第16話 氷山への道
王都から北へ。馬車で五日間の旅。
最初の三日は、平原を進んだ。気候は穏やかで、旅は順調だった。
でも、四日目から、景色が変わり始めた。
木々が少なくなり、岩肌が目立つようになった。そして、気温が下がってきた。
「寒くなってきましたね」
「ああ」
ガルドが、頷いた。
「北の地域に入った」
「...」
「これから、もっと寒くなる」
私たちは、防寒具を身につけた。厚い外套、手袋、ブーツ。エリーゼが用意してくれた装備は、暖かかった。
五日目の夕方、私たちは北の町に到着した。
この町は、氷山への入口として知られている。登山者や冒険者が、ここで最後の準備をするのだという。
宿屋で休んだ後、私たちは町の酒場に向かった。
登山の情報を集めるためだ。
酒場は、賑わっていた。屈強な男たちが、酒を飲みながら談笑している。
「あの、すみません」
アレンが、カウンターの店主に話しかけた。
「氷山に登った人は、いますか」
「氷山に?」
店主は、眉をひそめた。
「今の時期に、氷山に登るのか」
「ええ」
「無謀だな」
店主は、首を振った。
「今は、一年で最も寒い時期だ」
「...」
「吹雪が頻繁に起こる」
「それでも、行かなければなりません」
アレンは、真剣な顔で言った。
店主は、少し考えて、奥の席を指した。
「あそこにいる男に聞いてみな」
「...」
「あいつは、氷山の専門家だ」
私たちは、その男のところに向かった。
男は、一人で酒を飲んでいた。髭面で、傷だらけの顔。でも、目は鋭かった。
「すみません」
「...何だ」
男は、不機嫌そうに答えた。
「氷山について、教えていただけませんか」
「氷山?」
男は、私たちを見た。
「お前ら、登るつもりか」
「はい」
「やめとけ」
男は、酒を飲んだ。
「今の時期の氷山は、死の山だ」
「...」
「毎年、何人もの冒険者が、死んでいる」
「それでも、行かなければなりません」
アレンは、座った。
「お願いします。教えてください」
男は、アレンをじっと見た。
「...お前、どこかで見た顔だな」
「...」
「もしかして、アレン・ヴァルハイト?」
「ええ」
男の目が、驚きに満ちた。
「伝説の勇者が」
「...」
「氷山に登る理由は、何だ」
「魔王の遺産を、探しています」
「魔王の?」
男は、真剣な顔になった。
「...そうか」
「...」
「なら、仕方ないな」
男は、地図を広げた。
「いいか、よく聞け」
男は、氷山のルートを説明してくれた。
麓から頂上までは、三日かかる。途中、三つの難所がある。
一つ目は、「氷の迷宮」。複雑に入り組んだ氷の洞窟。
二つ目は、「風の峠」。常に強風が吹き荒れる場所。
三つ目は、「雪崩の谷」。少しの音でも、雪崩が起きる危険な谷。
「そして、頂上には」
「...」
「氷の守護者がいる」
「守護者?」
「ああ。古代から、氷山を守っている魔物だ」
男は、真剣な目で言った。
「その守護者を倒さなければ、頂上には行けない」
「...わかりました」
「だが、無理はするな」
男は、私たちを見た。
「命あっての物種だ」
「ありがとうございます」
情報を得た後、私たちは宿屋に戻った。
アレンの部屋で、四人で話し合った。
「三日か」
ガルドが、地図を見ながら言った。
「思ったより、長いな」
「ああ」
「そして、三つの難所」
「...」
「氷の迷宮、風の峠、雪崩の谷」
リーナが、心配そうに言った。
「どれも、危険そうですね」
「ああ」
アレンは、頷いた。
「でも、行くしかない」
「...」
「ゼノンより先に、欠片を手に入れなければ」
私は、少し不安だった。
氷山。三つの難所。そして、守護者。
本当に、私たちは乗り越えられるのだろうか。
でも、アレンの決意を見て、私も決心した。
何があっても、アレンを支える。
それが、私の役目だ。
「明日、出発します」
アレンが、宣言した。
「早朝に出て、夕方までに氷の迷宮を抜ける」
「...」
「装備は、すべて確認した」
「...」
「準備は、できている」
アレンは、私たちを見た。
「みんな、覚悟はいいか」
「ああ」
ガルドが、力強く答えた。
「はい」
リーナも、頷いた。
私も、答えた。
「はい。覚悟はできています」
アレンは、微笑んだ。
「ありがとう」
「...」
「みんながいるから、俺は戦える」
その夜、私は一人で考えていた。
明日から、本当の試練が始まる。
氷山。死の山。
でも、恐れてはいられない。
アレンのために。
この世界のために。
私は、できることをする。
医療の専門家として。
そして、アレンを愛する者として。
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