第4話

「おっしゃぁア! どうよ~、オマエの男はきっちりと果たしてやったぜっ……。こーんなザコども片手一本で優勝だってんだ!」

「そう……、ルチャード? 自信過剰すぎるのは良くない。あと何より師匠と呼びなさいと、大体何故あなたは行かなかったのか――」それはカオが良く、筋骨は隆々。貴族にして領土も広くて清潔感があって一説には王ではなく勇者の血を引いていると噂の男をのけて。


 私はその落選してしまった少年を見やる。実力はあった、だけど恐らく、「あの時に攻撃していればなんとかなったわね、決められたバディの前進を無視した理由は何かしら?」

「いや……へへへ。行くわけねぇわ、だってかなり汚れるんで~ぇ?」

 その貧相な身なりの少年を見下す、明らかに馬鹿にして、あとその特有の圧でもって「大体俺らの仕事じゃないっしょ、アレとじゃ住む世界が違うわ、なんせコッチは貴族だぜぇ?」


 あまり言う事を聞かず、人をよく見下す、態度と腕力でねじ伏せるのを楽しむ。

 だがこの手の人間を弟子にする事は少なくなかったから。悪びれることなく緑の髪を切って整えるカレは、かなりの能力。確かに将来性も感じてるの。


 この15という年齢で既に12レベルだ24歳相当。スキルも既に抜群、あと何より非常に高い数字の並び。


「なぁ? 一緒に行くんだよなぁ? 中央によぉ、色々楽しみだよなぁ」

「そう……、そうね」「ところで初めてなんだよな? な……?」

 そう言って無理に肩を組もうとする筋肉を跳ねのけるが、それでも撫でて来て胸を……、「全てから選り抜いたらやっぱ俺だよなぁ~、やぁっとオマエは俺に振り向いたわ。アンタの親父も泣いて喜んでたぜぇ……?」

 肩を、その白い首筋を。


 かなりの権力者だ、ただの試験に3人もの護衛をつけると言い出すほどの、「やっぱ貴族が良いよなぁ? 子供もバーッチリ貴族だわ、実力者だって聞いてたけど、ふへへ。あーんなゴミとはちが」

 私は無理やりその大男の頭を掴んで、終了の礼をさせるわ。「そう……、口を慎みなさい……、オマエじゃないの、師匠ヨ――」

 そのまま馬車へと歩いて行くの、あまりの力にアレは驚いているが。


 これから更に試験だ、最も偉大なる学府の一つへと続く道。

 小中一貫での9年+1が終わり、高校としての実戦研究に入る訳で。ここからは本当の選ばれし者の学び。

 そこへ編入してくるのはやはり貴族が多いけれど、選り抜きの民衆も多くなるし何より顔パスをほぼ期待できないの。これでこの国では極めたという目安でもあって。


「そう……、今から審査するのは大人であって、そうして中央からわざわざ派遣されて来た方達なのよ。舐めた態度で行くと痛い目みるからルチャード――」

「まぁ、でも?上級貴族だしぃぃ~? なんとかなるだろ~~。大体最強を通さないなんてねぇって、ナァ、実力ってそういうんだろうよ――」

 まぁ、、、その通りだろう。


 その180センチは下らない筋肉の塊と距離を取る。無表情で肩を抱こうとするのを払いのける、覚悟はしていたけれど……。

 本当に色々思案しなければならない相手。

 そのまま私は長い白をなびかせて黙々と馬車につけば、だがしかし数人が止める。それが一気に私に向かって来てたから。


「お師匠様、お久しぶりです! 遂に職業訓練に至るのですよねっ」「そうそ、待ってましたよ~私達ぃっ……。私の結果以上に楽しみにしております、お師様のこれからの事!」

「んふ……、そう……? アナタ達も上手く行ってるみたい、良かった」

 予定していた顔ぶれの壮健さに嬉しくなり、うなずく。何せ振り落とされれば雲泥の差だ、普通の冒険者の道と学生として励めるかどうかと。


 他の地区の予選会、その者達も私が育てた弟子だった。この街のレベルはやはり高い、他の町からの参戦者を駆逐する勢い。レベルが2や3も違えば必然でそうなるの。


「でもそう、そうなの……。やはりあの子達は直接ギルドなの、残念ね――」「仕方ないですよ。それでもお礼をって。家族に反対されたけど弟たちに畑を残せる準備ができたと」

「そう……、カルナ、良かった……。人生を生きるのね」

 小さな石を受け取る、その青く澄んだ物をかざし、「それで予定してた者は頑張った子ばかりかしら……? 安心しましたよ」


「えぇえぇ、やはりアナタのお力あってです。感謝しています!」「そうですよ~、姉さまがシゴいてくれなきゃ危なかったぁ。地獄の日々でも私は今すっごくすっご」

「なんだぁ? 邪魔だぞ。このチンケなのはさぁ、弱っそ~~~に。おら――、一番偉い弟子だぞ、ドケよ」

――。

――――――――。


 そう……、まぁ、王都まで行って名声を上げる、それが第一。


 さすがに次の目的地は師匠たる私でも身構えているの。この国の全ての名門子女たちが通う養成機関、それは正に国の根幹たる物で。ただそれでもまだ第2の転機という程度だから。

 まだたったの15歳。ここからが出発、馬車がゆっくりと……。


「すいません、待って……、待って下さぁぁい! はぁ……っはぁ……っ、僕も乗りますからっ……、だからお願いだ待って、」うぅぅ。

 幼い声。走って手をかけ乗り込んできたのは見慣れない少年。フードを被ったまま。

 少しざわついたが、その少年が見せた代表バッチは本物で「そうかよ……、彼が1枠を――」


 そのまま馬車を発車させる、ゆっくりと、そして確実に動き出した。マグリナは駄目だったのね……。

 だがしかしあまりに狂暴な乗り心地と聞いていたのに、さすがは魔法世界。きちんとソレ用のしかけがしてあるらしいのよ。そこそこの快適性を持って運んでくれていて。


「そう……、思ったより早くつきそう。余裕を持って現地に向かう、それでこんなに相乗りになるなんて」

「いやいや~、実はコイツ、貴女を待っていたんですよ、アナタが来るまでず~っとねぇ」「い、いや違う、違うよ!?」

「じゃあなんでぇ……木にわざわざ登ってから小便してたんだよ、明らかに試験官が疑ってたろ。良いポジション探します~って、あり得ないって」

「い、いや、あれは……その。だって久しぶりだしさぁっ……、ダンジョンに籠ってたし俺は、だから単に皆とだわ……全員と会いたかったんだよぉ!」「絶対ウソだぁ~、君は昔から師匠の事ばっかじゃないの」

「ふふふ……そう、ありがとう。嬉しいわよステイ」

 笑顔にはにかむ。同年代というのはやはり感じないかも。


 いやっほぉ~~、オラのろまども、くらえぇえ!「ルチャード……おやめなさい。子供みたいな事しないの――」

 現在の弟子は石を投げてぶつけてる、それは川トカゲという2メートル程で、この世界では小さ目なトカゲだ。十分に人を殺せるけれど、まぁ負けないだろう。

私の言葉にも聞く気配がない、投げ続けている様子。すると飽きたら無造作に。


「あのさぁ、なんでお前ら偉そうな訳ぇ?」

「ん? あぁいや、どういう事かな」「普通さぁ、貴族が乗ってきたら降りるだろうに。お前らみたいなのと一緒にいたくないわけよ、ほら、降りろよ――」

 そう言ってふいに首根っこを持ったのを私が即座にはたき落すから。笑って冗談だと言っているがやりかねないのがこの……。

「ルチャード・カルマス3世――。確か貴族のお子さんなんですよね」「えぇ、さすがと思いますよ、アナタが弟子にしたならば他が安心できるんだ」


「ただ……、でも大丈夫ですか、お師匠さま。ホントにこのままで――」

 その言葉にうなずく。まぁ何せ2人セットとして帝都へと向かうのだから、あんな大きな子供と寝泊りして、そうして何よりあの家をかわし続けるのはかなり困難だろう。

 少しツノを表し過ぎたかしらね……。


 だけれどもアレをほっておくのも問題がある、何せルチャードはいずれ貴族なのだから。


 するとそのまだ小さい、名も知らぬ、ここで誰よりも若いだろう少年が声をかけてくる。


「アナタはあの男と知り合いですか、でも、私と一緒に行きませんか……」

 まぁそう、こんな事は日常茶飯事。私の顔を見てすぐに馬車から飛びおりる男も珍しくなくて、時折女でさえ別の顔を小1時間見てたりもする。

 か細い声だが、それでもそれは……。


「そう、いいえ、少年くん? 私は師匠だもの、そう……あの男としっかり契約した師弟なの、分かるかしら」

「悲しい事を言わないで下さい、アナタがあのような男の師匠などと……っ。アナタの価値が下がってしまう、どうか……恐れないで――」

 その真剣な目は、さすがに相手をするしかないなと思わせた。この狭く暗い馬車の中で彼は腕を伸ばして私の手を握った、力強く「おやめなさい……」

 その手をすぐに払う、当然だから。


 そうしてしっかりと目を見れば、それは威嚇だ、何せ私の弟子を馬鹿にするのだから。だが。「いえ……でも駄目です。どうしてもアナタは僕と一緒にいて欲しいんだ。僕はこの王都行きに賭けているし、そして何よりだって……」逆に、その背負った瞳に気圧されるから、初めてだ。


 この世界でもこんな……、むしろ前の世界で親からすらもゼッタイ……「アナタは僕以外は選べないと思えるからです。それはアナタの人生なんだ、僕以外を選べない、絶対だ……ゼッタイなんです」

 ふぅ……、ふぅ……。

 だけれども言葉だけならそう、今までそんな程度もいくらでもいて、何せこの世界は適当なヤツが多すぎて、そんな色恋程度で……本当に、彼のその眼はでも、「うっへぇ、きもぉ~~。オラオラ、どうしたトカゲどもぉお!」


 そのバカな言葉にわたしは白の髪の毛を整えたわ。魔物たちは走って来るけれど馬車の速度には勝ててない。


 揺れる車の中、弟子たちもいる、でも何故かそのときは静かだったと……。砂塵を被ってもその子は何度も何度でも手を取ろうとして……。

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