ネペンテス

───そこに、存在しているだけ。


お気に入りのカフェで、

ブラックコーヒーを飲みながら、

好きな本を読む時間が、僕は好きだった。


僕を見る蝶たちの目は、いつもうるさい。

どこにいても、逃げ場はなかった。


学生時代も、会社でも、ジムでも。

電車の中でさえ、

僕は品定めされ続けてきた。


誰かは僕を「罪な男」と呼んだ。


けれど、

僕は何かをしているつもりはなかった。


会社では、仕事をしているだけ。

ジムでは、トレーニングをしているだけ。

電車では、ただ座っているだけ。


——本当に、それだけだった。


だから、このカフェが好きだった。

落ち着いた空間。

美味しいコーヒー。

騒がしくないBGM。


そこで読む本は、

家で読むより、少しだけ楽しかった。


ブラックコーヒーは、

苦いけれど、余計なものがない。


ただそこにあるだけの時間が、

僕には必要だった。

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