第3話 ドロップ品は超高級品? ネットの反応がうるさすぎる

騎士が黒い塵となって霧散した石床に、いくつかの物体が転がっていた。  

一つは、親指ほどの大きさの赤く輝く魔石。

もう一つは、古びた銀細工の指輪だ。


「……はっ、初ドロップだ! これ、本物の宝物ですよね!?」


未央が目を輝かせて駆け寄る。

彼女のジャージは泥だらけだが、その表情には生気が戻っていた。  

レンは無造作に指輪を拾い上げ、目を細めて刻印を確認する。


「《守護の誓約》。重量制限を無視して、着用者の筋力を一定値まで底上げするアクセサリだ。序盤にしては上振れだな」


「鑑定スキルまで持ってるんですか……!? っていうか、しゅごのせいやく? なんですかそれ」


未央の困惑を余所に、レンは自分の指にそれを嵌めた。  

途端、スーツの上着が羽のように軽く感じられ、四肢に力がみなぎる。

ゲーム画面で数値を見ていた時とは違う、全能感に近い実感が全身を駆け抜けた。


「……悪くない。現実だと、こういう感覚になるのか」


その時、未央のポケットでスマホが悲鳴のようなバイブ音を奏で始めた。


「あ、あの! さっきから通知がとんでもないことになってて……!」


彼女が差し出した画面を見て、レンは眉を寄せた。  

そこには、彼が起動させたドローンが映し出すライブ映像と、猛烈な勢いで流れるコメントの嵐があった。


『今のパリィ、スローで見ても意味不明なんだが!?』

『あの指輪、付けた瞬間にレンさんの動きが鋭くなったぞ』

『っていうか、あの女の子誰? 羨ましすぎるだろ』

『【求む】新宿のパリィニキの正体。マジで何者?』


視聴者数は三十万人を突破し、なおも増え続けている。  

レンは画面から目を逸らし、ため息をついた。


「未央、だったか。そのスマホ、通知を切っておけ。集中力が削がれる」


「えっ、あ、はい! ……でも、これ世界中でニュースになってますよ!? 蓮見さん、有名人です!」


「有名になっても攻略の役には立たない。それより、この先の通路だ」


レンは城壁の奥、さらに深い闇が続く階段を見据えた。  

ゲーム『アビス・ソウル』の記憶によれば、この先は「毒の沼地」へと続く一本道のはずだ。だが、その壁の一部が、本来あるはずのない青い光を放って脈動している。


「……隠しルート?」


レンの口角が、無意識に釣り上がった。  

ゲームでは100%あり得ない現象。だが、現実のダンジョンとして顕現したことで、何らかの「バグ」か「仕様変更」が起きている。


「蓮見さん? そっちは行き止まりじゃ……」


「いや、こっちが『正解』だ。未央、死にたくなければ俺の足跡を正確に踏んでこい。一歩でもズレたら、足首から下がなくなるギミックがある」


「えっ、ひっ……!? 待ってください、置いてかないで!」


恐怖に顔を青くしながらも、未央は必死にレンの背中を追う。  

その姿を、ドローンは冷徹に映し出し続ける。


世界が固唾を呑んで見守る中、レンは「誰も知らないルート」へと足を踏み入れた。  


それは、現代社会の常識が完全に崩壊し、一人のゲーマーが世界の理を塗り替えていく序章に過ぎなかった。

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