第3話 夕方の公園

 その出来事のあと、ひなたはできるだけ人の少ない場所を選んで歩くようになった。

 また“見えてしまったら”どうなるのか、想像するだけで足が重くなる。


 夕方の公園。

 遊具は錆び、ベンチには誰もいない。


 ――ここなら、大丈夫。


 そう思った瞬間、視界の端がわずかに歪んだ。


「……来てるでしょ」


 聞き覚えのない声。


 驚いて振り向くと、ブランコの影に一人の少年が立っていた。

 ひなたと同じくらいの年齢。制服姿だが、ネクタイは緩く、目だけが妙に落ち着いている。


「隠れるの、下手だね。視線が揺れてる」


「……なに、言って……」


言い終わる前に、ひなたは気づいた。

 少年の目が、普通じゃない。


 焦点が、ひなたの“後ろ”と“横”を同時に捉えている。


 まるで、ひなたと同じように。


「隕石のあとからだろ」


 少年はため息まじりに言った。


「世界が、分割されて見えるようになったの」


 心臓が跳ねる。


誰にも話していない。言葉にすらしていない感覚を、目の前の他人が口にした。


「……あなたも?」


「うん。同類」


 少年は軽く手を上げる。


「俺は、あきと。能力は--“焦点操作”。見る場所を選べる」


 そう言った瞬間、少年の足元に落ちていた小石が、弾かれたように跳ねた。


 投げてもいない。ただ、見ただけ。


ひなたの喉が鳴る。


「……じゃあ、あの光も……」


「ああ。君、派手にやったね。交差点」


 ひなたは息を呑んだ。


「安心して。通報とかしてない。ただ……」


 あきとは真剣な顔でひなたを見る。


「一人で抱えるには、この力は重すぎる」


 沈黙が落ちる。


公園の木々が風に揺れ、その動きがひなたにはやけに細かく見えた。


「……他にも、いるの?」


 ひなたの問いに、あきとは小さくうなずいた。


「少なくとも、俺が知ってるだけで三人。

 能力は違うけど、みんな“見ること”から始まってる」


 ひなたの胸の奥で、恐怖とは別の感情が生まれる。


 --孤独じゃない。


それは、希望なのか。

 それとも、もっと大きな災いの前触れなのか。


 ひなたはまだ、知らない。


 この出会いが、隕石よりも決定的に、運命を変えることを。


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