第10話 魔王の残党
村への襲撃の後、アレンはより一層、訓練に励むようになった。
朝から晩まで、剣を振り続ける。リハビリも、より厳しいメニューをこなす。
「アレンさん、少し休みませんか」
「いや、まだだ」
「でも、疲れているでしょう」
「大丈夫だ」
アレンは、汗を拭いながら言った。
「もっと強くならないと」
「...」
「次、また村が襲われた時、今度こそ完璧に守りたい」
アレンの目には、強い決意があった。
でも、それは同時に、焦りでもあった。
「アレンさん、焦らないでください」
「焦ってなどいない」
「いいえ、焦っています」
私は、はっきりと言った。
「そんなに無理をしたら、体を壊します」
「...」
「適度な休息も、リハビリの一部です」
アレンは、少し考えて、剣を下ろした。
「...わかった」
私たちは、訓練場の隅に座った。
「水野」
「はい」
「すまない」
「...」
「お前の言う通りだ。俺は、焦っていた」
アレンは、空を見上げた。
「村が襲われて、俺の力不足を痛感した」
「...」
「もっと強ければ、あんなに苦戦しなかった」
「でも、村を救えました」
「結果的にはな」
アレンは、自分の右手を見た。
「でも、もし右手が使えていたら」
「...」
「もっと早く、楽に倒せた」
私は、アレンの手を握った。
「アレンさん、右手は確実に回復しています」
「...」
「今日より明日、明日より明後日」
「...」
「少しずつでも、前に進んでいます」
アレンは、私を見た。
「お前は、いつも俺を励ましてくれるな」
「...」
「ありがとう」
その時、ガルドが駆けてきた。
「アレン、水野殿」
「どうした」
「エリーゼ様が、緊急の知らせを持ってきた」
「緊急の?」
私たちは、すぐに城の謁見の間に向かった。
エリーゼが、深刻な顔で待っていた。
「アレン、水野様」
「エリーゼ、何があった」
「王都から、知らせが」
エリーゼは、一通の手紙を取り出した。
「魔王の残党が、活動を始めているそうです」
「魔王の残党」
「ええ。各地で、魔物の襲撃が増えています」
エリーゼは、地図を広げた。
「東の村だけではありません」
「...」
「北の町、西の村、南の街」
エリーゼは、地図上の複数の場所を指した。
「すべてで、魔物の襲撃が報告されています」
「...」
「そして、目撃情報によれば」
エリーゼは、真剣な顔で言った。
「黒いローブを着た、魔導師のような人物が、魔物を操っているそうです」
「魔導師」
ガルドが、険しい顔をした。
「魔王の幹部の生き残りか」
「その可能性が高いです」
エリーゼは、アレンを見た。
「アレン、王から要請が来ています」
「...」
「あなたの力を、貸してほしいと」
アレンは、少し考えた。
「わかった」
「でも、アレン」
「大丈夫だ、エリーゼ」
アレンは、剣を握った。
「俺は、もう戦える」
「...」
「魔王の残党が暴れているなら、止めなければならない」
エリーゼは、悲しそうな顔をした。
「わかりました」
「...」
「でも、無理はしないでください」
「ああ」
会議が終わった後、私はアレンに話しかけた。
「アレンさん、本当に行くんですか」
「ああ」
「でも、まだ完全には」
「わかっている」
アレンは、窓の外を見た。
「でも、行かなければならない」
「...」
「俺は、勇者だ」
アレンは、私を見た。
「人々を守ることが、俺の使命だ」
「...」
「たとえ、完全に回復していなくても」
私は、胸が苦しくなった。
アレンの使命感は、理解できる。でも、危険だ。
「私も、行きます」
「何?」
「アレンさんが行くなら、私も」
「だが、危険だ」
「わかっています」
私は、はっきりと言った。
「でも、アレンさんが怪我をした時、誰が手当てをするんですか」
「...」
「この世界の癒しの魔法では、すぐに治らない傷もあります」
「それは」
「だから、私が行きます」
アレンは、しばらく考えて、頷いた。
「わかった」
「...」
「だが、絶対に危険なところには近づくな」
「はい」
翌日、私たちは出発の準備を始めた。
アレン、ガルド、リーナ、そして私。四人での旅になる。
リーナは、癒しの魔法が使える。でも、彼女も言っていた。「魔法だけでは、すべての傷は治せない」と。
だから、私の医療知識が必要だった。
出発の朝、エリーゼが見送りに来てくれた。
「アレン」
「エリーゼ」
「必ず、無事に帰ってきてください」
「ああ、約束する」
エリーゼは、アレンの手を握った。
「私は、ここで待っています」
「...」
「だから」
エリーゼの目から、涙がこぼれた。
「必ず、帰ってきて」
アレンは、優しく微笑んだ。
「必ず帰る」
エリーゼは、次に私の方を向いた。
「水野様」
「はい」
「アレンを、お願いします」
「...」
「どうか、守ってあげてください」
私は、頷いた。
「はい。必ず」
私たちは、馬車に乗り込んだ。
城門が開き、馬車が動き出す。
エリーゼの姿が、小さくなっていく。
私は、不安だった。
魔王の残党。どれだけ強いのか。アレンは、戦えるのか。
でも、同時に、決意もあった。
アレンを、守る。
絶対に、守る。
それが、今の私にできることだった。
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