間がかかります」

 

 リーナは、杖で魔法陣に触れた。

 

「解呪の魔法を、唱えます」

 

 リーナの杖が、光り始めた。

 

 十分ほどすると、魔法陣が消えた。

 

 そして、石の扉が、ゆっくりと開いた。

 

 中は、暗かった。

 

 リーナが、光の魔法を使う。

 

「光よ」

 

 杖が明るく光って、内部が見えた。

 

 長い廊下が続いている。

 

「行こう」

 

 私たちは、遺跡の中に入った。

 

 古代の遺跡。

 

 そこには、どんな危険が待っているのか。

 

 そして、闇の心臓の欠片は、本当にここにあるのか。

 

 不安と期待が入り混じった気持ちで、私たちは奥へと進んだ。

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