第5話 主張の無い色の街

 商店街のラーメン屋に入った。


 丸みのある柱、凝ったクロス、大理石の壁面。ラーメン屋には似つかわしくない、どこかアール調の店内だ。


 思い出した。


 ここは以前、帽子屋だった。その後は帽子とカフェを兼ねた店になり、今はラーメン屋になっている。


 街の時間は、こうして折り重なって残る。


 商店街から、かつての専門店は消えていった。


 おもちゃ屋は赤基調の派手な色。

 お茶屋は深緑。

 和菓子屋は紺。

 帽子屋は深いグレー。


 今、街を包んでいるのは、クリーム色か白っぽい灰色ばかりだ。無難で、主張のない色。時代の流れだから仕方がない、と頭では分かっている。


 店内には、カフェ時代のカウンターが残っている。ただし人が座る場所ではなく、商品を置く台として使われていた。用途が変わっても、形だけは残っている。


 それでも、入れ替わり立ち替わり人が入ってくる。小さな会話が生まれ、短いやりとりが続く。


 この店はもう五周年だという。すっかり街に馴染んでいる。


 メニューは、塩、味噌、醤油、スタミナ。


 特別ではないが、どれでも受け止める日常のラーメンだ。


 街は変わる。

 色も、役割も、店の顔も変わる。


 それでも、こうして今日も湯気の立つ場所があり、人が集まり、会話が生まれている。


 それだけで、この街はまだ生きていると思えた。

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