1-3

東郷要とうごうかなめのところに姐さんはいる。でも若は今女を連れている。この状況で何を求めてるんですか」


思ったことが脳で処理をされずにそのまま口に出る。


「あ?」

「凛太郎、今の愁にそういうことを言うな」


バックヤードから顔を出した春都はるとさん。


それでも止まらない。

止められない。

彼女がスカートを握り締めた手が震えていた光景が、忘れられない。


「姐さんを取り戻してどうするんです?謝るんですか?それで?次は?確かに東郷に何されてるかなんて想像がつきます。ですが……今の若に、それを辞めさせる権利が…おありなのですか」


ーーゴッ


吹っ飛んだ体。


「誰にもの言ってんだ?あ?」


倒れた俺に、怒りに満ちた若が近付いてくる。

だが、後悔など無い。


いつだか彼女と2人きりになった車内で、俺に言っていた。


『私、愁を信じ過ぎてるよな。でもちょっとでも疑うより、信じる方が断然愛っぽいだろ?これで良い。私が選んだんだ。でもさ、もし最悪なことが起きたら……春都さんも、凛太郎さんも………みんな私の敵になっちゃうのかな。それは…嫌だな…』


そう言った彼女に何も返せなかった。

俺が忠誠を誓っているのは、若だから。

その時は、彼女の見方をする、とは言えなかった。


でも今なら言える。


「俺、今なら姐さんを守ります。姐さん"だけ"を守ります。若でもなく、その女でもなく……姐さんだけを「黙れ」

「凛太郎、そのへんにしときなよ」


若が、俺の胸ぐらを掴み立たせる。


「知ったような口を聞くな。さっさと東郷の根城を探せ」


怒りというより、哀しみ。

そんな表情を浮かべる若は、目の下のクマが酷くて。


「なぜ…ひとりの女性を愛することができないんですか」

「ガキにはわかんねえよ」

「わかりたくなど…ありません」


その会話を最後に、barを出て行く彼ら。


「凛太郎、愁がどれだけ瑞綺ちゃんを愛してるかなんてわかってんだろ?それとも……お前も瑞綺ちゃんが欲しくなったの?」

「…っ」


水の入ったコップをカウンターに置く春都さんの言葉に、椅子に座り直す。


「姐さんに手を出そうなんて思ったことはありませんよ。…ただ、誰かのせいであの笑顔が消えるのだけは許せません」

「凛太郎にもそういう感情があったのか」

「若はあの女をどうするんですか」

「幼馴染で元カノだからねえ…。無理に突き放せないんだろうね。楓も瑞綺ちゃんを探してくれてるみたいだし」

「信用するんですか」

「まあ、楓のバックも大きい組織だからね。使えるものは使わないと、東郷個人には今は勝てないよ」


そう言い、バックヤードに消えて行く春都さん。

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