ムラサキシジミ
あなたは、ドストエフスキーが好きなのだろうか。
ロシアの作家なら、プーシキン、ゴーゴリ、レールモントフ。
そのあたりかもしれない。
トルストイは——あなたは好まなさそうだ。
そんなことを、ぼんやり考えながら、
私はいつものようにカフェへ向かった。
カフェの近くに差しかかったとき、
向かい側に、あなたを見つけた。
「そんなに、かっこよくないですよ」
ああ、ココアの子ね。
あの子は、いつもあなたを欲しそうに見ていた。
あなたが興味を示していないことに、
気づかなかったのだろうか。
——私には、関係ないこと。
そう割り切って、私はカプチーノを頼み、
いつもの席に座った。
ほどなくして、あなたが入ってくる。
いつものように、ブラックコーヒーを頼み、
そして——私の隣に腰を下ろした。
今日は、何を読んでいるの?
またドストエフスキー?
それとも、別の作家かしら。
あなたの顔立ちは整っている。
けれど、ロシアにルーツがあるような
あの独特の骨格のバランスではない。
留学経験でもあるのだろうか。
それとも、ただの趣味?
そんなふうに考えている自分に、
私は少しだけ驚いた。
気づけば私は、
あなたそのものではなく、
あなたの背景に心を奪われていた。
ブラックコーヒーの苦味と、
カプチーノの泡。
その境界線で、
私はまだ、安全なつもりでいる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます