第2話

朝、多くの人は嫌いかもしれないが私はかなり好きだ。新しい日の始まり、昨日一日のことを忘れることができる。昨日出会ったお化けが隣にいなければ。

「どうして俺の部屋にいるんだよ。大体、昨日の夜はいなかったし俺の家知らなかったろ。」

「だって、うちは忙しないのに辛気臭いんだもん」

「その原因が文句言うなよ。それに、なんで家が分かったか説明してよ」

「フッフッフ…それはね、夜暇すぎて散歩してたら、たまたま貫通したら夢君の寝室を見つけたのさ!私はラッキーガールだね」

「散歩で人の家貫通するな。というか建物貫通できるのかよ。昨日歩いてるように見えたからてっきり貫通とかできないと思ってた」

「いや、お化けなめすぎでしょ。全然飛べるし貫通するよ」

「一昨日なったやつが偉そうに言うなよ。というか、じゃあなんで昨日飛んでなかったの」

「それは。せっかくまだこの世界にいるなら、その空気感を少し楽しみたかったんだよ」

朝から声を荒げすぎた。まだ、今日は親がいないからまだ良かったが、明日もこのテンションはついていけない。

「というか、夢君の親は?」

「今日はいないんだよ。多分、まだ仕事してると思う」

「そっか、」

カーテンを開ける気力がなく敷布団だけ片付けて、そのまま朝の支度ができたところでふと思った。

「建物貫通できるなら俺の協力いらなくない?」

「たしかに。でも、寂しいというかなんというか。昨日はさ、みんな生き生きしてたから、すべてに興味なさそうな実質死んでる人がいたら安心感あるし」

死んでも変わらない、言葉のなかに潜む失礼さに懐かしさを感じながら黙って家を出た。


 いつも7:40には家を出ていたのに15分も遅れてしまった。それに、学校に着いたのはいつもより20分も遅れた7:30だった。

「まじで、暑すぎだろ9月の暑さじゃないだろまじで」

いつもは、俺よりも遅く来る後ろの席の晃太に声をかけた

「まじでそれな。ワイシャツびちょびちょだよ。地球温暖化がよー」

大きな声で嘆くようで冗談目かしく晃太は言った

「てかさ、あれ知ってる?隣クラスの戸塚さん自殺したんだって」

「俺も噂程度だけど昨日聞いたよ。そっか、晃太は昨日休んだから知らないのか。でもさ、誰が言い出したかわかんないの怖くね」

「でも、仲いいやつが最近戸塚さん悩んでるって言ってたし。噂によると、ここ一ヶ月ぐらい心ここにあらずって感じだったらしいし」

本当に噂には尾ひれがつくものだと肌で感じた。よく噂には尾ひれがつくいうのは、特にそういう例が出されているだけだと思っていたのに。こうともなればなかなか否定しにくいものだと感じた。でも、殺人だとか過激なものをイコールで面白いと結びつけて、そんな噂に発展しなかったことはうれしいとも感じた。


 8:40ホームルームで先生がいじめアンケートを配った。まだ9月中盤、いつもは月末にやっているので、多くの生徒が違和感を覚えたに違いない。あと、黒板の前で先生に貫通しながら爆笑しているやつが目障りで仕方ない。

「いやー、面白いね。納得感だけはあるけど、普通に的外れすぎだし」

「無理してない?」

「なにが」

少しムスッとしたようにして彼女は言った

「ただ、周りの変化が見たいのに噂にとどまって、変化は大きくなくて、つまらないかと思ってな」

「つまらないと思ってるのはそっちじゃない?私は変化がないならやること探すために、いじめアンケートの結果でも盗み見しますかね」

まさか自分の考えが読まれていたとは思わなかった。それに、思ったより前向きだし。それはそれで面白そうだからいいけど。

教師陣は特に変化はなかった。生徒の方も昼休みに女子の中でも陽キャのグループがいつもより騒がしく感じた。まあ、いつもより話を盗み聞こうとしているからかもしれないけど。放課後は本当に何も変化を感じなかった。一部のやつら以外は。

