第20話 束の間の休息
氷山から戻った私たちは、北の町で二日間の休息を取った。 疲労が激しく、すぐに次の目的地へ向かうことは難しかった。特にアレンの傷は、完全に癒えるまでもう少し時間が必要だった。「アレンさん、傷の具合はどうですか」 私は、毎日アレンの傷を診ていた。「ああ、だいぶいい」
「でも、無理はしないでください」
「わかっている」 アレンは、少し苦笑した。「お前は、本当に心配性だな」
「当然です。私は医療の専門家ですから」 私は、包帯を巻き直した。「もう二、三日は、激しい運動を避けてください」
「...わかった」 宿屋の食堂で、四人で食事を取った。 久しぶりの温かい料理。肉のシチュー、焼きたてのパン、新鮮な野菜のサラダ。 氷山での保存食ばかりの日々の後では、天国のようだった。「美味いな」 ガルドが、豪快に食べている。「ああ。やはり、温かい料理はいい」 アレンも、久しぶりにしっかりと食べていた。 リーナは、静かに食事をしていたけれど、時々思い出したように呟いた。「雪崩の谷で、本当に申し訳ありませんでした」
「リーナさん、もう気にしないでください」 私は、リーナの手を握った。「みんな無事だったんですから」
「でも」
「誰でも、ミスはします」 アレンも、頷いた。「そうだ。大事なのは、そこから学ぶことだ」
「...」
「次は、同じミスをしなければいい」 リーナは、少し笑顔を見せた。「ありがとうございます」 食事の後、ガルドが地図を広げた。「さて、次は東の古代遺跡だが」
「...」
「王都を経由するか、それとも直接向かうか」 アレンは、地図を見ながら考えた。「直接向かった方が、時間の節約になる」
「ああ」
「でも、王都で補給をした方が安全だ」 ガルドが、指摘した。「古代遺跡は、砂漠の中にある」
「...」
「水と食料を、十分に用意しないと」
「そうだな」 アレンは、頷いた。「では、一度王都に戻ろう」
「...」
「エリーゼにも、報告しなければならない」 その夜、私は一人で宿屋の屋上に上がった。 星空が、美しかった。 氷山の頂上で見た星空を思い出す。 あの時は、死ぬかもしれないと思った。 でも、みんなで乗り越えた。「水野」 背後から、アレンの声がした。「アレンさん」
「一人で、何をしている」
「星を、見ていました」 アレンは、私の隣に立った。「きれいだな」
「ええ」 しばらく、二人で星を見ていた。「水野」
「はい」
「氷山で、お前の助言がなければ、守護者は倒せなかった」
「...」
「ありがとう」
「いえ」 私は、首を振った。「私は、ただ知っていることを言っただけです」
「それが、大事なんだ」 アレンは、私を見た。「俺たちは、戦うことしかできない」
「...」
「でも、お前は違う」
「...」
「お前には、俺たちにはない知識がある」 アレンは、優しく微笑んだ。「だから、お前が一緒にいてくれて、本当に助かっている」 私の胸が、温かくなった。「私も、アレンさんたちと一緒にいられて、嬉しいです」
「...」
「一人じゃ、何もできませんから」 アレンは、私の手を握った。「水野」
「はい」
「お前は、いつまでこの世界にいられる」 突然の質問に、私は戸惑った。「...わかりません」
「...」
「でも、いつかは帰らなければならないと思います」 アレンの手が、少し震えた。「そうか」
「...」
「俺は、お前に帰らないでほしいと思っている」 アレンの声が、震えていた。「でも、それは自分勝手だとわかっている」
「...」
「お前には、元の世界での人生がある」
「...」
「それを、奪うことはできない」 私は、涙が出そうになった。「アレンさん」
「だから、今を大切にしたい」 アレンは、私の両手を握った。「お前がここにいる間、俺は精一杯、お前と一緒の時間を過ごしたい」 私は、もう涙を抑えられなかった。「私も、です」
「...」
「アレンさんと一緒にいられる時間を、大切にしたいです」 アレンは、私を抱きしめた。 温かかった。 この温もりを、忘れたくない。 でも、いつかは別れが来る。 それは、わかっている。 だからこそ、今を大切にしたい。
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