第12話  北の町

 翌朝、私たちは再び旅を続けた。

 

 目的地は、北の町。魔物の襲撃が報告されている場所の一つだ。

 

 馬車で二日かかる距離。道中、何事もなく進むことを祈っていた。

 

 でも、その祈りは、叶わなかった。

 

 二日目の昼過ぎ、森の中を通っている時だった。

 

 突然、馬車が止まった。

 

「どうした」

 

 アレンが、御者に聞いた。

 

「道が、塞がれています」

「塞がれている?」

 

 私たちは、馬車から降りた。

 

 道の真ん中に、大きな木が倒れていた。

 

「これは」

 

 ガルドが、木を調べた。

 

「切り倒されている」

「切り倒された?」

「ああ。自然に倒れたのではない」

 

 ガルドは、周りを警戒した。

 

「罠だ」

 

 その瞬間、周りの茂みから、黒い影が飛び出してきた。

 

 魔物だった。

 

 狼のような姿の魔物、五体。

 

「くそ、囲まれた」

 

 ガルドは、大剣を構えた。

 

 アレンも、剣を抜いた。

 

「水野、リーナ、馬車の近くに」

「はい」

 

 私とリーナは、馬車の陰に隠れた。

 

 魔物たちが、アレンとガルドに襲いかかった。

 

 アレンは、左手の剣で、二体の魔物を相手にした。

 

 動きは速く、正確だった。一体目の魔物の首を切り、二体目の腹を貫いた。

 

 ガルドも、大剣を振るって、一体を叩き潰した。

 

 でも、残りの二体が、アレンに同時に襲いかかった。

 

「アレン、危ない」

 

 アレンは、一体を避けたけれど、もう一体の爪が、アレンの左腕を掠めた。

 

「くっ」

 

 アレンは、少しよろめいた。

 

 魔物が、追撃しようとした。

 

 その時、リーナが杖を振った。

 

「光の矢」

 

 リーナの魔法が、魔物に命中した。

 

 魔物は、倒れた。

 

 最後の一体は、ガルドが倒した。

 

 戦いは、終わった。

 

「アレンさん」

 

 私は、駆け寄った。

 

「大丈夫ですか」

「ああ、かすり傷だ」

 

 でも、血が流れている。

 

「すぐに手当てを」

 

 私は、アレンの腕を消毒して、包帯を巻いた。

 

「ありがとう」

「無理をしないでください」

「わかっている」

 

 ガルドが、倒れた木を調べていた。

 

「やはり、罠だ」

「...」

「誰かが、わざと倒して、俺たちを待ち伏せしていた」

「魔王の残党か」

「可能性が高い」

 

 ガルドは、険しい顔をした。

 

「こちらの動きを、把握している」

「...」

「気をつけないとな」

 

 私たちは、倒れた木を動かして、道を開けた。

 

 そして、再び馬車に乗り込んだ。

 

 北の町に着いたのは、夕方だった。

 

 町は、活気があった。人々は普通に生活している。魔物に襲われた様子はない。

 

「おかしいですね」

「ああ」

 

 アレンも、不思議そうにしていた。

 

「報告では、この町も襲われたはずだが」

 

 私たちは、町の宿屋に泊まることにした。

 

 そして、宿屋の主人に話を聞いた。

 

「魔物の襲撃ですか」

 

 主人は、頷いた。

 

「ええ、一週間前にありました」

「被害は」

「幸い、軽微でした」

 

 主人は、安堵の表情を見せた。

 

「町の兵士たちが、すぐに対応してくれて」

「魔物は、何体くらい」

「十体ほどでしょうか」

 

 主人は、少し考えた。

 

「でも、不思議なことに」

「...」

「魔物たちは、まるで何かを探しているようでした」

「探している?」

「ええ。家々を襲うというより、何かを探して回っているような」

 

 アレンとガルドは、顔を見合わせた。

 

「何を探していたんでしょうね」

「わかりません」

 

 主人は、首を傾げた。

 

「でも、結局何も見つからなかったようで、そのまま引き上げていきました」

 

 情報を得た後、私たちは部屋に戻った。

 

 アレンの部屋で、四人で話し合った。

 

「何かを探している、か」

 

 ガルドが、腕を組んだ。

 

「一体、何を」

「わからないが」

 

 アレンは、考え込んでいた。

 

「ただの破壊や略奪が目的じゃない」

「...」

「何か、特定のものを探している」

 

 リーナが、言った。

 

「もしかして、魔王の遺産では」

「魔王の遺産?」

「ええ」

 

 リーナは、説明を続けた。

 

「魔王は、様々な魔道具を持っていました」

「...」

「その中には、強力な力を持つものもあります」

「...」

「魔王の城が崩壊した時、それらは散らばったはずです」

 

 アレンは、頷いた。

 

「なるほど」

「...」

「ゼノンが、それを集めているのかもしれない」

「そうですね」

 

 ガルドも、同意した。

 

「魔王の遺産を集めれば、強力な力を得られる」

「...」

「それで、魔王を復活させるつもりか」

 

 私は、ゾッとした。

 

「魔王を、復活」

「可能性としては、ある」

 

 アレンは、真剣な顔で言った。

 

「魔王を完全に消滅させたわけじゃない」

「...」

「魂は、まだどこかに存在しているかもしれない」

「...」

「それを、遺産の力で呼び戻す」

 

 リーナが、心配そうに言った。

 

「もしそうなら、急がないと」

「ああ」

 

 アレンは、立ち上がった。

 

「明日、町の周辺を調べよう」

「...」

「何か手がかりが、あるかもしれない」

 

 その夜、私は一人で考えていた。

 

 魔王の復活。

 

 もしそれが本当なら、この世界は再び危機に陥る。

 

 そして、アレンは再び戦わなければならない。

 

 私は、アレンを守りたい。

 

 でも、医療の知識しかない私に、何ができるのか。

 

 無力感が、襲ってきた。

 

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