第5話
「お願いです、来てください。アナタはこの世界できっともっと、すごい冒険を求めている。僕には分かるから……、アナタと同じだからです」
「同じ………? そう……、いったいアナタは何を、つまらない戯言(ざれごと)では私は」「アナタは勇者に相応しい人――」
少しアニメの見過ぎだったろうか、心に響いたの。しかし私はまだ、「でも僕はソレを超えれます、アナタ以上の勇者になれる。僕はそうなるべき力を感じとってるから、間違いないんだ」
さぁ、では行こう―――。
行きましょう―――――。
その時ふいに光が差した、埃が陽に焼けて光る。たなびくそのフードの中の少年は、それはまだ小学生に近いかもしれない。
体が出来上がらずに柔らかい流線型を描く姿。顔はきっと美青年になるだろうと、でも美男子という言葉は出てこない、何せ柔らかそうだもの。人が良さそうで。
あどけなさは幼い子供には大体あてはまるが、ただでも……。彼がもう少し大きかったなら、そして私がこんな30歳を軽く超えるような――。
まぁ……、恐らく東の人間なのだろう、それは黒の髪に黒目。だが肌は白い。
大きな瞳で彼は手を伸ばすから、本気をみなぎらせていて、「初めて、器を感じます……。さぁ掴んで未来を。辛いかもです、アナタは幸せになれないかもしれない、何せ大きな力だから……」
その手がなんとなく怖くなった。オーラが違う、とてつもなく大きな事をしようとしている気がして。私は大人なのだ大人で……責任があってだ、準備と決断は一致しなければ「それでも器ではあるから、そのアナタの心で導くしかないんです……。命懸けで行きましょう、二人で共に」
師匠―――。
やっと触れる手。触れてしまう。だがその時おかしくなって、その目の前の方向にはモンスタで空――?
「お前……ルチャード・カルマス! お前のせいだぞ、オマエのせいでぇええエエ!?」
同時に叫んだのは馬車の御車、ウマのいななき、でも誰もが即座に分かったのはただ……その遠心力だけ。
それはわざとやって、全てをひっくり返すような「ぎゃっ?!」「キャアアアア!?」
がしゃん、ガララららぁあ!
きぃ……、きぃ……――。
「はぁ……はぁ……、ハァ……!? お前のせいで落ちた……、あの子は全てをかけていたのに、ぐぅぅ……。お前のようなヤツは地獄に落ちろ――落ちろよ落ちろォ――ッ!」
そう叫ぶとウマで逃げていくのだ、そのモンスターの中へと私達を振り落として。唖然とする。相当な量のモンスター達がやって来ているの、馬車は転覆状態で試験は……弟子達は。
「おぃ何をしてる君!? それはケムリ玉だろ」「ふん、まずは逃げりゃ良いんだろが、見えないようにしてよう!」
そう言って投げてしまうルチャードは。
一面に広がるケムリ、それは確かにあの最強のルチャードにとっては楽な手段だったけど。実力で一点突破する気だろう、でもこのままでは弟子たちの中には振り落とされ間に合わないのがいる。
これではどこから襲って来るのか分からないわね……、そうして何よりも御車が逃げ出してしまった。立て直すには時間がいるから――。
「そう……、仕方ないかしら――」
ルチャードがついでにと、あの御車を狙ったナイフの投擲、それを私が阻止しため息を吐く。白の髪の毛を直し、「まぁそう……、先に行ってて欲しいの、弟子達よ。ここは私が責任を取るのだから」
笑顔で剣を抜く、テキパキと指示する「では良いかしら? ルチャードを中心にスキルで車体を回復しなさい、私が全ての敵を誘導するから、その間に全員で走り抜けるのよ……っ」
反射的に実行してしまう者も、ただ多くが首を振った、止めようとするけれど。でも弟子を懐柔させられなかったのは自分の責任だ。そういえばこういうの慣れてたね……、私。
まずは一匹目を処分、2匹3匹4匹、ほら……こうすれば私だけが見やすいでしょう? 煙を切り裂き私の周辺を見せる、その間に後ろに回ろうとしたのも――。
