氷山の試練
第17話 氷の迷宮
翌朝、夜明け前に私たちは出発した。
町を出て、北へ。徐々に気温が下がっていく。息が白くなり、手足の感覚が鈍くなってくる。
二時間ほど歩くと、氷山が見えてきた。
巨大な、白い山。頂上は雲に隠れて見えない。斜面は、すべて氷と雪に覆われている。
「あれが、氷山か」
ガルドが、呟いた。
「想像以上に、大きいな」
「ああ」
アレンも、山を見上げていた。
「あの頂上に、欠片がある」
「...」
「必ず、手に入れる」
私たちは、麓に到着した。
そこには、小さな祠があった。登山者が、安全を祈る場所だという。
リーナが、祈りを捧げた。
「氷の女神よ、どうか私たちを守りたまえ」
祈りが終わると、私たちは登山を開始した。
最初は、なだらかな斜面だった。雪を踏みしめながら、ゆっくりと登っていく。
でも、一時間も経たないうちに、風が強くなってきた。
吹雪だ。
視界が悪くなり、前が見えない。
「みんな、ロープで繋がろう」
アレンの指示で、私たちは一本のロープで繋がった。
アレンが先頭、次にガルド、リーナ、そして私。
吹雪の中を、必死に進む。
冷たい風が、顔を叩く。指先が、凍えそうになる。
でも、立ち止まることはできない。
三時間ほど登ると、洞窟が見えてきた。
「あそこで、休もう」
アレンが、指差した。
私たちは、洞窟に入った。
風が止んで、少し暖かくなった。
「ふう」
ガルドが、大きく息をついた。
「吹雪は、厳しいな」
「ああ」
私たちは、少し休憩を取った。持ってきた保存食を食べて、温かいスープを飲む。
体が、少し温まった。
「この先が、氷の迷宮だな」
アレンが、地図を確認した。
「ああ。入り組んだ洞窟が続いている」
「迷わないように、気をつけよう」
休憩を終えて、私たちは洞窟の奥へ進んだ。
そこから、氷の迷宮が始まっていた。
洞窟は、複雑に枝分かれしている。どの道が正しいのか、わからない。
壁も床も天井も、すべて氷でできている。まるで、氷の彫刻の中にいるようだった。
「美しいですね」
私は、思わず呟いた。
氷に反射した光が、七色に輝いている。
「ああ。でも、油断するな」
アレンが、注意した。
「床が滑りやすい」
「...」
「そして、この迷宮には、魔物が棲んでいる」
私たちは、慎重に進んだ。
分かれ道に来るたびに、アレンが判断する。地図と、勘を頼りに。
一時間ほど進んだ時、突然、氷の壁が動いた。
「何?」
壁から、人型の氷の塊が現れた。
氷の魔物だ。
「アイスゴーレム」
リーナが、叫んだ。
アイスゴーレムは、大きな拳を振り上げた。
アレンは、剣を抜いて迎え撃った。
剣が、ゴーレムの腕を切り裂いた。
でも、切り口から、新しい氷が生まれて、腕が再生する。
「くそ、再生するのか」
アレンは、何度も攻撃した。
でも、ゴーレムは再生し続ける。
「リーナ、火の魔法を」
「はい」
リーナは、杖を振った。
「炎の矢」
炎の矢が、ゴーレムに命中した。
ゴーレムの体が、溶け始めた。
「効いてる」
ガルドも、松明を持って、ゴーレムに突進した。
炎と剣の攻撃で、ゴーレムは徐々に小さくなっていった。
そして、完全に溶けて、消えた。
「ふう」
アレンは、剣を鞘に収めた。
「氷の魔物には、火が効くな」
「ええ」
リーナが、頷いた。
「でも、魔力を消耗します」
「...」
「あまり多用できません」
「わかった。次は、できるだけ避けよう」
私たちは、再び進み始めた。
でも、迷宮は複雑で、なかなか出口が見つからない。
何度も分かれ道に遭遇し、その度に立ち止まって考える。
そして、時々、アイスゴーレムが現れた。
その度に、戦わなければならない。
リーナの魔力は、徐々に減っていった。
「リーナさん、大丈夫ですか」
「はい、まだ大丈夫です」
でも、顔色が悪い。
私は、エリーゼがくれた魔法薬を取り出した。
「これを、飲んでください」
「これは」
「魔力を回復する薬です」
「ありがとうございます」
リーナは、薬を飲んだ。
少し、顔色が良くなった。
さらに二時間ほど進むと、ようやく出口が見えてきた。
「あれだ」
アレンが、指差した。
明るい光が、見える。
私たちは、急いで出口に向かった。
そして、外に出た。
そこは、広い雪原だった。
「氷の迷宮を、抜けたか」
ガルドが、安堵の息をついた。
「ああ。次は、風の峠だな」
アレンは、前方を見た。
遠くに、険しい崖が見える。
「あそこを越えなければならない」
「...」
「でも、今日はここで休もう」
アレンは、周りを見渡した。
「もう夕方だ。暗くなる前に、テントを張ろう」
私たちは、雪原にテントを張った。
二つのテント。男性用と女性用。
夕食は、保存食と温かいスープ。簡素だけど、凍えた体には嬉しかった。
夕食後、私はリーナと一緒にテントに入った。
「水野様、今日は疲れましたね」
「ええ」
私は、寝袋に入った。
「でも、無事に迷宮を抜けられました」
「はい」
リーナも、寝袋に入った。
「水野様、氷山は、これからもっと厳しくなります」
「...」
「大丈夫ですか」
「大丈夫です」
私は、微笑んだ。
「みんなと一緒なら、きっと乗り越えられます」
リーナも、微笑んだ。
「そうですね」
しばらくして、リーナの寝息が聞こえてきた。
私は、まだ眠れなかった。
テントの外では、風の音が聞こえる。
アレンは、大丈夫だろうか。
今日も、何度も戦った。疲れているはずだ。
私は、そっとテントを出た。
外は、寒かった。でも、星空が美しかった。
男性用のテントを見ると、明かりが灯っている。
近づくと、アレンの声が聞こえた。
「明日は、風の峠だ」
「ああ」
ガルドの声。
「あそこが、一番の難所だ」
「強風が、常に吹いている」
「ああ」
「ロープで、しっかり繋がらないとな」
二人は、明日の計画を話していた。
私は、テントに戻ろうとした。
その時、アレンがテントから出てきた。
「水野?」
「あ、アレンさん」
「どうした。眠れないのか」
「少し、星を見ていました」
アレンは、私の隣に立った。
「星空、きれいだな」
「ええ」
二人で、しばらく星を見ていた。
「水野」
「はい」
「今日は、よく頑張ったな」
「...」
「氷の迷宮、大変だっただろう」
「大丈夫です」
私は、アレンを見た。
「アレンさんの方が、大変だったでしょう」
「いや、俺は平気だ」
でも、アレンの顔には、疲れが見えた。
「アレンさん、無理しないでください」
「...」
「明日は、もっと大変なんですよね」
「ああ」
「だから、今日はちゃんと休んでください」
アレンは、少し笑った。
「お前は、本当に心配性だな」
「...」
「でも、ありがとう」
アレンは、私の頭に手を置いた。
「お前がいてくれるから、俺は頑張れる」
私の胸が、ドキドキした。
「私も、アレンさんがいるから、頑張れます」
二人で、また星を見た。
静かな夜。美しい星空。
でも、明日は、もっと厳しい試練が待っている。
それでも、アレンと一緒なら、乗り越えられる。
私は、そう信じていた。
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