第19話 氷の守護者

 難所を越えた後、道は比較的なだらかになった。

 

 でも、気温はさらに下がっていた。

 

 息をするたびに、肺が痛い。

 

「もう少しだ」

 

 アレンが、前方を指した。

 

 雲の上に、何かが見える。

 

 氷山の頂上だ。

 

 私たちは、最後の力を振り絞って登った。

 

 そして、ついに、頂上に到着した。

 

 そこは、広い平地だった。

 

 地面は、すべて氷でできている。まるで、巨大な氷の鏡のようだった。

 

 そして、中央に、何かが立っていた。

 

 氷の柱。

 

 いや、違う。

 

 よく見ると、それは氷の像だった。

 

 巨大な、騎士の像。

 

「あれが、守護者か」

 

 ガルドが、呟いた。

 

 私たちは、慎重に近づいた。

 

 像は、動かない。

 

 でも、何か、生きているような気配がする。

 

 アレンが、像の前に立った。

 

「闇の心臓の欠片を、探しに来た」

 

 アレンの声が、頂上に響いた。

 

 その瞬間、像が動いた。

 

 氷が、きしむ音。

 

 騎士の像が、ゆっくりと立ち上がった。

 

 そして、巨大な氷の剣を構えた。

 

「氷の守護者」

 

 リーナが、震える声で言った。

 

 守護者は、私たちを見下ろした。

 

 そして、低い声で言った。

 

「我は、この地の守護者」

「...」

「何者も、この地の宝を奪うことは許さぬ」

 

 守護者は、剣を振り上げた。

 

「去れ。さもなくば、滅ぼす」

 

 アレンは、剣を抜いた。

 

「すまないが、引き下がることはできない」

「...」

「欠片を、渡してもらう」

 

 守護者は、怒りの声を上げた。

 

「ならば、死ね」

 

 守護者の剣が、振り下ろされた。

 

 アレンは、それを避けた。

 

 氷の剣が、地面に叩きつけられる。

 

 ガガガガという音と共に、地面に亀裂が走った。

 

「強い」

 

 ガルドが、大剣を構えた。

 

「アレン、俺も行く」

「ああ」

 

 二人は、守護者に立ち向かった。

 

 アレンの剣と、ガルドの大剣が、守護者を襲う。

 

 でも、守護者の体は硬い。

 

 剣が、弾かれる。

 

「くそ、硬い」

 

 リーナが、魔法を放った。

 

「炎の矢」

 

 炎の矢が、守護者に命中した。

 

 守護者の体が、少し溶けた。

 

「効いてる」

 

 でも、溶けた部分が、すぐに再生する。

 

「再生するのか」

 

 私は、何もできずに見ているしかなかった。

 

 無力だった。

 

 戦いは、激しさを増していった。

 

 アレンとガルドは、何度も攻撃を繰り返した。

 

 リーナも、魔法を放ち続けた。

 

 でも、守護者は強かった。

 

 そして、ついに。

 

 守護者の剣が、アレンを捉えた。

 

「アレン」

 

 私は、叫んだ。

 

 アレンは、辛うじて避けたけれど、右肩を切られた。

 

 血が、流れる。

 

「アレンさん」

 

 私は、駆け寄ろうとした。

 

「来るな、水野」

 

 アレンが、制止した。

 

「大丈夫だ」

「でも」

「これくらい、平気だ」

 

 アレンは、再び守護者に向かった。

 

 でも、動きが鈍くなっている。

 

 傷が、響いているのだ。

 

 私は、考えた。

 

 何かできることは、ないか。

 

 私にできることは。

 

 その時、ふと気づいた。

 

 守護者の体。

 

 氷でできている。

 

 そして、氷には、弱点がある。

 

 亀裂だ。

 

 氷は、亀裂から砕ける。

 

「アレンさん」

 

 私は、叫んだ。

 

「守護者の体に、亀裂を作ってください」

「亀裂?」

「はい。氷は、亀裂から砕けます」

「...」

「小さな亀裂を、たくさん作れば」

 

 アレンは、理解した。

 

「わかった」

 

 アレンは、ガルドに言った。

 

「ガルド、守護者の体に、小さな傷をつけろ」

「わかった」

 

 二人は、戦術を変えた。

 

 大きなダメージを狙うのではなく、小さな傷を、たくさんつける。

 

 何度も、何度も。

 

 守護者の体に、細かい亀裂ができていった。

 

「リーナ、今だ」

 

 アレンが、叫んだ。

 

「最大の炎の魔法を」

「はい」

 

 リーナは、杖を高く掲げた。

 

「炎よ、すべてを焼き尽くせ」

「炎の嵐」

 

 巨大な炎が、守護者を包んだ。

 

 守護者の体が、溶け始めた。

 

 そして、亀裂が広がった。

 

 ガガガガという音と共に、守護者の体が砕け始めた。

 

「やった」

 

 ガルドが、叫んだ。

 

 守護者は、膝をついた。

 

 そして、ゆっくりと倒れた。

 

 地面に激突して、バラバラに砕けた。

 

 戦いは、終わった。

 

「アレンさん」

 

 私は、アレンに駆け寄った。

 

 アレンは、右肩を押さえていた。血が流れている。

 

「すぐに手当てを」

 

 私は、医療道具を取り出した。

 

 傷を洗浄して、消毒して、縫合する。

 

 そして、包帯を巻いた。

 

「これで大丈夫です」

「ありがとう、水野」

 

 アレンは、少し笑った。

 

「お前のおかげで、勝てた」

「いえ、私は」

「いや、お前の助言がなければ、守護者は倒せなかった」

 

 アレンは、私の頭に手を置いた。

 

「ありがとう」

 

 私の胸が、温かくなった。

 

 ガルドが、守護者の残骸を調べていた。

 

「アレン、これを」

 

 ガルドが、何かを拾い上げた。

 

 黒い宝石。

 

 闇の心臓の欠片だ。

 

「見つけたぞ」

 

 アレンは、欠片を受け取った。

 

 欠片は、不気味に光っていた。

 

「これが、一つ目か」

「ああ」

「あと、三つ」

 

 アレンは、欠片を袋に仕舞った。

 

「帰ろう」

 

 私たちは、頂上を後にした。

 

 下山は、登るよりも速かった。

 

 そして、三日後、私たちは麓に戻った。

 

 町に着いた時、みんな疲れ果てていた。

 

 でも、達成感があった。

 

 一つ目の欠片を、手に入れた。

 

 宿屋で休んだ後、アレンが言った。

 

「次は、東の古代遺跡だ」

「...」

「そこに、二つ目の欠片がある」

 

 私たちの旅は、まだ続く。

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