狼と虎

珠子

少年Rの恋心

1-1

side凛太郎


『ただいま』

「あぁ」

「お疲れ様です」


姐さんが学校に行き始めて1週間。

逢沢あいざわさんが違う用事で忙しくなり、若の運転を任された俺。

今日も若と2人で待つ車内に、響く透き通った声。


『寒すぎ』

「スカートが短ぇんだ」

『うちの学校元からこうなんだって』


2人のこういう会話も慣れたもので。


『ほら』

「ーっっ!…てめえ」


ミラー越しに、彼女が自分の冷たい手を若の頬に当てるのが見える。

若の崩れた表情を見るのは新鮮なもので。


『冷たいだろ?ふはっ。……あ、そういえば、凛太郎りんたろうさん、これ』

「毎日すみません」


若に伸びていた手が俺に向く。

その白く小さな手には、コーンポタージュの缶。

送り迎えありがとう、と渡されるそれに無の感情が色付いていく。


初めて会った時は、クソ生意気なガキにしか見えていなくて。

らんを助けたなんて、どうせ若に近付くための嘘だと思っていた。


けれど、たまに見る彼女を見つめる若の鋭い目は、今までと違っていた。

冷酷で、女をゴミのように見る目はそこには無い。


若は、男女関係無く"罪は痛み"で与える人だ。

そんな周りから恐れられる若を、こんなに喜怒哀楽な表情を変えられるのは瑞綺みずきさんしか居ないだろう。


ーーー嫉妬、してしまうな。

どちらに、だろう。

どちらに、俺は嫉妬をしているのだろう。

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