第4話 加速

次に能力者だと分かったのは、意外な人物だった。


「ひなた、ちょっと走ってくる」


 放課後の校庭。

 あゆむはいつも通り、軽い調子でそう言った。


「また急だね」


 ひなたがそう返した瞬間、

 --あゆむの姿が、消えた。


 正確には、消えたように見えただけだった。


 土煙が遅れて舞い上がる。

 ひなたの視界が勝手に分割され、フライアイレンズが発動する。


 次の瞬間、あゆむは校舎の端に立っていた。

 息一つ乱していない。


「……え?」


 ひなたの声だけが、間抜けに響いた。


「やっぱり、見えてたか」


 あゆむは頭をかきながら近づいてくる。


「普通の人はさ、今の、気づかないんだよ」


 ひなたの胸が締めつけられる。

 あきとが言っていた言葉がよみがえる。


 --“見ること”から始まる。


「……いつから?」


「隕石の日」


 あゆむは即答した。


「足が軽くなったと思ったら、世界が遅くなった。


 走ると、全部止まって見えるんだ」


 加速。

 ひなたは直感的に理解した。


「……怖くないの?」


「怖いよ。でもさ」


 あゆむは空を見上げる。


「何も知らないままのほうが、もっと怖い」


 沈黙。

 ひなたは意を決して言った。


「私……光と、視界を操れる」


あゆむは驚いた顔をしたあと、すぐに笑った。


「やっぱりな。交差点の話、噂になってた」


 ひなたはぎょっとする。


「安心して。名前は出てない。

 それよりさ……」


 あゆむは声を落とした。


「隕石、普通じゃないと思わない?」


 ひなたの視界に、あの日の光の尾がよみがえる。


「落ちた場所、立ち入り禁止になってる。

 でも俺、速いからさ。ちょっとだけ近づいた」


「行ったの!?」


「途中までね」


 あゆむは真剣な目で続ける。


「クレーターの近く、時間が歪んでる。

 速くなる俺でも、変な感じがした」


 ひなたの背筋が冷える。


言葉が、自然と口をついて出た。


「この力が、なんで私たちを選んだのか。

 隕石の正体を、確かめたい」


 あゆむは一瞬黙り、そしてうなずいた。


「二人なら、きっと辿り着ける」


 夕焼けの光が、ひなたの視界で複数に分かれて輝く。

 その光は、これから進む道を示しているようだった。

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