1-2
「姐さん、ブラック?それ」
若に連れられて、
向かい側に座る2人の会話に、スカートをギュッと握り締めるのが目に入り、静かに声をかける。
『そうだけど』
「大人だな。俺、砂糖無いと飲めない」
『へえ、意外ですね』
「大人なんてそんなもんよ」
彼女に向けた言葉は、いつもの堅苦しい日本語は無い。
気まずいんだろうな、そりゃそうか。
明るい笑顔で若に寄る彼女を睨む目が、隣から聞こえた音で視線が動かされる。
ーーガタッ
ーーピチャッ
『っつ…』
「っ姐さん、大丈夫か?すみません、お手拭き2枚ほどお願いします」
自分のお手拭きで、彼女のスカートを覆えばすぐに茶色く染まる。
『あ、ごめん、自分でやる!』
目に入った白い肌は赤くなっていて。
咄嗟に出たであろう彼女のタメ口に、こんな状況でも少しだけ胸が高鳴る。
お手拭き越しでも、触って良いのか分からず、冷静な言葉だけを口から出す。
「熱かったっしょ。赤くなってんよここ」
顔を見れば、少し歪んでいて。
こんな近くで彼女の顔を見たのは初めてで、心臓の音が速くなるのを感じた。
「凛太郎」
若の低い声により、俺は席を立つ。
短い時間だったけれど、俺にとっては長く貴重な時間。
ーーー嫉妬を向ける先には、若がいた。
気付きたくなかった。
最恐な男にすでに守られている彼女に恋をしている、なんて。
その後、瑞綺さんが消えたと本家に連絡がきて…。
数日、俺らの仕事を若が自ら片付ると言われ…。barで春都さんの手伝いをしながら、裏で情報を集める。
「何か、情報は」
久々にbarに顔を出した若。
…の隣に、楓という女。
その光景に熱くなる目頭。
「若。いつまで連れてるんですか、その女」
カウンターでパソコンを動かす手が止まり、唸り声が出る。
「あ?情報が無いならそう言え」
「愁、私、知り合いの情報屋の子に聞いてみるよ」
若の枯れた低い声に被さる、煩わしい女の声。
「何を考てるんすか」
パソコンを閉じ、椅子から降りて若を見る。
「何が言いたい」
俺より少し身長の高い狼と目が絡み合う。
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