第14話 決意の夜

 町を出発する前に、私たちは宿屋で作戦会議を開いた。

 

 アレンの部屋に四人が集まり、リーナが持ち帰った本を囲んで話し合う。

 

「この本によれば」

 

 リーナは、古代語を読み解きながら説明した。

 

「闇の心臓の欠片は、四つに分かれて散らばっています」

「場所は、わかるのか」

「はい。おおよそですが」

 

 リーナは、地図を広げた。

 

「一つ目は、北の氷山」

「...」

「二つ目は、東の古代遺跡」

「...」

「三つ目は、南の火山」

 

 リーナは、地図上の三箇所を指した。

 

「そして、四つ目は」

「...」

「西の海底神殿」

 

 ガルドが、頭を掻いた。

 

「どれも、とんでもない場所だな」

「ああ」

 

 アレンも、険しい顔をした。

 

「氷山、火山、海底」

「...」

「それぞれ、過酷な環境だ」

 

 私は、不安になった。

 

 そんな危険な場所に、本当に行けるのだろうか。

 

「でも、行かなければなりません」

 

 リーナが、真剣な顔で言った。

 

「ゼノンより先に、欠片を回収しなければ」

「ああ」

 

 アレンは、頷いた。

 

「まず、どこから行く?」

「北の氷山が、一番近いです」

「では、そこから始めよう」

 

 ガルドが、腕を組んだ。

 

「だが、氷山は極寒の地だ」

「...」

「装備を整える必要がある」

「ここで買えるか」

「いや、この町では無理だろう」

 

 ガルドは、地図を見た。

 

「王都に戻って、準備をした方がいい」

「...」

「防寒具、食料、そして登山道具」

「わかった」

 

 アレンは、決断した。

 

「明日、王都に戻る」

「...」

「そこで装備を整えて、すぐに氷山へ向かう」

 

 会議が終わった後、私は一人で部屋に戻った。

 

 ベッドに座って、今日のことを考える。

 

 ゼノンとの遭遇。あの冷たい目。強力な闇の魔法。

 

 もし、アレンとガルドが来るのが遅れていたら、私とリーナは殺されていたかもしれない。

 

 恐怖が、じわじわと襲ってきた。

 

 私は、医療の専門家だ。人を助けることはできる。でも、戦うことはできない。

 

 これから先、もっと危険な場面に遭遇するだろう。

 

 その時、私は足手まといになるんじゃないか。

 

 不安で、涙が出そうになった。

 

 その時、ノックの音がした。

 

「水野、いるか」

 

 アレンの声だった。

 

「はい、どうぞ」

 

 ドアが開いて、アレンが入ってきた。

 

「邪魔するぞ」

「いえ」

 

 アレンは、私の隣に座った。

 

「今日は、危なかったな」

「...はい」

「怖かっただろう」

「...はい」

 

 私は、正直に答えた。

 

「すごく、怖かったです」

「...」

「もし、アレンさんたちが来なかったら」

 

 私の声が震えた。

 

「私たち、殺されていたかもしれません」

 

 アレンは、私の頭に手を置いた。

 

「すまない」

「...」

「お前を、危険な目に遭わせてしまった」

「いえ、アレンさんのせいじゃ」

「いや、俺のせいだ」

 

 アレンは、窓の外を見た。

 

「俺が、お前を旅に連れてきたから」

「...」

「お前は、城にいれば安全だったのに」

 

 私は、首を振った。

 

「違います」

「...」

「私が、ついて行くと言ったんです」

「でも」

「だから、アレンさんのせいじゃありません」

 

 私は、アレンの手を握った。

 

「それに、今日、貴重な情報を得られました」

「...」

「闇の心臓のこと」

「ああ」

「もし、私たちが教会に行っていなかったら、それを知ることはできませんでした」

 

 アレンは、私を見た。

 

「お前は、強いな」

「...」

「怖い思いをしたのに、前向きに考えられる」

「そんなことないです」

 

 私は、少し笑った。

 

「実は、さっきまで泣きそうでした」

「...」

「でも、泣いていても仕方ないから」

 

 私は、空を見た。

 

「前を向かないと」

 

 アレンは、優しく微笑んだ。

 

「水野」

「はい」

「お前に、頼みがある」

「何でしょう」

 

 アレンは、真剣な顔で言った。

 

「これから先、もっと危険な場所に行く」

「...」

「だから、お前は城に残ってくれないか」

「え?」

 

 私は、驚いた。

 

「城に、残る?」

「ああ」

「でも」

「お前を、これ以上危険な目に遭わせたくない」

 

 アレンは、私の両肩を掴んだ。

 

「頼む」

 

 私は、少し考えた。

 

 確かに、これから先は危険だ。氷山、火山、海底。どれも、命の危険がある。

 

 でも。

 

「嫌です」

「...何?」

「城には、残りません」

 

 私は、はっきりと言った。

 

「私も、一緒に行きます」

「だが」

「アレンさん、私は医療の専門家です」

「...」

「もし、誰かが怪我をしたら、私が必要です」

「リーナの魔法が」

「魔法では治せない傷もあります」

 

 私は、アレンの手を握った。

 

「だから、私も行きます」

「...」

「それに」

 

 私は、アレンの目を見た。

 

「アレンさんのそばにいたいんです」

 

 アレンは、言葉を失った。

 

「水野」

「危険なのは、わかっています」

「...」

「でも、アレンさんを一人で行かせたくないんです」

 

 アレンは、しばらく黙っていた。

 

 そして、深くため息をついた。

 

「...わかった」

「...」

「お前の気持ちは、わかった」

 

 アレンは、私を抱きしめた。

 

「だが、絶対に無理はするな」

「...はい」

「危険だと思ったら、すぐに逃げろ」

「はい」

「約束だ」

「約束します」

 

 アレンの腕の中で、私は安心した。

 

 温かかった。

 

 これから先、どんな危険が待っていても、アレンと一緒なら、乗り越えられる気がした。

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