第13話 闇の影
翌朝、私たちは町の周辺を調査することにした。
アレンとガルドは、森の方へ。私とリーナは、町の人々から話を聞くことに。
「では、気をつけて」
「ああ」
二手に分かれて、調査を開始した。
私とリーナは、町の市場を回った。
人々は、普通に生活していた。野菜を売る人、パンを買う人、子供たちが走り回っている。
「水野様、あの人に聞いてみましょう」
リーナが、果物を売っている老人を指した。
「すみません」
「おや、お嬢さんたち」
老人は、優しく微笑んだ。
「何か、お探しかね」
「いえ、少しお話を聞きたくて」
「話?」
私は、魔物の襲撃について尋ねた。
「ああ、あの時のことか」
老人は、思い出すように目を細めた。
「恐ろしかったよ」
「...」
「突然、魔物の群れが現れて」
「魔物は、何をしていましたか」
「何を、って」
老人は、少し考えた。
「そういえば、おかしなことに」
「...」
「魔物たちは、人を襲うより、建物を調べていたような」
「建物を」
「ああ。家の中に入って、何かを探しているような」
やはり、何かを探している。
「特に、どこを重点的に探していましたか」
「そうだな」
老人は、町の北側を指した。
「あっちの方かな」
「ありがとうございます」
私たちは、町の北側に向かった。
そこには、古い教会があった。
「この教会、古いですね」
「ええ」
リーナが、教会を見上げた。
「おそらく、百年以上前からあると思います」
「...」
「もしかしたら、魔王の遺産が、この中に」
私たちは、教会の中に入った。
薄暗い内部。ステンドグラスから、色とりどりの光が差し込んでいる。
静かで、神聖な雰囲気だった。
「誰もいませんね」
「ええ」
私たちは、教会の中を調べた。
祭壇、長椅子、壁に掛けられた絵画。
特に変わったものは、ない。
「水野様、こちらに」
リーナが、祭壇の裏を指した。
そこには、地下への階段があった。
「地下室、でしょうか」
「そのようですね」
私たちは、階段を降りた。
地下室は、さらに暗かった。リーナが、魔法で光を灯す。
「光よ」
リーナの杖が、明るく光った。
地下室には、古い本や巻物が並んでいた。図書室のようだ。
「古い文献が、たくさんありますね」
「ええ」
リーナは、本棚を調べた。
「これは、古代語で書かれています」
「読めますか」
「少しだけ」
リーナは、一冊の本を手に取った。
ページをめくって、何かを読んでいる。
「これは」
リーナの顔が、青ざめた。
「どうしました」
「水野様、これを」
リーナは、本を私に見せた。
古代語なので、私には読めない。でも、挿絵があった。
黒い宝石のようなもの。その周りに、複雑な魔法陣が描かれている。
「これは、『闇の心臓』」
「闇の心臓?」
「ええ。魔王の力の源だったと言われています」
リーナは、震える声で言った。
「この本によれば、魔王の城が崩壊した時、闇の心臓は四つに分かれて、各地に散らばったそうです」
「四つに」
「ええ。そして、四つすべてを集めて、復活の儀式を行えば」
リーナは、私を見た。
「魔王が、蘇るそうです」
私は、息を呑んだ。
「では、ゼノンは」
「おそらく、闇の心臓の欠片を集めているのでしょう」
「...」
「この町にも、一つあったのかもしれません」
その時、背後で物音がした。
振り向くと、階段の上に人影があった。
黒いローブを着た、男。
「よくぞ、気づいたな」
低い声。
男は、ゆっくりと階段を降りてきた。
フードを取ると、痩せた顔が現れた。鋭い目、白い髪。
「ゼノン」
リーナが、呟いた。
「久しぶりだな、リーナ」
ゼノンは、冷たく笑った。
「まだ、生きていたのか」
リーナは、杖を構えた。
「ゼノン、あなたは」
「心配するな。すぐには殺さん」
ゼノンは、私たちを見た。
「それより、その本を渡してもらおう」
「渡せません」
「ならば、力ずくで」
ゼノンは、手を上げた。
闇の魔法陣が、空中に浮かび上がる。
「闇の鎖」
黒い鎖が、私たちに向かって飛んできた。
「水野様、伏せて」
リーナが、バリアを張った。
「光の盾」
鎖は、バリアに弾かれた。
「ほう、成長したな」
ゼノンは、興味深そうに言った。
「だが、まだ足りん」
ゼノンは、再び魔法を放った。
「闇の矢」
無数の黒い矢が、バリアに襲いかかる。
リーナのバリアが、ひび割れた。
「くっ」
リーナは、必死に耐えていた。
でも、バリアが壊れるのは、時間の問題だった。
その時、階段から声が聞こえた。
「水野、リーナ」
アレンだった。
アレンとガルドが、駆け込んできた。
「ゼノン」
アレンは、剣を抜いた。
「やはり、お前だったか」
「アレン・ヴァルハイト」
ゼノンは、アレンを見た。
「生きていたのか」
「ああ」
「右腕と右脚を失ったと聞いたが」
「失ってはいない」
アレンは、剣を構えた。
「まだ、戦える」
ゼノンは、嘲笑った。
「左手の剣か」
「...」
「哀れだな」
「何とでも言え」
アレンは、ゼノンに向かって走った。
ゼノンは、闇の魔法で応戦した。
「闇の刃」
黒い刃が、アレンに飛んだ。
アレンは、剣で弾いた。
そして、ゼノンに肉薄した。
剣が、ゼノンに届こうとした瞬間。
ゼノンは、姿を消した。
「何?」
アレンは、周りを見渡した。
ゼノンの声が、地下室に響いた。
「今日のところは、これで失礼する」
「...」
「だが、次はないぞ」
「待て」
アレンが、叫んだ。
でも、ゼノンの姿は、もうどこにもなかった。
地下室に、沈黙が戻った。
「逃げられたか」
ガルドが、悔しそうに言った。
アレンは、剣を鞘に収めた。
「水野、リーナ、無事か」
「はい」
私は、頷いた。
「でも、ゼノンが」
「ああ。やはり、生きていた」
アレンは、リーナが持っている本を見た。
「それは」
「闇の心臓について、書かれた本です」
リーナは、本の内容を説明した。
アレンは、険しい顔をした。
「やはり、そうか」
「...」
「ゼノンは、闇の心臓の欠片を集めている」
「はい」
「四つ集めれば、魔王が復活する」
ガルドが、拳を握った。
「それを、阻止しなければならない」
「ああ」
アレンは、頷いた。
「ゼノンより先に、欠片を集める」
「...」
「そして、破壊する」
私たちは、地下室を出た。
外は、もう夕方になっていた。
アレンは、空を見上げた。
「時間がない」
「...」
「急がないと、ゼノンに先を越される」
私は、アレンの手を握った。
「大丈夫です」
「...」
「みんなで協力すれば、きっと」
アレンは、私を見て、微笑んだ。
「ああ。お前の言う通りだ」
でも、その笑顔には、不安が隠しきれていなかった。
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