第21話 王都での再会
二日後、私たちは王都へ向けて出発した。
馬車での五日間の旅。今回は、行きよりも心に余裕があった。
一つ目の欠片を手に入れた。大きな一歩だった。
道中、特に問題はなかった。魔物の襲撃もなく、順調に進んだ。
五日後の夕方、王都に到着した。
王城では、エリーゼが待っていてくれた。
「アレン、水野様」
エリーゼは、私たちを見て安堵の表情を浮かべた。
「無事で、よかった」
「ただいま、エリーゼ」
私たちは、謁見の間に案内された。
そこには、国王もいた。
「勇者アレン・ヴァルハイト」
国王は、威厳のある声で言った。
「よくぞ、戻った」
「はい、陛下」
アレンは、膝をついた。
「氷山の任務、成功したと聞いた」
「はい。闇の心臓の欠片を、一つ回収いたしました」
アレンは、袋から欠片を取り出した。
黒い宝石が、不気味に光っている。
国王は、欠片を見て、眉をひそめた。
「これが、魔王の力の源か」
「はい」
「...恐ろしい力を感じる」
国王は、宮廷魔導師のメルキオールに指示した。
「メルキオール、これを厳重に保管せよ」
「はい、陛下」
メルキオールは、欠片を魔法の箱に封印した。
「この箱は、特別な魔法で守られています」
「...」
「誰も、中身を取り出すことはできません」
国王は、頷いた。
「よい」
「...」
「アレン、次の任務は」
「東の古代遺跡に向かいます」
「そうか」
国王は、真剣な顔で言った。
「頼む。魔王の復活を、阻止してくれ」
「必ずや」
謁見が終わった後、エリーゼが私たちを自分の部屋に招いた。
「アレン、本当に無事でよかった」
エリーゼは、涙ぐんでいた。
「毎日、心配で」
「すまない。心配をかけた」
「いいえ」
エリーゼは、首を振った。
「あなたは、王国のために戦っているのですから」
エリーゼは、私にも微笑みかけた。
「水野様、アレンを守ってくださって、ありがとうございます」
「いえ、私は」
「アレンの傷、診ていただいたと聞きました」
「...」
「水野様がいてくださって、本当によかった」
エリーゼは、感謝の言葉を述べた。
でも、その目には、複雑な感情があった。
彼女は、気づいているのだろう。アレンと私の関係が、変わっていることを。
お茶を飲みながら、私たちは氷山での出来事を話した。
氷の迷宮、風の峠、雪崩の谷、そして氷の守護者。
エリーゼは、真剣に聞いていた。
「大変な旅でしたね」
「ああ」
「でも、無事に戻れて、本当によかった」
エリーゼは、立ち上がった。
「古代遺跡への準備は、私が手配します」
「すまない」
「いいえ」
エリーゼは、微笑んだ。
「砂漠用の装備、水と食料、そして魔除けの道具」
「...」
「すべて、用意させていただきます」
「ありがとう、エリーゼ」
その夜、私は王城の客室で休んでいた。
久しぶりの柔らかいベッド。温かい部屋。
氷山での過酷な日々の後では、夢のようだった。
ノックの音がした。
「水野様、いらっしゃいますか」
エリーゼの声だった。
「はい、どうぞ」
エリーゼが、部屋に入ってきた。
「お休みのところ、申し訳ありません」
「いえ」
「少し、お話ししてもよろしいですか」
「もちろんです」
私たちは、窓辺の椅子に座った。
外は、静かな夜だった。
「水野様」
「はい」
「アレンのこと、よろしくお願いします」
「...」
「次の旅も、きっと危険です」
「はい」
「でも、水野様がいてくれれば、私は安心です」
エリーゼは、私の手を握った。
「水野様、正直に言います」
「...」
「私は、アレンを愛していました」
私は、息を呑んだ。
「でも、もうわかっています」
「...」
「アレンの心は、私にはありません」
エリーゼの目から、涙がこぼれた。
「アレンは、水野様を愛しています」
「エリーゼ様」
「いいんです」
エリーゼは、微笑んだ。
「私の想いは、もう過去のものです」
「...」
「大切なのは、アレンが幸せであることです」
エリーゼは、私をまっすぐ見た。
「水野様、アレンを愛していますか」
私は、少し考えて、答えた。
「...はい」
「...」
「アレンさんを、愛しています」
エリーゼは、涙を流しながら微笑んだ。
「ありがとうございます」
「...」
「正直に答えてくださって」
エリーゼは、立ち上がった。
「水野様、お願いです」
「...」
「アレンを、幸せにしてあげてください」
「...」
「そして、できれば」
エリーゼは、窓の外を見た。
「この世界に、残ってあげてください」
私は、何も言えなかった。
この世界に、残る。
それは、元の世界を捨てるということだ。
日本での仕事、患者さんたち、仲間たち。
すべてを、捨てる。
でも、アレンと一緒にいられる。
私は、答えを出せなかった。
「すみません。難しいことを言いました」
エリーゼは、部屋を出て行こうとした。
「エリーゼ様」
「はい」
「少し、考えさせてください」
「...」
「この世界に残るかどうか」
エリーゼは、振り返った。
「本当ですか」
「はい」
「考えてくださる、のですか」
「はい」
エリーゼは、涙を流した。
「ありがとうございます」
エリーゼが去った後、私は一人で考えた。
この世界に残る。
それは、大きな決断だ。
簡単には、答えを出せない。
でも、考える価値はある。
アレンと一緒にいたい。
その気持ちは、本物だから。
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