第18話 風の峠
翌朝、私たちは早くに出発した。
風の峠に向かって、雪原を進む。
峠に近づくにつれて、風が強くなってきた。
まっすぐ歩くのも、困難になる。
「みんな、ロープで繋がれ」
アレンの指示で、私たちは昨日と同じように一本のロープで繋がった。
峠の入口に着くと、風の音が聞こえてきた。
ゴォォォという、恐ろしい音。
「これが、風の峠か」
ガルドが、身構えた。
峠は、狭い道だった。左は崖、右は氷壁。
そして、正面から、猛烈な風が吹いてくる。
「行くぞ」
アレンが、先頭で進み始めた。
風が、容赦なく襲ってくる。
体が、持っていかれそうになる。
私は、必死に踏ん張った。
でも、足が滑る。
「きゃっ」
私は、転びそうになった。
その瞬間、ロープが引っ張られた。
リーナが、私を支えてくれた。
「水野様、大丈夫ですか」
「はい、ありがとうございます」
私たちは、ゆっくりと進んだ。
一歩、一歩。
風に負けないように。
でも、風はどんどん強くなっていった。
アレンでさえ、苦戦している様子だった。
さらに進むと、道が細くなった。
幅が、わずか一メートルほど。
左を見ると、深い谷底が見える。
「気をつけろ。落ちたら、助からない」
アレンの声が、風に消されそうになる。
私は、恐怖で足がすくんだ。
こんな細い道を、この強風の中、歩くのか。
「水野、大丈夫か」
アレンが、振り返った。
「は、はい」
私は、勇気を振り絞った。
大丈夫。ロープで繋がっている。みんなと一緒だ。
一歩、踏み出す。
風が、体を押す。
でも、耐える。
もう一歩。
また風が襲う。
でも、前に進む。
一歩、一歩。
私たちは、必死に進んだ。
どれだけ時間が経ったのか、わからなかった。
でも、ようやく、道が広くなってきた。
風も、少し弱くなった。
「もう少しだ」
アレンの声が聞こえた。
私たちは、最後の力を振り絞って、峠を越えた。
そして、風の届かない場所に出た。
「ふう」
みんな、その場に座り込んだ。
疲れ果てていた。
「やった、越えたぞ」
ガルドが、嬉しそうに言った。
アレンは、立ち上がって、後ろを振り返った。
「よく、頑張った」
「...」
「みんな、無事だ」
私は、安堵の涙が出そうになった。
本当に、怖かった。
でも、乗り越えられた。
みんなと一緒に。
「少し休もう」
アレンが、言った。
私たちは、その場で休憩を取った。
保存食を食べて、水を飲む。
体が、少し回復した。
「次は、雪崩の谷だな」
アレンが、地図を確認した。
「ああ」
ガルドが、頷いた。
「あそこは、音を立てないように進まないと」
「ああ。少しの音でも、雪崩が起きる」
リーナが、心配そうに言った。
「大丈夫でしょうか」
「大丈夫だ」
アレンは、微笑んだ。
「慎重に進めば、問題ない」
休憩を終えて、私たちは再び歩き始めた。
一時間ほど歩くと、谷が見えてきた。
両側に、高い雪の壁がそびえている。
雪崩の谷だ。
「ここからは、静かに」
アレンが、小声で言った。
「話すのも、最小限に」
私たちは、頷いた。
谷に入る。
足音を立てないように、そっと歩く。
雪を踏む音さえ、最小限に。
緊張で、心臓がドキドキする。
谷は、長かった。
ゆっくり、ゆっくり進む。
どれだけ時間が経ったのか。
三十分か、一時間か。
ようやく、谷の出口が見えてきた。
あと少し。
その時、背後で音がした。
小さな、石の転がる音。
誰かが、石を蹴ったのだ。
次の瞬間。
ゴゴゴゴという音が、響いた。
雪崩だ。
「走れ」
アレンが、叫んだ。
私たちは、全速力で走った。
背後から、雪の壁が迫ってくる。
「速く」
ガルドが、叫ぶ。
私は、必死に走った。
足が、もつれそうになる。
でも、転んではいけない。
転んだら、終わりだ。
出口が、近づいてくる。
あと十メートル。
五メートル。
私たちは、谷を飛び出した。
その直後、雪崩が谷を埋め尽くした。
「ふう、ふう」
みんな、息を切らしていた。
「危なかった」
ガルドが、後ろを見た。
谷は、完全に雪に埋まっていた。
もし、あと少し遅れていたら。
考えるだけで、恐ろしい。
「誰だ、石を蹴ったのは」
ガルドが、聞いた。
みんな、黙っていた。
「...すみません」
リーナが、小さな声で言った。
「私です」
「リーナ」
「足が、もつれて」
リーナは、涙を流していた。
「すみません。みなさんを、危険な目に」
「いや」
アレンが、リーナの肩に手を置いた。
「無事だった。それでいい」
「でも」
「誰でも、ミスはする」
アレンは、優しく言った。
「大事なのは、みんな無事だということだ」
リーナは、涙を拭いた。
「ありがとうございます」
私たちは、少し休んでから、再び歩き始めた。
三つの難所を、すべて越えた。
あとは、頂上に向かうだけだ。
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