第3話

とはいえ、晃太が悩んでいる理由なら見当がつく。部活のことであれば尚の事だ。おそらく、晃太は部活内で一人だけ学校所有のラケットを使用しているから、いじめでもあるのだろうだろう。あいつの言い方だとまるで、いじめではないように感じてしまいそこに若干の不安感が残る。というかあいつ、朝練をのぞきに行ったのかよ。そんなことはさておき、とりあえず第二体育館には着いた。このまま入れば明らかに怪しい人物だが、今回ばかりは仕方がない。ほんの少し様子が見れたら帰ることにしよう。


 練習を見始めてから20分ほどが経ったあと、私の感じ取ったことをまとめると、「何の問題もなくね!?」である。本当に何も問題なかった。いつも安物ラケットと文句を言っているのに、他の人と対等に渡り合っていた。何が問題なのかは明日あいつに聞いてみよう。


 朝、ただでさえ好きな朝なのに今日はさらに好きが溢れてしまう。なぜなら、今日はお母さんがいるからだ。朝ごはんとお弁当の支度をして、早速お母さんを起こそう。そして、愉快な朝食でも食べよう

「おはよう。あら、もうこんなに早くお弁当を。いつも何もしてあげられなくてごめんなさいね」

いつものごとく本当に申し訳なさそうに言った

「いいや、そんな気にしなくていいよ。お母さんはいつも頑張ってくれてるじゃん」

いつものような落ち着いた会話をしながら少し短い朝は過ぎていった。


 今日の学校、戸塚さんの姿はなかった。いや、それこそが普通の姿ではあるのだがどうしても昨日の話が頭から離れてくれない。今日一日ほとんど晃太のことを見ていたが、やはり何も悩みらしいのは見つからなかった。強いて言うのならば、数学の単元テストで点数が低くて、リアクション芸かとツッコミたくなるほどのリアクションを見せていたことぐらいだ。


 放課後、帰路についたところでポケットの中に入れたスマホが突然震え始めた。とりあえず自転車を端に寄せてスマホ画面を見たら、予想通り森さんだった。

「もしもし、夢灯さんのお電話でお間違えないでしょうか?」

「もしもし、森さん、どうかしましたか?」

「少し話さないといけないことがあると思ってね。これから少しだけ会えないかい。できれば若葉町神社で君も知っているだろう」

「かまいませんよ、30分ぐらいで着くと思います」

「じゃあ、先に待ってるから駐輪場の方探して」

まだ何か言いかけていそうだったが、先に電話を切られてしまった。

 結局30分もかからずに着いてしまった。その先には、この暑さの中で汗一つかいていない少し不気味な森さんがいた。

「早かったね。神社の方はもう少し涼しいから歩きながら話そうか」

さっきまでの不気味さが嘘のようなほど優しく、安心感のある言葉だった。

「それで、話というのは何ですか。とりあえず、戸塚さん関係だと思いますけど」

「それもそうだが、主にお化け全体のことについてだ。単刀直入に言うと何で君がお化けが見えるか分かったんだよ。お化けというのは認められたい存在だ。そのなかでも深い共通点と、相反するような特徴を持つ人間に認められたいんだよ」

「それが、俺だと」

「ああ、そして、バケルンがあなたに危害を加えようとしたときのために、対抗策を授けようと思いまして」

であれば関わらなくて済むようにしたいのだが。多分それはしたくないか無理なのだろう。

「そういえば、森さんは始めて会ったとき霊的な能力があるって言ってましたけど、あれはどんな能力なんですか」

「痛いところ突かれちゃったなあ。がっかりするかもだけど、僕の能力は対話だよ。君がいまバケルンとしているようにお化けと意思疎通ができるようになる能力さ」

一瞬普通のことのように感じてしまったが、お化けと対話なんて普通できるはずがないのだからこれが能力となるのは当然の話である。

「実はさ、お化けは自然には居なくならないんだよ。だから、49日までしかバケルンが居られないというのも風習になぞらえて僕が作ったマイルールさ。これは絶対だから49日を守るし、それまではバケルンのことも守る。危害を加えようとしなければ…。それで、祓い方教えとこうと思ってね。まあ、簡単なことさ。この先の神社にお祓いされた、たった10ページしかないノートがある。そこに祓いたいお化けのいいところ1ページに1つ書いて、それを見せながら褒めてやればいい、それだけさ」

突拍子もないことを一方的に言われた気がする。危害を加えないなら祓わなくても良いじゃないか。あれ、マイルールだったのかよ。そんな思いの中振り出すことのできた言葉は

「ありがとうございます」

だけだった。それから私は逃げるように家へと帰っていった。

 家に帰ってきて、夜に一人とても悩んでいた。選択肢などないと思って諦らめていた49日間に対していきなり。いろんな情報と選択肢が与えられてしまった。霊的なものは思っていたよりも厄介なものだったし。でも、避けては通れないからどうにか頑張ろう。まず、晃太の悩みとか分かんないままは嫌だからそこは解決してから考えよう。

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