1-4

無事に東郷から解放された姐さんを、車の中から窓越しに見る。


2人とも久々の再会のはずなのに顔が無なのは、似たもの同士だからなのか。


信じると言っていた。でも裏切られた。俺らが敵になると言った。

今の彼女を見ると、若に殴られた頬など痛くも痒くも無くなる。

まだ若いのに重たいもん背負わされて。


若に回し蹴りをし殴る彼女は、見たことの無い冷たい表情をしていて。

冷酷な若の表情を思い出し、やっぱり似たもの同士か、と苦笑いが出る。



「瑞綺さん、戻って良かったねえー」


助手席に座るひかるが呑気な声を出す。


「これで若もちょっとは元に戻ると良いんだけどねえ。凛が余計なこと言っちゃったみたいだから、幹部の俺らに飛び火してるのはご存じだよねえ??」

「はいはい、悪かったって」

「まさか、凛が若に喧嘩売るなんてさあ?呼んでよ。見たかったのに!」

「うるさ」


良かった。

これで良かったんだ。


恋と気付くには遅過ぎた。

純粋さに漬け込むには相手が悪過ぎた。


全て、偶然と運で動く人生。


もし、俺が先に出会えていたら。

そんな無意味なことを考えてみるが、今の魅力的な彼女を引き出したのは、紛れもなく若。


若に出会う前の彼女と出会っても、こんな恋心芽生えてなんていなかっただろう。

そうやって自分のうぶな恋愛脳を丸め込む。




運転手として、大学生になった彼女に会える貴重な時間。


『おはよう、凛太郎さん』

「おはようございます、姐さん」


この関係を続けたい。

その為に、若と幸せな人生を歩んで欲しい。

これは脳の片隅にある、隠した本音。


『新作だってこれ。どうぞ』


小さな手が運転席に伸びる。


「新作、ですか?」

『あぁ。バターチキンカレー味』

「……」

「ほら、言っただろ。そんな変なもん凛太郎は飲まねえよ」

『変とか失礼だろ!凛太郎さん、いらなかったら私飲みますから「カレー好きなんで頂きます。今日もありがとうございます。姐さん」


彼女の指に触れないように、缶を受け取る。


『ほらカレー好きだってよ。だったら新作は飲まねえと!』

「凛太郎、無理すんな」


2人の会話を背に、缶の蓋を開け口を付ける。





ーーー姐さん、この関係をずっと続けてくれますか。




「……っ、うぇ。まっず」

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