愛憎の卵

　手術中を示す赤いランプが点ってからもう8時間が過ぎようとしていた。

　シノは手術室前の廊下で幼なじみのジンの手術が終わるのを折紙の鶴を折りながら待っていた。

　紙が翻り折り畳まれる微かな音も静かな廊下ではやけに響いた。

　神社にもお寺にも、普段全然行かないけれど教会にだってお願いしにいった。

　自分にはそれくらいしかできないから。

　最後に選んだのが千羽鶴だ。

　手術が始まって、終わるまでに千羽折りきれたなら、絶対手術は上手く行ってすぐに元気になる。

　これはそういう願掛けだ。

　糸で繋げている余裕なんて無い。

　折ったそばから脇に置かれた鶴はとっくに病院のベンチから溢れだして床に落ちてしまっていたけれど、シノは一心不乱に鶴を折り続けた。

「999……あと、1羽！」

　三角から四角に、四角からひし形に。

　折り畳んでは広げて、羽と頭に。

　最後の1羽を折りあげシノはおもむろに手術室のランプを見上げた。

　ランプは消えていた。

　いつ……いつ終わったの？　間に合ったのだろうか？

　ジンは？　ジンはどうなったの？

　シノの心臓はどくんどくんと緊張に脈打った。

　連絡を受けたジンの家族も待合室からすぐに駆けつけてきた。

　やがて執刀医が手術室から荒い息で現れた。

「ジンは……！？　手術は上手くいったんだよね！」

「先生……息子は……！」

　執刀医は神妙な面持ちで口を開いた。

「落ち着いて聞いてください……ジンさんは……グワアアアアア！？」

　ガアアアアアン！！

　突如手術室の扉が内側から勢い良く開いて執刀医を背後から襲う！

　――ニンジャの襲来だ！

「ニンジャだ！　ニンジャが出たぞ！」

「ニンジャだぁ！　出あえ出あえ！」

　手術室の中からわらわらと黒づくめのニンジャの集団が飛び出してくる！

　どこからか白衣の医者やナースがぞろぞろと現れ応戦！ニンジャとの激しい戦いが始まった！

　聴診器がニンジャの手刀を受け止めカルテのファイルに手裏剣が突き刺さる！

　大御所ナースは点滴スタンドを薙刀のごとく振り回してニンジャをまとめて吹き飛ばした！

　強い！　ナース強い！

「ニンジャめ！　これをくらえ！」

　シノも負けじと折鶴を素早く投擲！

　命中したニンジャがもんどり打って倒れたがニンジャは後から後から手術室から現れる。

　ジンの家族を背の後ろに護りシノが折鶴を構えてニンジャを睨み付けていた時だ。

　ニンジャ達は厳かに手術室の扉を手で支えた。すると中から荘厳なるニンジャ装束を纏った中学3年生ジンが手術台ごとニンジャ達に運ばれ現れたではないか！

「フハハハハ！　俺様ちゃんの内なるニンジャは手術如きでは押さえられないのだ！」

「ジン！　まだそんなこといってるの！？　もう……中学3年生なのよ！　チュウニは卒業なのよ！」

「フハハハハ！　シノ！　俺と付き合え！」

「ジン！　シノちゃんが困ってるじゃない！　いい加減目を覚ましなさい！」

　覚ましなさい！

　さましなさい

　なさい

　さい

　……

「ハッ！」

「ジン！　良かった！　手術成功だって！」

　手術後、病室で目を覚ましたジンにシノが涙を浮かべ笑いかけた。

　枕元には千羽鶴と……折紙の手裏剣が1つ置いてあったとさ。

　ニンニン。

　こちらはサプライズニンジャ理論(これは私が考えたのではありません！)に則った作品になります！

簡単にいうと……物語の途中でいきなりニンジャが現れて登場人物達と大立ち回りを演じる……という展開の方が自分の考えた展開より面白い場合そのシナリオはまだ改良の余地がある―みたいな理論です。

ただし、物語に突如ニンジャが出てくるのは提唱者の方も面白いことだと認めてるのでそれを前提にした理論でもあります。

うん、ニンジャは面白いからね。

詳しくは調べて見てください。