 唐突に壁から黒いモヤが現れた。すぐに正体の察しはついたが、正面からこちらに手を振りながら走っている男は見当もつかなかった。だが、空気感ですぐ分かることになるこの男は霊媒師だ。

「お~い。連絡先聞きそびれたから教えて」

やはりうるさい

「1回落ち着いてください。連絡先ぐらいすぐ教えられますから」

制服を着ているのが違和感でしかない。というか高校生にしては老け顔すぎでしょ。20代後半ぐらいだと思ってたのに最大1歳差だぞ。

「仲いいね〜お二人さん。希少な能力同士、惹かれ合うんですなー」

「壁から出たり入ったりしながらしゃべるな。あと、なんだそのキャラ。マジでお前から聞いたことないぞ」

「僕から見たら仲いいのは2人の方だよ。初めての経験で混乱してるだろうに、僕の協力もいらないかもね」

「こいつと2人だけはきついですって。というか、この学校の生徒だったんですね。ちなみに俺は高2です」

「俺等って言ってよー。冷たいな〜」

「きっと夢灯君もどう言えばいいか悩んでいたんだと思うよ。僕は今高3だよ。君たちの1個上だけどあんまり気にしないでね」

戸塚さんの方を見ながら言っていた。こんな壁に挟まって遊んでるお化けは見たことがないのだろう。

「そういえば、2人は周りの人の変化をみたいんだっけ。何か変化はあったかい?」

私たちは二人して首を横に振った。

「だったら、お葬式が終わるまでは親御さんの近くにいてあげたほうがいいよ。霊媒師だからあまり葬式をよく分かっていないけど、近くにいてあげたほうがいい」

すごくまともすぎるし、声も言動も落ち着きすぎている。それに、この人の真剣な目を初めて見た。だが、当の本人が真面目に話を聞いていなかったら意味がない。


「たしかに言いたいことはわかるよ。それに正しいとも思う。けど、ほかにやりたいことを見つけた。今日ね、いじめアンケートの結果のぞき見してたら誰も何も書いてなかった。けど、学校の中潜ってたらアンケートに書けないだけの悩みなんていくらでもあった。愚痴とかで済まないやつが」

なんかすごい真面目な話をしている。しかも、これはお化けじゃ出来ないから丸投げするやつだ。

「つまり、いじめの調査するから解決を俺等にしてほしいってことか」

受験生をこんなことに巻き込んじ待っていいのかよと思いながら手伝ってくれそうだから黙っていた。

「そゆこと。死人に口無しって言うけど、あったらあったで断りにくくて大変そうだね〜」

実際そうだ断りはしない。だが、釈然としない。

「黙ってるって事はいいんだねありがと。じゃあ、まずは夢くんの友達の晃太くんからかな」

「は?」

黙っていただけで承諾したことになってることよりも、晃太が悩みを抱えていることに驚いた。そして、このおちゃらけたやつが嘘をついていなさそうなことが何よりも私を驚かせた。

「分かった僕もできる範囲で協力しよう」

「ちょっと待て、晃太は何か悩んでるのか。」

「そうだよ。部活関係だから夢君は知らないだろうけど。夢君は晃太くんを考えが浅いって見下してる節があるから、悩みなんて想像つかないでしょ」

「的を射たこと言った感じ出して気持ちよくなってんじゃねえよ。それよりまず悩みというのを聞かせろ」

「まだ確証があるわけじゃないから明日にして。できれば自分の目でも確かめてほしい、森さんも」

「分かった。…しかし、僕は君を何と呼べばいいのか聞いていいだろうか」

「今はお化けだし バケルンで、お願い」

「話はまとまったし確かめたいこともあるから、とりあえずまた明日な。今日は自分の家にいろよ」

「バケルン、何かあったのかい?」

という森さんの話が聞こえたが、いまは放っておこうと思う。今日は、母親が家に帰っているから少しだけ気合を入れて料理がしたい。だからどうしても一分一秒が惜しいが、晃太も心配だからどっちもこなしてやる。

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