第二章

少しずつ、生活は変わっていった。

 何かが壊れたわけじゃない。

 気づいたら、形が少し違っていただけだ。

 朝、起きる時間がずれることが増えた。

 目覚ましを止めた記憶が、曖昧になる。

 「今日、鳴らなかったみたい」

 そう言って笑うお嫁ちゃんに、

 私は「そうかもね」と答えて、そっと抱き寄せた。

 買い物は、いつの間にか二人でするようになった。

 同じものを、何度もかごに入れる。

 「だって、これ好きなんだもん」

 照れたようなその声が、可笑しくて、愛おしい。

 料理は、私が担当する日が増えた。

 ある日、包丁を持ったまま、

 「……あれ?」と小さく立ち止まる背中を見た。

 持っているから無いはずの包丁を、もう一度、もう一度と、確かめている。

 私は笑って言った。

 「今日はさ、俺の料理をお嫁ちゃんに食べてほしいんだ」

 彼女は少し不思議そうにしてから、

 「じゃあ、お願いしようかな」と頷いた。

 本当の理由は、やっぱり言わなかった。

 夜になると、少し不安になるらしい。

 「ねえ、私、ちゃんとここにいる?」

 静かな声で聞いてくる。

 私は頬に手を当てて、ゆっくり言う。

 「いるよ。一緒にいる」

色々変わってしまったけど、お嫁ちゃんと過ごせているただそれだけで十二分に幸せだった。

こんな日々が最後まで続くと思っていた。

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