「はぁァ!? そんなのする必要ねぇだろう、俺らは走って間に合うだろうに。どうせ弱っちいゴミだろうが、そんな手間意味ねぇよぉ!?」
「でも誰もが恵まれていない……。そう、この中には一度しか受けれない者が多いの。チャンスは捨てさせないのよ、師匠として――」
「オィ待てよ……、それって、本気で行かないつもりか? でもオマエは家があるだろう、何せ貴族になれるんだっ、商人だし相手してやってんだゼぇ!?」
歩いて来る、こんなゴミをちまちま育てたって意味ねぇんだわ、良い加減――そのとき剣の切っ先が向かう、「そう、口を慎めと言ったのだから――。元とは言えワタシの可愛い弟子を愚弄する事はならない……。アナタは弟子の中では今最下位よ、ルチャード、私に特別は存在しない――」
その本気の目にさすがにルチャードが後退、イライラとツバを吐く。だが……「あぁお師匠さま……っ、確かにありがたいです、でもダメです……駄目だ!」「そうだ、確実にアナタが間に合わない! 俺らの希望なのに――」
そうだぜぇぇ……ありえねえわ――。下民ふぜいの為に、なんだったら実力で放り出してやろうか――。
何人かはもう車体の回復に向かっているけれども、さすがに重すぎるか。泥にハマった様子、だがこれを直さねば大半が間に合わないだろうと。疾走系のスキルはまだ彼らには早いから。
私はトカゲを更に7匹、8匹切断。どんどん湧いてくる。恐らく周りのモンスター達もすぐ――「そう……、ならばルチャード? でももしあなたがね……、代わりにやるのならば認めます。弟子としての破門要件を失くしてあげても良いから」
対照的に彼は金持ちだ、だがその言葉に薄ら笑い。むしろ走り出すのだ「くっ……、良いぞ。じゃあ僕がやります、僕が戦うから――ッ!」
ふいに幼いのが私を引き留めるのだ、そのトカゲに体当たりして道を開けて、「それで僕は必ず間に合いますよ……、テストを受けます。だからアナタは待っていて欲しいと――」
そう言うと一人だけ降りて駆け出して行ってしまう少年。剣を欲しいという彼に弟子の一人が投げた、ただ……私も投げてあげるのよ。それは私が使う予定だった物で。
「あぁ……大事にします、ありがとう!」
そうして聞こえる獣の声、あれに捕まれば間違いなく馬車なんて起こす暇はない、「でも僕は、アナタの為に帰ってきますからっ……。それにむしろ良かったんだよ、だってアナタはきっとこれ位しないと話も聞いてくれないから」
その言葉に、目で追うのもやめる。なんとなくだがコレが必然なのだと、そう感じていたから。
勇者、勇者ね……。そうして駆け出す、彼以外で。
あの人に特別は存在しない、か……。そうか。剣で立ち向かう、彼女を見守って。
そして駅で待った……。
「師匠、もう少しだけ待てるかだけオレ、掛け合って来ますよっ!」「えぇ私もです……っ。でもあの子も運がないよ、テスト開始が遅れないなんて滅多ないのに」
元弟子たちは気を使い、差し入れをくれるの。
「ふん――、あんなガキどうでも良いだろう、あぁウゼ……。いつまで待つ気だ、こんなの走れりゃ間に合う」ふわーーぁ。
「アナタのせいなの、少しは反省したらどう?」「何言ってんだよぉ……、逆恨みも激しいんだわ。下民のケツを下民が拭いたぁ……へへ。だいたい強いのを守るのは当然だろうに、そうしなきゃ世界が困るんだぜぇ……っ」
ナァ そうだろうが――。ぺっ。
とりあえずぶん殴っておく、申し訳ないが、殴らないという判断をこの世界で下すのは良策ではないから「そう……。でも遅いかな……」
彼は希望を語った、世界の広さを、諦めないと。
だがそうして最後の鐘がなる、その時……。
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