第4話 深夜二時、背徳の記憶

 実家の近くに、ラーメン屋が増えた。数えてみると、七軒あった。


 学生の頃、この街のラーメンといえば、国道二号線沿いの象徴だった“二国ラーメン”しかなかった。


 昼ではない。深夜二時。


 ここでは味よりも、ギトギトの背脂を無言で胃に流し込む、その背徳感を友と食べていた。


 店の外では、夜風に混じって紫煙が流れていた。


 今は、選択肢はいくらでもある。


 きっと、どのラーメン店も、あの頃の二国よりうまい。


 それでも今の私は、あの時の二国も、今のラーメンも、どちらも欲していない。


 深夜の二国を、あの友と食べたいと思うことはある。


 ただ、それには少し年を取りすぎた。

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